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2012年
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2012.06.11(月) フィレンツェ(イタリア)
ザ・トスカン・サン・フェスティバル

 今週から始まる「The Tuscan Sun Festival」。海外から有名アーティストを招いてのクラシックコンサートと、一流イタリアンシェフによるフォーシーズンズでのお食事会と言う企画。

 お食事の方は5人のトップクラスのイタリアンシェフが日替わりで料理を出し、ワインとお食事でおひとり様250ユーロ。確かに木曜日と金曜日のシェフはミシュランの2ツ星レストランから来ているから、そんな値段になるかもしれない。しかし、あははは。250ユーロだって。
※6/14 Thu 12:30 with Davide Scabin, Head Chef, Combal.Zero, Rivoli(Turin)
※6/15 Fri 12:30 with Carlo Cracco, Head Chef, Ristrante Cracco, Miran

 食事は到底無理そうだが、コンサートに注目すると世界的に知名度の高い独奏者を迎えているにもかかわらず20ユーロ台からチケットが販売されていて、こちらはずっとお得な感じだった。

 初日の今日は、フルート奏者のゴルウェイ氏Sir James GalwayとバイオリニストのヴェンゲロフMaxim Vengerov氏の共演だった。

 ゴルウェイ氏は解説に「生ける伝説」とも言われるフルート奏者で、夫は学生時代から知っていて「おお、ゴルウェイが生で聴けるなんて!」と大興奮。

 ヴェンゲロフは若いころバイオリニストとして人気を博していたのだが、腕の故障により指揮に転向していたが、数年前から再びバイオリンも弾き始めたという人で、彼のバイオリン、ストラディバリウスは1500万円也だそうだ。

 曲は全部で4曲。全てモーツァルトでバイオリン協奏曲の4番、交響曲29番、オペラ「ドン・ジョバンニ」から序曲、最後にフルート協奏曲の2番。ヴェンゲロフ氏の安定感があって表情豊かな引きっぷりが名器に乗って奏でられ、極上の気分になれた。ゴルウェイ氏の演奏も緊張感から解き放たれた熟練者のいぶし銀のような演奏で、アドリブのような独奏部分が他よりも多く取られている気がする。こうなったらもうジャズだね。ものすごい高音なのに耳に優しく響くのは、一体どういう演奏方法なのだろう。高速で指を動かしながらオクターブを行ったり来たりできる吹き方にも驚嘆。一方で、アンコールのアイルランド民謡のような心に染みる演奏も楽しませてもらえて、まさに「生きる伝説」を目の当たりにした感がある。

 アンコールに3曲吹いてもまだ解放してくれないので、最後に演奏したバッハの曲を倍速で再度演奏してやっと聴衆は満足して終了。ゴルウェイ氏も満足そうにほほ笑んでいた。

 ところで、今日の会場となったのはドゥオーモから徒歩3分くらいの町中にあるTeatro della Pergolaという古い劇場で内装も作りもクラシカルでとても可愛らしい劇場だった。

 幕間のカフェに並ぶ列の中に、よく見たら2日後に演奏するトランペット奏者のセルゲイ・ナカリャコフが普通にいる。うぉぉぉぉ、セルゲイだ!トランペットの貴公子だ!NHKの朝の連続ドラマ「うらら」の主題歌を吹いて大人気になり、日本でのコンサートにも行った事があるが、あの時の貴公子も今は30半ばのロシアのおっさんになろうとしている。しかし、相変わらず陶器のようなすべすべのお肌と甘いマスクで素敵だったなぁ。最至近距離30cmくらい。あああ、一緒に写真撮ればよかった。

 しかし22ユーロで生ける伝説ゴルウェイの演奏を聞けたり、生ナカリャコフが目の前でコーヒー注文してたりして、やっぱりフィレンツェってすごい街だ。


2012.06.12(火) フィレンツェ(イタリア)
ザ・トスカン・サン・フェスティバル 2日目
 

 今日の演奏会は予定ではルーマニア人ソプラノ歌手「アンジェラ・ゲオルギューAngela Gheorghiu」のガラコンサートなのだが、先週、チケットを買いに行ったら事情があってチケット発売が停止されているという。

 昨日、Teatro della Pergolaのチケットカウンターに行ったら会場が「新オペラ劇場」からこちらのTeatro della Pergolaになるかもしれなくて、それで販売停止になっているが、午後には結果がでるはずだと言われた。

 って、聞きに行った時間がすでに午後2時なんですけど、イタリア人にとって午後とは何時からなのだろうか?

