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2013年
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11月:1,2

2012年
1-1,1-2,1-3,1-4
2-1,2-2,2-3,2-4
3-1,3-2, 3-3
5月:1,2,3,4
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10月:1,2,3,4
11月:1
2012.10.15(月) バンコク(タイ)
キター、いきなり夏に逆戻り

 「楽しい、楽しい」と映画を見ながらいつのまにか眠ってしまい、いきなりの機内照明点灯でバキッと起こされた。

 2種類ある朝食から選んだパンケーキとは薄いクレープに極甘のジャムが入っているもので、一口食べただけで砂糖攻撃で脳天にショックが行きわたって完全に目が覚め、二口目で完全に満腹になって終了。各国にはその国独自の朝食スタイルがあるが、この極甘攻撃はロシアン・ブレックファストなのだろうか。ある意味すごく効果的だ。



 朝7時半くらいから降下し始めた飛行機は、ご機嫌な太陽と下界を隔てる厚い雲をつっきって暗く曇るバンコク郊外の空港に無事着陸した。

 思っていたような南国の明るい日差しはないものの、機内からなぜか拍手が沸き起こった。もしかして無事に着陸できたから拍手?ちょっとだけ怖くなった。

 飛行機を出るととたんにムッとする湿度と曇っている空の色は同じでもブダペストとは15度くらいは違うと思われる気温差に「キター、東南アジア!」と体細胞が喜びの声をあげた。暑いの大好き。

 空港からは一人45バーツ(112.5円)支払ってエアポート・レール・リンクという電車で市内まで行ける。車内広告は日本のマンガ「ワンピース」のキャラクターを使ったタイの飲料水メーカーで埋め尽くされていた。日本に戻ってきたわけでもないのに、タイにして日本気分。

 電車の終点から滞在地のカオサン通り近辺の安宿までは最安値なら市バスという選択肢となるが、なにせ荷物が多いのでタクシーを利用することになる。最近だと200バーツ(500円)が普通の運転手さんの言い値、不良運転手さんだと300バーツから交渉となる。


 といっても最初に300バーツと言ってきた運転手は断るようにしている。200バーツまで下げたところで不満な態度は消えないからだ。それなら何台がやり過ごして最初から200バーツと言ってきた運転手さんに値下げなしで乗せてもらう方がずっと気持がいい。

 ということで、今回は2台目にしてそういうタクシーがみつかったので乗り込んだ。ローカルの感覚なら100バーツが相場くらいだろうなと思いつつも、私達が行きたい方向は常に道路が混んでいて、時間にして30分はかかるだろうし、激しく荷物が多いので倍くらいは仕方ないと思って支払う。こうすると、ちゃんと荷物のトランクや座席からの出しいれもしてくれるのでその分の労働費だと思っている。

 宿にチェックインしたのが朝10時。ちょっと仮眠してからお昼ご飯でも食べに行こうと横になったら泥のように眠りこけて起きたら夕方の5時になってしまった。

 夕方4時、5時ともなるとカオサンは午後の昼寝から目覚めたライオンのごとくうわーっと静かに盛り上がってくる。

 この日も、まだ雨季が明けきらない曇天のもと、そんなにハイテンションでもない人が数多くどろどろと歩いていた。この人々が本調子になるのは夜11時くらいからだろうか。

 フルーツジュース屋さんでいちごとマンゴーのフレッシュシェークを作ってもらい、まずはビタミン補給。それから、お腹が空いているけれど長時間移動で胃腸が疲れているのでランブットリ通りのセブン前に出ているお粥屋台で豚ミンチと生玉子入りのお粥で夕食とした。

