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2014年
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2013年
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11月:1,2

2012年
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5月:1,2,3,4
6月:1,2,3,4
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9月:1,2,3,4,5
10月:1,2,3,4
11月:1
2013.9.2(月) イタリア(ローマ)
夜にドラマ鑑賞

 写真整理、日記更新、イタリア語学習。その後、腹筋ローラー、ウォーキング、夕飯用のフルーツ購入。アパートに戻ってから夫の散髪、シャワールームの掃除、シャワー、絨毯の掃除(週末、ワインこぼしちゃったんだよね)、写真整理。

 そして日本のドラマ鑑賞。

 「名もなき毒」「夫婦善哉」「Summer Nude」。夫婦善哉って昔からタイトルだけ聞いたことがあったけど、今回リメイクされて尾野真千子さん主演で初めて見ている。第二話の今回は1930年頃の大阪を舞台に描かれていた。今夜見た他2作品は現代日本が舞台。80年以上前の日本人男女のあり方と今のあり方を見比べる事ができて面白い。

 夫婦善哉は、大阪のボンボンと貧乏育ちの芸奴が駆け落ちして、辛苦を乗り切っていくという話だが、今の所辛酸を舐めさせられているのは妻ばかり。原因である夫を激しくなじるが、妻は決して夫から離れられない。

 こういう内容のドラマは現代日本を舞台にした物では久しく見ていない。現代ドラマではシングルマザーやシングルファザーやDVを扱った物が多いと感じる昨今、夫婦善哉での妻への精神的苦痛っぷりはDV扱いにでもなりかねない。しかし、環境が大きく違う二人が夫婦になった場合、精神的苦痛とも言える互いの理解しがたい部分の衝突を経て、本当の意味での相互理解が得られるというのは私もある程度理解する。現代日本のドラマのような夫婦の取り上げ方ばかりしていると、衝突することが悪のような、衝突する事イコールDVのような感違いを引き起こしかねないから、今「夫婦善哉」を取り上げるのは意味があるのかもしれない。もっとも、夫婦善哉は私の感覚だとちょっと行きすぎているけど。

 今日も充実の一日だった。


2013.9.3(火) イタリア(ローマ)
ランチビュッフェ

 今日はある店のランチビュッフェに行こうと店を訪ねたら、ビュッフェではなくていくつかのメニューから選ぶランチセットになっていた。そこで、別のビュッフェをやっている店に行く事になった。

 食事をしたのはGustoという店。

 ここのランチビュッフェはビュッフェといっても一皿に盛り放題が10ユーロで、お代わりしたら4ユーロ追加という方式を取っている。生野菜、野菜料理、チーズ2種(モッツァレラとリコッタ)、パスタ、穀類のサラダ、肉料理と一通りなんでも揃っていて、料理の数は20種類を超える充実ぶりだ。10ユーロの代金には水とパンも含まれているので、本当に10ユーロでお腹いっぱいになるまで食べる事ができた。

 日本のビュッフェというと食べ放題で、どんなに食べてもいいけれど質がよくないという傾向だった。ここ数年の日本のビュッフェの傾向は知らないが、ここローマで見ると量に制限を付ける代わりに質を落とさない傾向にあるようだ。あるいは量に制限をつけない場合は、28ユーロなどと値段も高くなる。

 見ていると、一皿という制限があるからといって山盛りにしているのは若者だけで、大人のイタリア人はそれなりの量でとどめて食事していた。私の隣の洒落た50代くらいの細みのスーツの男性なんて苦みのある葉野菜の炒め物とモッツァレラだけ。夫の後ろのもっと年配の会社員風男性はアッラビアータのペンネとローストビーフだけ取っていた。

 ビュッフェに来ても自分の食べる量をコントロールできるのは、どうにもがっつきがちな私たちから見ると大人に見える。たくさんあっても必要な分だけ取る。足るを知る。こういう振る舞いもイタリア人をスタイリッシュに見せている。夜になっても消化しきれない胃袋をさすりながら「しかし、おいしかったからなぁ」と反省しきれない自分に苦笑い。


2013.9.4(水) イタリア(ローマ)→オーストリア(ウィーン)
ローマからウィーンへ

 今日から4泊5日でウィーン旅行。折角オペラやクラシック音楽シーズンのヨーロッパにいるのだから、とことん音楽を楽しみたい。しかし、同時にヨーロッパの豊富な食文化も楽しみたい。そこで折衷案としてイタリアに滞在しつつ、ウィーンへ小旅行をしてしまおうというのが今回の計画だ。