 10ヵ月ぶりに訪れたカオサン界隈は、ますますスタイリッシュ化が進んでつぶれた廃屋などがファラン好みのレストランやバーへと姿を変えていた。

 変わらないから好き、変わっていくから好き。

 変化しない物も変化していく物も両方面白い。







2012.10.16(火) バンコク(タイ)
帰国便の手配、市場の帰りにスコール

 今日は日本への帰国便の手配をしてきた。カオサン通り界隈にはいくつかの日本人による旅行代理店がある。その1つZipangを訪れて帰国便の手配をお願いした。

 条件は「一番安い便」。調べてもらったら中国東方航空(上海経由)が一番安いということなので早速予約。3ヵ月オープンで一人16381バーツ(42099円、レート2.57、10/29現在)となった。予約期間は24時間。24時間を過ぎると予約が取り消されるので現金を用意して午後に正式に買うことにした。

 今ごろはネットでもチケットが買える航空会社が増えてきたが、代理店さんがとても少ない手数料で発見をやってくれるのでネットで買えない航空会社のチケットも含めての費用比較を任せて代理店から買う事にしている。

 旅行代理店を出ると午前11時。ちょっと小腹が減ったのでワッタナーさんのラーメンを食べにいった。ランブットリ通りから路地に入った場所にあるワッタナーさんのラーメン屋さんは普通のラーメンなら10バーツ(25.7円)、ワンタン入りにしても15バーツ(38.55円)という驚異的な値段で食べさせてくれる。

 量がそんなに多くないので近所に働く小柄なインド人青年も2杯一度に注文して食べたりしている。それでも20バーツだから他で食べるよりは安い。

 いつもにこやかに汗をかきながら麺を茹でている男性がワッタナーさん本人だと思う。バンコクに来てこの界隈に滞在するなら一度は食べたくなる。

 とはいえ、ちょっとこのラーメンだけじゃ足りないので最近行きつけにしているお母さんの食堂でもう一度お昼ご飯だ。

 ヨーロッパ滞在ではどうしても体重が増加してしまった私たち。ここバンコクで今年最後の引き締めをしなくてはならない。そのためには運動もさることながらキャベツ。まずキャベツを入手して食事前に食べなくっちゃならないぞ。思えば今年1月にバンコクで知り合ったご夫婦からキャベツダイエットを教えてもらって、今年はかなりキャベツを食べて快調だったのだ。

 ということで食後の運動を兼ねてカオサンエリアから徒歩30分くらい北にある生鮮市場へと向かった。

 今、キャベツはあまり季節ではないようだ。1月に来た時と比べると大きさが2分の1ないし3分の1くらいと随分小さくなっていた。値段の相場は1月とそんなに変わらないようだ。

 バンコクというと英語が通じてニコヤカで愛想のいいタイ人ばかりに出会うという印象だったが、ここの市場に来るとそうでもない場合がある事を常に思い知らされる。

 おそらく生鮮市場という市民生活に根差した観光客が来るべきない場所を訪れたから無愛想なのかもしれないが、カオサンという外国人エリアに近い市場だからこそ余計に「他所者が何をしにきたんじゃ」という目線になるのかもしれない。これも新鮮な発見だから別にそんなに不愉快ではなかった。

 市場からの途中で大雨が降り始めた。大粒でたたきつけるような勢いのある雨はまさに熱帯のスコール。今年はまだ雨季が明けていないみたいだなぁ。

 20分くらいも雨宿りしていると大分、雨脚が弱まってきたので小雨の中を足早に宿まで戻った。市場に行く前に屋上の洗濯ものを取りこんでおいて正解だった。

 宿に戻って疲れを取ろうとちょっと横になったら、スーッと寝込んでしまった。もしかして時差ぼけ?気付いたら2時間近くも眠ってしまった。

 午後3時過ぎに現金を引き出して旅行代理店に行き、無事にチケット購入手続き終了。

 今日はチケットとキャベツを買って一日が終了したという感じだ。夕飯にはキャベツとバナナ。さぁ、絞りこんでいこう!


2012.10.17(水) バンコク(タイ)
No.7シリーズ復活

 今年の年初にスキンケアに何を使おうかとネットで調べていたらイギリスのマツキヨ、Bootsが出しているNo7というシリーズのIntenseがいいらしいという情報にヒットした。

 Intenseっつーのはつまり年寄り向きでしわのばしに力を入れたアンチエイジング製品シリーズだ。私たちもお年頃なのでアンチエイジングが嫌だとかは言ってられない。

 年初は中華の旧正月セールをしていて2本かったら3本目は無料という大盤振る舞いだったから3分の2の価格で買えたのもよかった。使い心地は良好だったが、Bootsがメキシコ、フランス、イタリアで見つからず手持ちの製品が終了してからは別のメーカーのを使っていたのだった。

 せっかくバンコクに戻ってきたのだからとNo.7シリーズを再開。メンズは半額セールをしていたし、女性物も10%オフになっていたのでよしとする。


2012.10.18(木) バンコク(タイ)
ウォーキング〜トンローから伊勢丹まで

 昼食後、バスに乗ってBTSトンロー駅まで行き、そこから伊勢丹の辺りまで1時間15分くらいウォーキングを行った。

 BTSというのはバンコク市内を走るモノレールでトンローより1つ東のエカマイという駅から西方向に3-4駅行った界隈まではBTSの南北に日本食レストラン、書店、ビューティーサロン、カラオケクラブなどがたくさんある地域だ。

 今日の目的はトンローの1つ西側の駅プロンポンから北に行く路地沿いにあるスーパーや本屋をまわって日本語のフリーペーパーを収集すること。ほとんど広告でできているフリーペーパーだがこの界隈の詳しい地図やちょっとしたニュースなどが掲載されている。広告でさえレストランガイドと思えば有意義な情報でもある。まず、プロンポン駅前にある古本屋をのぞいたがフリーペーパーは1種類でしかも残り一冊。次にのぞいたフジスーパーも1種類。向かいの東京書房に数種類のフリーペーパーがたくさんあって、結局ここが一番充実していることがわかった。

トンロー駅。ウォーキングスタート。

フジスーパーは相変わらず豊富な品ぞろえだった。

フジスーパー界隈は日本語の看板だらけ。

一番出回っているフリーペーパー「WISE」。モモクロが表紙だった。

 プロンポンでちょっと休憩がてらフリーペーパーを探したりしたが、あとは伊勢丹まで一気に歩いた。1時間くらいかなぁ。

 他の国では2時間、2時間半歩くのだがバンコクでは1時間15分歩いただけなのに同じくらいの疲労感を感じる。気温と湿度と排気ガスのせいかもしれない。疲労感は同じでも消費エネルギーはやはり2時間に比べると半分なんだろうなぁ。

 まぁ、とりあえず今日は伊勢丹の入っているセントラル・ワールドで終了。空気が悪いけど運動した疲労感はやはり気持がいい。


2012.10.19(金) バンコク(タイ)
ウォーキング〜川向うのセントラル・プラザまで往復

 昨日持ち帰ったフリーペーパー「Daco」にNYで活躍する若手韓国人ピアニストのジオンJi-Yong君のピアノリサイタルが開かれるという情報が掲載されていた。コンサートは、おお、何と明日。

 ネットでもチケットが買えるようなのでサイトに行ってみると、会員登録しろとか面倒くさい。どこかのリアル窓口で買えないのかとカオサン界隈の観光案内所で聞いてみたら、ここから3km弱離れた川向こうにセントラル・プラザというショッピングモールがあってそこの3階で買えると教えてくれた。「とても歩いて行ける距離ではありませんから、タクシーやトゥクトゥクでセントラル・プラザと言えば行ってくれますよ」と案内嬢は言うのだが3kmなら歩けるなぁ。

 ということでランチ後の運動も兼ねて橋を渡っててくてくと歩き始めた。川を渡るとガラッと庶民的な感じになり、昔ながらの食堂、自転車修理屋さん、床屋さん、はては棺桶屋さんまでが並ぶのどかな風景となった。