 こんな事が可能なのは、ローマからライアンエアーという格安航空会社でウィーンに行ける事、ウィーンのオペラハウスで4ユーロの立ち見席がある事。この2点のお陰である。

 午前11時55分のフライトで飛んでウィーンのホステルに到着が午後5時。

 ホステルに到着したらビールのウェルカムドリンクで迎えてくれて、人が少ないからと8人部屋から室内にシャワーとトイレのある6人部屋スィートに無料アップグレードしてくれた。

 以前も宿泊した事があるので、すぐに近所のスーパーでビールとワインとソーセージなどを買いこんで、広くて清潔なキッチンで夕食を楽しんだ。

 ローマからウィーンにやってきて思ったのは、どこもかしこも清潔なこと。そして人が少なくてのんびりした感じなこと。公共サービスの人がローマよりもきちんとした英語を話し、かつやる気があって知的なホスピタリティーを感じさせてくれたこと。こういう事はフィレンツェから来た時にはあまり感じなかった。やはりローマとウィーンでは人やサービスにかなり温度差があるってことなんだなぁ。

 格安航空会社のライアンエアーは、チケットを買って目的地にたどり着くまでにいくつかのハードルがある。これらのハードルをひょひょひょーいと乗り越えて行くのは面倒だが、それに余りある「低予算」というサービスをしてくれている。どんな手荒い扱いを受けるかと思っていたがかなり普通に快適な旅ができた。

 チケット購入から目的地到達までの動きをまとめておく。

・チケット購入と事前の準備
 ライアンエアーのチケットはネットで購入する。いくつもの細かい広告売り込み(レンタカー、ホテル、保険など)があり、いくつもの細かい有料サービス(優先チェックイン、荷物預けなど)がある。これらの有料サービスは一つも使わず、荷物も機内持ち込み10kgに抑え、ウェブチェックインも事前に済ませて、ちゃんとボーディングパスも事前に印刷して空港に持ち込んだら、二人で往復171.32ユーロ。一人片道42.83ユーロで済んだ。

 シャンプーやリンスなど機内持ち込みなので中華ショップで100mlの容器を買って詰め替えて機内に持ち込み。

・今日の動きと予算
-ローマテルミニ駅からテッラビジョンTerravisionというシャトルバスでローマ・チャンピーノ空港まで移動(一人往復8ユーロ)
-チャンピーノ空港からスロヴァキアのブラチスラバ空港までライアンエアーで移動
-ブラチスラバ空港からウィーン市内までシャトルバスで移動(Slvak lines7.7ユーロ、2時間)。他にBlaguss10ユーロもあって、こちらの方が高速道路を使うので20分早いが、2社とも本数がとても少ないので早く来た方に乗る事になるだろう。だから往復割引でチケットを買うのはあまり得策ではない。
-ウィーンのズードチロル(中央駅)に到着。そこから路面電車で宿まで移動。月曜日から翌月曜日まで地下鉄、トラム、バスが使える一週間券がお得だったので購入。

 注意深く事を運んで、夜のビールとソーセージまでたどり着けたのは本当に喜ばしいことだ。

 明日から3夜連続の立ち見オペラに挑戦するため、初日は早く寝た。










2013.9.5(木) オーストリア(ウィーン)
初日がゲオルギューという贅沢さ

 今日の演目はジャコモ・プッチーニ作曲の「トスカ」。主人公のトスカにはルーマニア出身1965年生まれのアンジェラ・ゲオルギュー、その恋人のカラヴァドッジ役にはアルゼンチン出身1962年生まれのマルチェロ・アルヴァレス、非情冷酷ながら屈折した愛情をトスカに向けるローマの警視総監、スカルピア役にセルビア出身1968年生まれのゼリコ・ルチッチ。メインが全員40代というプロフィールから脂の乗り切った貫禄の演技が期待できた。

 しかもトスカにゲオルギュー!ここは絶対に立ち見の1階の最前列を狙って行きたいと朝から鼻息を荒くして準備したのだった。

 まずは腹ごしらえ。ウィーンとんかつであるヴィーナーシュニッツェルの老舗「フィグルミューラー」でサラダとビール。前回満席で入れなかった本店に12時前に訪れたら入れた。