 こうしたお店の前には相変わらず様々な屋台が出ていて四六時中、誰かが何かを頬張っている。

 こんな牧歌的な風景だが歩いている道は片側3車線もある幹線道路で、2回くらい大きくて歩行者の横断を考えていない交差点を渡ると左手にイギリスの大手スーパーチェーン店TESCOがあって、その先にセントラル・プラザとなった。

 最初、間違えてテスコに入って探しまわったのが見つからず、ついに最上階のピアノ販売店に聞いてやっとこのビルじゃなくてもう少し先の建物がセントラル・プラザだとわかった。

 観光案内所でもらった地図には「南方面行きバスターミナル」と書かれているのだが、この地図は古くてバスターミナルは別の場所に移転してここはショッピングモールになっている。このショッピングモールがセントラル・プラザだというトリッキーな説明だったし、いざ歩き始めてみると道路の感じが実際と違っていて「役に立たない地図だなぁ」とすぐに地図を見るのをやめてしまっていた。ところが到着してもう一度地図を見るとちゃんとセントラル・プラザのビルの形が地図に書かれている。ああああ、そこ?そこがポイントだったのね。全くもう、どこにヒントが隠されているかわからないものだ。

 さて、3階に行って探しまわるもみつからず、様々な人に聞きまくってやっと5階レストラン街の「こんな所にあるわけないだろう」という片隅にひっそりとチケット販売のカウンターを見つけたのだった。タイではチケットをこういう場所で買う事がまだ稀なのだろうか。

 アーティストの名前と公演日を告げて検索してもらうとちゃんと販売していて、座席も画面から選べるし、ハンガリーの首都ブダペストのオペラ劇場よりは選ぶ画面が見やすくて売り手の男性もよっぽども愛想がよかった。


  一番安い天井に近い席一人400バーツ(1028円)はタイの物価を考えるととても高い。ワッタナーさんの10バーツラーメンなら40杯分に相当する。40バーツのカオマンガイでも10杯分だ。うーむ。一度夫婦でカウンターを離れて相談。しかし、せっかくバンコクでクラシックを聴けるチャンスだ。ここはひとつ聞いておこうではないかと2枚チケットを購入した。

 頼んでもいないのにプラスチックのカードに席順が印字された立派なチケットが渡されて、チケット発行代金20バーツも上乗せされて一人420バーツになっていた。聞いてないぞ、そんなことは。


 紆余曲折あったが目的を達成したので、再び徒歩で戻ろうと時計を見たら14時20分。

  オー、ノー!

 午後3時にカオサンのマックで旅人と再会の約束をしていたのだった。そこで超速足で街を駆け抜けて午後3時5分にマックに到着。汗だくでベロベロに疲れた。ところが友達も外に出て渋滞に巻き込まれて4時に待ち合わせを変更してくれと携帯で私たちに連絡を入れてくれていたのだ。モバイルを持ってればねぇ、こういう事にはならないわけですよ。こういう時、時代から外れて生きているなぁと感じる。しかし、モバイルを持ち続けるコストを考えると、やっぱり必要は感じない。バンコクで人が遅れてくるのは当たり前のこと。私たちもゆっくりと休憩しながら待ったら3時半に旅人のNちゃんがやってきて再会できた。恐縮するNちゃんを見ると申し訳ないと再び思うのだが、しかたないね。

 Nちゃんに会ったのは昨年の9月、ハンガリーのブダペストの日本人宿アンダンテだった。女性一人で世界一周している彼女があちこち見て回りながら東へ東へと移動してきて、丁度1年後くらいの今バンコクで再会ということになったのだ。

 午後3時半に会って夜9時までノンストップトーキング。旅先でのエピソードやら共通の知り合いの近況報告など色んな話で盛り上がった。

  翌日、彼女からメッセージが届いて「今、体調が絶不良で寝込んでいます。そちらは大丈夫ですか?」

 どうやら連れて行ったイサン料理の屋台の食べ物に当たってしまったようだ。夫も少しお腹を壊している。原因は青パパイヤのサラダのような気がする。私は偶然にもそのサラダはあまり口にしていなかったので免れたようだ。Nちゃんからは翌々日、丸1日ぐったりと寝込んでから体調は回復したと報告が入ったが、申し訳なかったなぁ。今度、あそこに人を連れていく時は生ものは避けよう。って、まだ行く気かい!


2012.10.20(土) バンコク(タイ)
バンコクでピアノリサイタル

 午前中作業して、行きつけの食堂が週末はお休みなのでランブットリ通りのぶっかけ飯屋で首が折れた形のアジ風なおいしい魚とおかずでランチ。午後はスタバーでお茶。ここまではまぁ、よくある日常の流れ。

 でも、今日は夜にイベントが待っている!

 NYで活躍するという韓国人ピアニストのジオンJi-Yong君(21歳)のピアノリサイタルに行くのだ。別に知っている人じゃないのだが、21歳という年齢を聞くとどうしても旅先で出会う同じくらいの年齢の友達たちを思い出し「君」付けになってしまう。

 チケットは昨日ショッピングモールで購入しているので、今日はそのまま会場に向かった。会場はタイ・カルチャーセンターの大ホール。地下鉄3号線にタイ・カルチャーセンター駅があってそこで下車するのだが、普通、駅名が付いていたらすぐ近くにあると思うじゃないですか。ところが地下鉄駅からカルチャーセンターまでは徒歩7分くらいも離れていてしかも案内もなく道もわかりづらい。通りのバス停で人に聞いてもあまりその存在を知っている人もいない。なんちゅう所じゃ。そんな事もあろうかとたっぷりと時間に余裕をもってでかけてきて正解だった。

 地下鉄駅からアプローチするとカルチャーセンター裏手の駐車場から建物に近づくことになる。

 妙に薄暗い駐車場をつっきって文化省みたいなお役所風の建物の所でカルチャーセンターの建物を人に聞いて、やっとホールのある建物に向かおうとしたら警備員に「どこに行くんだ」と足を止められた。

 相手はタイ語しか話さないし妙に警戒モード丸出しで威嚇している雰囲気だ。「ピアノ、ピアノコンサート、ジオンって人の」とピアノを弾くジェスチャーで説明していたら、さっきお役所風建物で道を聞いた英語の話せる女性が走り寄ってきてくれて事情を説明して解放された。

 この国ではクラシック音楽のピアノリサイタルに徒歩で会場に訪れるはずがないという常識でもあるのかもしれない。クラシック音楽の扱いが、音楽そのものというよりもそれに触れていることがステータスという意味で使われる場合があるのはブダペストのオペラ劇場でも、ミュンヘンの有名ラジオ局主催の世界的に有名なコンクールでも感じだ。そういうのを目にすると逆に三流だという思いが起こる。

 さて、薄暗い駐車場を回り込むとやっとコンサート会場らしい風景になった。面白いのはコンサート会場の隣にコンビニと食堂が併設されていることだ。私達もここで水を買って一息。更にアイスクリームを食べて一息。汗がひいてからようやく会場入り口に向かった。

 私達の席は最上階の4階。さっぱりと美しく作られたコンサートホール全体が見渡せる。ここでは外界のムッとする湿度や屋台周辺の生野菜のすえた臭いや濡れた歩道などとは別世界の静謐な乾いた空気が漂っていた。

 座席は前の人とずれがないので前の人の頭が視界をふさぐし、4階席は傾斜が悪くて少しのりださないとステージがちゃんと見えないが、あまり観客もいなかったので自由に好きな場所に移動して聞く事ができた。4階席でのお薦めは正面より左手ブロックの最前列だな。