 ここはワインハウスとのことでビールがないのでお水だけになったのは残念だが、町中に張り出されているフィグルミューラーのポスターのモデルになっているウェイターさんが私たちの担当で、ポスターと同じ素敵な笑顔で対応してくれたのがとてもよかった。



 オペラハウス前のスタバーに着席したのが12時半。この時点ではまだ一人も並んでいなかったが、スタバーに席をおきながら定点観測したら午後1時に一人、午後2時で5人が並んでいた。これを見て私たちも立ち見席チケット販売の待ち行列に参加。7番目と8番目だ。これなら全員が1階の立ち見席に流れても確実に最前列を確保できる!最前列は左右10名ずつ、計20名分なのだ。

 行列は午後3時半までは13人とそんなに増えなかったが、午後3時49分時点で倍以上の27人まで増えた。というのも、午後4時になると、立ち見席チケット販売会場の扉が開いて行列が建物内に率いられる。それを知っているのだろう。ここまでは行列に椅子を置いてどこかに行っていても許されるが、午後4時以降、建物内に入ったら列を離れて建物の外に出ると行列でのポジションを失うというルールになっている。

 午後5時40分、午後7時の公演80分前にようやくチケットが販売開始された。突然、最前列にコネ持ちおやじが4名乱入してきて11番と12番になったが、それでも余裕で最前列を確保することができた。因みに1階立ち見席の席数は160席くらいだろうが、少なくとも3列目60番目くらいにいた方がいいと音楽をやっている友人が助言してくれた。

 公演はしょっぱなのテノールの有名なアリアから大成功で、もう少し長く拍手されたらアンコールでもう一回歌ってくれるんじゃないかと思われるほど、毎回長い拍手だった。

 主役級の3名のいずれもが、余裕のある演技と歌いっぷりで全く期待を裏切らない素晴らしいオペラを楽しませてくれた。

 今回のトスカで印象深かったのはローマ警視総監のスコルピアだなぁ。

 文字であらすじを追っているだけの時は、権力をかさに美人歌姫のトスカを自分の物にしたい強欲さだけを感じていたのだが、今回の舞台を見ていると、本当はトスカに惚れているのにその気持ちをうまく伝えられない人間スコルピアの哀しみが伝わってきた。

 人間不信、地位を失わないかという怯え、好きな人の心を得られない嫉妬、己の欲望のためには理不尽な政治的手段に出る狡猾さ、トスカの恋人をいたぶる冷酷さ。人間のあらゆるマイナス面を次々に表現するスコルピアなのに、プッチーニが彼に歌わせるアリアにはその裏に潜む哀しみを感じさせる。そしてその作曲者の意図をオペラ歌手が汲んで朗々と歌い上げるからなおさら胸に迫る。

 舞台挨拶での出演者の晴れやかな表情を見ても、今夜の公演が大成功だったことがわかった。鳴りやまぬ拍手を背に、私はトイレに飛び込んでワンピースからジーンズにはきかえて地下鉄で宿まで戻ったのだった。


2013.9.6(金) オーストリア(ウィーン)
ウィーンのお客さんは怖い。

 本日の演目はジュゼッペ・ヴェルディ作曲「ラ・トラビアータ(椿姫)」。パリの高級娼婦ヴィオレッタ役にポーランド出身1977年生まれのアレクサンドラ・クルザク、ヴィオレッタの恋人アルフレード役にイタリア出身1969年生まれのマッシモ・ジョルダーノ、アルフレードのお父さんジェルモン役にイギリス出身1959年生まれのサイモン・キーンリーサイド。

 今年はヴェルディ―生誕200周年。演目は大人気のトラビアータ。主役のクルザクはオペラハウスの無料リーフレット9月号の表紙を飾っていて彼女の3ページに渡るインタビュー記事も掲載されている。

 むむむむ。今日も2時から並ばないといけないのだろうか?