 勝手にいい席を確保して、あとはコンサートをゆっくりと楽しんだ。今夜は曲目が素晴らしかった。バッハ、ベートーヴェン、シューマン、ショパン。最後の曲はショパンの「英雄」だった。ヨーロッパのピアノリサイタルでは大曲を弾くと批判が恐ろしいためか、あるいは大曲故に弾くのが難しいためなのか、演奏者が弾き飽きているためか、あまりメジャーな曲は逆に聞けない。それに比べると今夜のコンサートは知っている有名曲が満載でとても楽しかった。

 コンサートの前半と後半の間に20分ほど休憩があり、あまりに冷房が強いので暖かい場所を探して階下に降りて行くと2階のラウンジで軽食と飲み物のビュッフェが用意されていた。普通、日本でもヨーロッパでもこういうのは有料なのだが、今日のコンサートでは無料。しかもとてもレベルの高いおいしい軽食でびっくりしちゃった。

 今日のコンサートのスポンサーにはスイスの大手プライベートバンクやヨーロッパの大手保険会社などタイのお金持ち相手に商売をしている先進国の企業が名前を連ねていた。顧客はコンサートにご招待されているようで、企業ごとにデスクがあってリストアップされている顧客はそこで有料のプログラムをもらえたりしているようだ。そういう顧客サービス絡みのコンサートがこの無料ブッフェになっているということだろうな。このレベルのアーティストのコンサートにしてはチケット代金が高いなぁと思っていたが、食いしん坊の私たちはこのビュッフェでいきなり「いやー、今日のコンサートは得したねぇ」という感想に変わった。我ながら浅ましい。あはは。

 さて、今日演奏されたベートーヴェンのソナタはヴァルトシュタインWaldsteinという有名曲で今年は北イタリアのボルツァーノでアルフレッド・ブレンデルというピアニストによるマスターコースという公開レッスンでこの曲についてブレンデルが語って教えるのを聞いたばかりだったので、またまたヴァルトシュタインを生で聞けるという面白い偶然にやや興奮した。

 アンコールに可愛い小曲を弾いた後、最後にジャズ風の曲を一曲。彼はNYでクラシック音楽と新しい音楽のフュージョンを試みているという解説がパンフレットにあった。活き活きとしたジャズの指運びにNYの空気を感じさせてもらった。ただし、この最後の曲を聴いて今夜のコンサートでずっと感じていたある事が明らかになった。ジオン君の演奏はクラシックというよりはジャズに近いのだ、たぶん。華麗な指運びや打楽器的な弾き方はボルツァーノで体験したブレンデル教授のお弟子さんの弾き方と大分違っていた。

 コンサートが終了して階下に降りて行くとあるデスクの前に行列ができていた。これはもしかしジオン君本人によるサイン会?

 待っているとその通り!

 本人が出てきてファンが差し出すプログラムやポスターにサインして握手をし始めたのだった。アメリカ文化的だなぁ。クラシック音楽でこういうのってあまりみた事がない。でも、わくわくしながら並んでいる子供たちを見たら今日の興奮が明日の練習意欲につながっていくんだなぁと感じられて、こういう形でモーチベーションが高まるのもありなんだと思われた。

 コンサート会場から地下鉄に乗ってスクンビット駅で下車。そこからバスに乗ってカオサン通り界隈まで戻ってきたら11時半をまわってしまった。

 土曜日とあって普段からいる外国人に混じってタイ人の若者も繰り出してきてカオサン通りはわんわんとにぎわっていた。ムーっとする湿度と温度の中でクラブでかかるような繰り返しの音楽が大音響で鳴り響き、バケツ型カップにストローをつっこんで酔いどれル観光客の間を縫って宿まで帰ってきた。