 とりあえず2時からでも並べるように午後1時にスタバー入りを目標に昼ご飯にでかけた。

 今日の昼はプラフッタというレストランで「ターフェル・シュピッツ」。オーストリアの代表料理の一つで牛肉の煮込みなのだが、最初に頂く澄んだコンソメスープが肉より全然おいしくて、むしろ肉はいらないからスープだけ注文したいくらいな一品。特にここのお店が有名らしい。

 前回は初めて訪れて、お店のお勧めに従ってスープの時にサイドオーダーでヌードルを注文し、お肉を食べる時にサイドオーダーでほうれん草を注文した。ヌードルは量が少ないのに一人2.9ユーロ、ほうれん草はバターたっぷりでくどすぎる。いずれのサイドオーダーも不要だと判断して、今回はビール2つ、ターフェルシュピッツ1人前、二人でシェアする場合の追加料金8ユーロのみをオーダー。これにパン代金とチップをのせて50ユーロ弱だった。前回より10ユーロ安いくてお腹は一杯。相変わらずスープがおいしかった。

 予定通りに午後1時前にスタバー入りして立ち見券売り場を見に行ったら今日は誰もいない。午後2時に2人だったので、2時半までお茶してから行くともう一人増えて3人になっていた。今日もまた最前列確実。3時になってやっともう一人がやってきた。昨日も我々の後ろにいたアメリカ人の声楽を勉強している青年で、昨日はウィーンでコントラバスを勉強しているフランス人女性と前後で並んでいたのだが、彼女の計らいで楽屋までいってゲオルギューと握手してサインももらったと嬉しそうに言っていた。

 今日は3時半を過ぎても行列が伸びる事もない。やはり昨日のメンバーの方が人気だったということだろうか。

 昨日と同じ手順で首尾よく立ち見席一階の最前列を確保したのが午後6時10分。自分の立ち位置の目の前のバーにスカーフを巻いたら、もう他の人にはその場所を取られることはない。開演の7時までは自由に館内を見てまわれる。

 バーにスカーフを巻いたら場所を確保できるという優雅なシステム。イタリアだったら、スカーフの位置がずらされて場所は確保できないだろうな。南米だったらまずスカーフがなくなるだろうな。その点、ウィーンのオペラ座内はすこぶる品がいい。


 さて、開演までの自由時間はまず腹ごしらえ。会場の外に出て地下のアンカーというチェーンのパン屋かその向かいの中華ファストフードショップに行く手もあるが、ダイエットを兼ねて館内のバーで白ワインの発泡水割とアップルシュトゥルーデルで夕飯とする。ここに入っている食べ物は、なんと王室御用達のゲルシュトナーだった。地下のアンカーよりも数倍上品なシュトゥルーデルが2倍くらいの値段で食べられる事を昨日発見してから、こちらに来る事にした。

 午後7時を少し過ぎてから、いよいよ開演。椿姫は序曲、全員で大合唱する「乾杯の歌」、主人公の二人が出会って恋に落ちる二重奏、一人になったヴィオレッタが本当の愛を知って切々と喜びつつもそんな自分を否定する長いアリア、それに呼応してアルフレードが再度登場し二重唱になって一気にボルテージを上げて第一幕が下りるという展開だ。

 ところが、最初の二人の二重唱からクルザクの声が全然出ていなくてあらら?という感じだった。二重唱が終わった時点ではそれでも遅れ気味にまばらに拍手が起こったのだが、次のソプラノのソロアリアで前半の喜びを歌い上げる部分が終わった時に拍手が起こらなかった。少し間をおいてすぐに引き続きソロアリアに突入するのだが、ここの部分を拍手なしでやり過ごさなくてはならない数十秒は恐ろしく長く感じられたことだろう。そして、一幕最後の二重唱の途中ではクルザクは数小節声が出なくなるものの何とか最後は二重唱にして幕を閉じた。こういう時って相手のテノールも遠慮するのか、二人とも声が出ていなかった。

 拍手はまばら、一幕が終わると主役たちは舞台挨拶に出てくるものだが、挨拶もなく観客はさっさと立ちあがって休憩体制に入ったのだった。

 うわー、ウィーンのお客さんは怖いねぇ。さすがに世界トップクラスの劇場。このシビアな反応が演者を育ててもいるんだというのを体験させてもらった。演じる方も見る方も真剣勝負。そういう所がある。

 第二幕から声は出るのだろうか、どうやって立ち直るのだろうかと別の意味でドキドキしながら休憩をはさんで第二幕開始。

 第二幕は田舎で静かに暮らすヴィオレッタとアルフレードのもとに、ヴィオレッタが一人の時にアルフレードの父親が訪ねてきて、息子と別れて欲しいと説得する長いアリアがある。このイギリス人のバリトンの朗々とした声。優しくもきっぱりと意思を告げる父親の愛情に満ちた説得は、物語の中のヴィオレッタに別れを決意させたたげでなく、凍りついた一幕の会場の空気を変え、暖かい拍手が従来のオペラの熱気を会場に呼び戻してくれた。いやー、よかった、よかった。

 で、最終第三幕、病床で死にそうなヴィオレッタだが歌手クルザクとしては調子があがってきて、テノールも一幕よりもだいぶいい感じ。最終的には「ブラビー」と大拍手を受けて幕が閉じた。

 今日のオペラは舞台と観客の空気と緊張感を味わうという体験ができた。これもなかなか面白い。


2013.9.7(土) オーストリア(ウィーン)
演技力たっぷりのカルメン

 本日の演目はジョルジュ・ビゼー作曲「カルメン」。主役のカルメンにはイスラエル出身リナ・シャハム、ドン・ホセにはカナダ出身ランス・ライアン、カルメンの次の恋人の闘牛士エスカミーリョにフランス出身のローラン・ナウーリ、ホセの故郷の許嫁のミカエラにルーマニア出身のアニタ・ハルティッヒ。

 スペイン調の有名曲がたくさん入ったカルメンだが、曲もさることながらカルメンのビッチっぷりをどう演じてくれるのかも楽しみな今夜だった。

 その前にお昼ご飯。土曜日はナッシュマルクトが賑わっているのでそこでお昼ご飯を食べようとでかけた。ナッシュマルクトは食料を売る市場にレストランも併設されて、市民も観光客も集うにぎやかな場所だ。特に土曜日は仮設の衣料品やアンティークの店も多く出て更ににぎわっていた。

 レストランは午前中からにぎわっていて、ここでビールやワイン片手にヘビーなブランチを楽しむのがウィーン流土曜の朝らしい。朝ご飯はソーセージとオムレツや茹で卵とパンという組み合わせが一般的だが、ホンモスなどを組み込んだ中東セットも人気だった。「朝ご飯セットは午後4時まで注文できます」などという店が多い。

 お昼を過ぎる頃からシーフード、寿司、カレーなど他のレストランにも人が入ってきた。イタリアに比べると食文化のバリエーションが少ないウィーンだが、ここに来たら突然インターナショナルになる。価格も3ユーロの立ち食いケバブからオーマル海老や牡蠣を扱う高級シーフードまで各種あった。

 私たちはホンモスとケバブのプレートとこの時期にしか飲めないシュトゥルムで昼食。シュトゥルムは収穫したブドウが発酵し始めたばかりの微炭酸どぶろくワインという感じの飲み物で、シュトゥルム=嵐という名前は、飲み口の柔らかさから知らずに飲み過ぎてぐらぐらに酔っぱらう事から来ていると聞いたことがある。フレッシュなどぶろくワインとひよこ豆のペーストのホンモスがよく合っておいしかった。同じ店で、今度はテイクアウトコーナーで焼きそば。これでお腹いっぱいになった。

 ナッシュマルクトからぶらぶらと歩いてシュテファン大聖堂近くで、デザート。ゲルシュトナーに入って2種類のケーキとコーヒー2杯。ここのチョコレートケーキはみっちりとしたクリームとスポンジで満足感が高いからどうしても食べたかった。

 初日と二日目は重めの昼食でここまでたどり着けなかったが、今日やっと来る事ができた。

 午後2時にオペラ座立ち見席販売窓口に行ったら今日は一人もいない。そこでスタバーでコーヒーを飲んで時間をつぶして思い切って午後3時に行ったら5番目、6番目だった。

 今日は人が少ないのかと思いきや、午後3時半から学生らしき若者がぞくぞくと並び始めて午後4時半近くには50人くらいになった。私たちの後ろにはヨーロッパ公演でウィーンを訪れている北京交響楽団のバイオリニストとパーカッショニストの若い女性3人がいた。もう少し年上の同僚2人は着席できるチケットを買ってきたのだが、彼女たちは若いので立ち見席で見るのだそうだ。