 静謐なコンサート会場と宿に戻るまでの道中のギャップがありすぎて笑えてくる。バンコクだなぁ。


2012.10.21(日) バンコク(タイ)
クラシックの演奏について

 昨日のコンサート、ヴァルトシュタインの弾き方でいわゆるクラシックの人とジオン君の何が違うのかが気になって午前中はその考察に時間を費やした。ネットで探したらYoutubeでダニエル・バレンボイムのヴァルトシュタインが出てきた。これ以上にいい比較対象があろうか。これを聴きながら、ブレンデル教授が公開授業で言っていたことを思い出してみた。昨日のコンサートと比べるとバレンボイム氏の演奏はとても丁寧に聞こえた。作曲家が1つ1つの音に込めた意味を大切に忠実に表現しようとするとこういう弾き方になるんだろうと思う。ブレンデル氏のバラードを弾く際の注意点、「自分はあくまでも物語の語り部として物語から引いて見つめる視点で弾き、決して物語の中に入りこまないこと」。この言葉が思い出される。

 クラシック音楽界にきら星のごとく現れた天才的な作曲家の作品をできるだけ忠実に現代に伝える。それがクラシック音楽の奏者に課せられた課題だとしたら、ジャズは演奏者の心の中に沸き起こる情熱を音楽と言う媒体を通じて聴き手に伝えることがその使命なんじゃないだろうか。だとすると同じ曲を弾いてもクラシック的なのとジャズ的なのは自ずと違ってくる。

 昨日のジオン君の演奏をジャズ的だと思ったのは、彼の若いパッションをより強く感じたからだ。本音を言えば音が大切にされていない雑さは否めない。私としてはやはり丁寧に弾かれるバッハやベートーヴェンを聴きたかった。

 お昼ご飯はいつものお母さん店が週末でお休みなので、宿の近くにある老舗と思われる古い建物で老人たちがやっている牛肉麺屋に行った。

 麺で50バーツというのはここでは高いと思われたが牛肉、牛筋、レバーが多めに入った麺のスープが「うまし!」と声に出すくらいおいしかった。昔から営業していていまだに潰れていない店というのはやはりそれなりに美味しいんだろう。

 午後のお茶はスタバーでコーヒーラテ。おいしいけどスタバー高すぎるので、もうやめた方がいいな。

 夕方はちょっとお腹が空いたので屋台でエビのしっぽが見えている春巻きを買って食べてみたが、エビは尻尾側の半分しか入ってないんじゃないかというくらい小さく、具も申し訳程度にキャベツとニンジンの炒めが入っているだけだった。ほとんど春巻きの皮揚げって感じ。もう二度と買うまい。

 夜はカップヌードルを食べながらテレビ番組の「結婚しない」「ドクターX」「レジデント5」「原宿・ネスト・カフェ」「孤独のグルメ」と立て続けに見て、現代日本にキャッチアップ。

 「結婚しない」というのはタイトル通り結婚に関する妙齢の男女のお話で、テレビ界では永遠に取り上げていきたいテーマだろうが、今まで私が記憶する中では「結婚したいけど、できない、結婚はするものだ」というスタンスからのタイトルばかりだったのにこうもきっぱり「しない」と言い切るタイトルがでてきたのが斬新に感じられた。もっとも、現実社会においては私の周囲にも結婚していない魅力的な女性がたくさんいるし、私と同じ年の同級生に至っては既に「一生独身で何か問題ありますか?」という人もいる。という具合にアベレージを扱うドラマよりは進行している。

 「ドクターX」はどこの病院にも属さないで、フリーランスとして病院と雇用契約を結ぶ女性医師の話だ。おそらく実際の医師に聞いたらこんなのは現実あり得ないというだろうが、IT業界においては既に本当にこういう流れはある。そんな現実的な考証はともかく、主人公が握手を求められて「医師免許がないとできない事しかしませんので」と握手を拒否するなど、サラリーマンなら一度は言ってみたいセリフが満載なので、もとサラリーマンの私達としては「いいぞ!いけいけ!」と拍手を送って楽しめた。


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