 年上の同僚は彼女たちに「加油、加油」(がんばれ、がんばれ)と言っていたが、ウィーンの立ち見席の確保は他の人より早く走るとか、並んだ順序を飛び越えて人よりいい場所を確保することができないようになっている。「がんばれない」のだ。

 最初にこの3人が行列を無視して先頭に座りこんだら、一人の女性から「行列の後ろに並べ」と突っ込みが入ったことから、彼女たちもここがそういう世界だというのを薄々感じていただろう。午後4時に建物の中に入れられてからこの後の展開を彼女たちに説明したら、全く頑張れないことがわかって「おお、そういう事ですか」と納得していた。人口12億の競争社会で生きている中国人と、伝統的なウィーンのオペラ立ち見の常識が違うのは当たり前だ。でも国の外に出て違う常識がある事を知っている人が多くなる程、その国はよくなっていくと思うから、彼らのような存在とその体験は貴重だ。

 午後6時。ほぼ満席になった立ち見席1階は今日は本当に若者が多くて、修学旅行のようだった。特にアメリカ人の声楽をやっている学生がそこここに来ていて全員が知り合いのようなので、特にそんな雰囲気になっていたのかもしれない。

 午後7時に始まったオペラは、カルメン役のシャハムが演技力たっぷりに歌い上げて期待通りの痛快なカルメンを見せてくれた。カルメン役はソプラノよりも少し低いメゾソプラノが演じるそうだが、それ故にドスの聞いた歌いっぷりが憎らしさを募らせる。加えてホセ役のライアンと、その許嫁役のハルティッヒも声がビーム光線のようによく通って、目の前で歌われているように大迫力で聞こえる。この3人に比べると闘牛士だけ音量が劣って聞こえてしまった。

 舞台も奥に向かって上り坂を作り背景に遠近法を強く使った建物の絵を置く事で、スペインの街角の雰囲気がよくあらわされていたし、大勢の出演者の衣装も華やかだった。歌声、演奏、衣装、舞台と楽しさが幾重にも折り重なって観客を飽きさせない舞台だった。

 3日連続でオペラを立ち見したが、どれも本当に素晴らしくて頑張って立った甲斐があった。


2013.9.8(日) オーストリア(ウィーン)→イタリア(ローマ)
パパラパッパパーで帰宅

 今日は夕方の便でローマに戻ってきた。

 午前11時にホステルをチェックアウトして荷物をストレージに預けてからキッチンで最後の昼食を作って食べていたら、初日に出会っていた日本人宿泊者がキッチンにやってきた。

 日本で音大の大学院を出てこちらで留学しようとしたのだが、ビザの取得がうまくいかなくて、こちらでの生活拠点を引き払う準備をするためにホステルに宿泊している女子だった。

 ここ3日間見てきたオペラの興奮も冷めやらない私たちは彼女との音楽談義を楽しみながら午後1時半の出発までの時間を過ごした。

 ライアンエアーの出発時間に合うバスは来る時とは違うBlagussという会社。ウィーンでの乗り場も中央駅ではなくエルドベルグErdbergという国際バスターミナルになる。6月に来た時にはこのバスターミナルから夜行バスでフィレンツェに戻ったのでなじみの場所だ。

 エルドベルグから10ユーロで隣国のスロヴァキアの首都ブラチスラバにある空港まで行き、そこからライアンエアーに乗ってローマまで。

 ライアンエアーは定刻通りに目的地に到着すると機内で「パパラパッパパー」と競馬の始まりのようなファンファーレを流し、正しい英国発音で「定刻に到着しました」とアナウンスが入る。これを聞くとだれもが嬉しくなって拍手が起こる。こういうイギリスのやり口はユーモアがあって小憎らしくも素敵だ。

 バスに乗っている時間が2時間、空港に到着してから飛行機に搭乗するまで3時間(かなり余裕をみて早く行ったため)、搭乗時間は1時間半、ローマのチャンピーノ空港からローマ市内まで40分だった。

 ローマのテルミニ駅の地下には日曜日なのに夜遅くまで開いているスーパーがあって、手早くワインと生ハムとチーズを買って、市バスに乗って帰宅。

 シャワーを浴びて1時間もたたないうちにイタリアンな晩酌が始まった。

 ウィーンのオペラは素晴らしいけれど、食文化はやはりイタリアがいい。ま、つまる所、1日で移動して簡単に両方が楽しめるヨーロッパは魅力的だということになるのだが。




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