 で、今日は火曜日恒例となったカッシーネ公園の市で再び洋服を見てから昼前に劇場に行くと、やはり劇場が変更になったもののコンサートは行われるということで、一人66ユーロ支払ってチケットを購入した。

 アンジェラさんがどのくらい高名な方かは知らないが、一番安いチケットが66ユーロっていうのは、ロンドンのミュージカルなみな話だ。次が86ユーロ、そして152ユーロだったかな。とにかく高い。オーケストラがMaggio Musicale Fiorentinoというフィレンツェ5月祭の専属オケでとても上手いからといっても、それでも高い。

 うーん、うーんと悩んだのだが、いつまでも教会で15ユーロの観光客向けの中途半端な歌を聞いていてもしょうがないと思っている所だったので、えいやと買って行くことにした。

 午後8時に会場に行くと、「新オペラ劇場」と比べると座席数が大分減ったにもかかわらず、更に劇場を取り囲むガレリアという天井桟敷先と、私達が買った壁面のボックス席が全てクローズされて、全員がアリーナに移動するという事態になっていた。よっぽどチケットが売れなかったようだ。お陰で予期せぬアリーナ席で聴く事になり、真正面からステージをじっくりと楽しめた。

 前半の最後に花束を持ったユネスコ大使が現れて、今回のコンサートがユネスコに寄付されたこと、アンジェラさんがユネスコ平和大使に任命された事を伝えて、アンジェラさんに花束贈呈となった。それで思ったのだが、コンサートの売上金をユネスコに寄付するためにチケットが上乗せ金額になっているんじゃないだろうか?あるいはユネスコ主導でチケット代金を決めたらこんな値付けになっちゃったとか?いずれにしても、こんな世界遺産的な文化を高価なチケットで少数の人しか聴けないようにしてしまうのはユネスコの趣旨に反するんじゃないかと思った。何かがおかしい。

 もう一つ、今月16日にマドンナが来る。まさか、そっちにお客を取られたなんて事はあるまいが。

 コンサート自体は大変に素晴らしい内容だった。アンジェラさんの独唱、ゲストのテノール歌手でアルバニア人のSaimir Pirgu氏とのデュエット、テノールの独唱、オケだけの演奏を取り混ぜて行われた。

 アンジェラさんは美貌でも有名で美しい衣装と美しい顔立ちに後ろに座っているイタリア人老人二人は「ケ・ベッラ(何と美しい)」を連発している。素直すぎる老人の態度がまたイタリア的で私にはとても面白かった。

 アンジェラさんの歌いっぷりもすごいのだが、若いテノーラーのPirgu氏ですか、この人もとっても魅力的な声でアンジェラさんのサポート以上の働きだった。

 また、ここのオーケストラもうまい。コンマスが常に楽しそうで超ノリノリに引いている姿もいいんだな。


2012.06.13(水) フィレンツェ(イタリア)
ザ・トスカン・サン・フェスティバル 3日目
 

 日本に郵便物を送ろうと郵便局に向かった。

 封筒一枚を送るのに30分くらい待たされた。かーーーー。何でこんなに待たされるのか。待たされている30分間に観察してたら、その理由も見えてくるってものだ。

 理由は、皆ものすごく「やる気がない」ということにつきる。1つ仕事が終わったらボーっとコンピュータ画面を見続ける事1分、その後、ちょっと隣の窓口係と雑談してから次の番号札を呼ぶボタンを押す。ここでまずロスが出ている。

 それでも、じゃんじゃんとやっていけば普通郵便コーナーはそんなに滞らないはずなのに前に行かないのは、別の分類の仕事を手伝っているからだ。

 日本の郵便局と同じく「郵便」「金融」「その他」みたいな分類別に番号札をとって待つシステムになっている。普通郵便の窓口は3つ、金融系が3つ、その他が2つという窓口なのだが、各窓口は手が空いたら他の分類の作業を行うようになっているようだ。つまり、緩やかに窓口の区分けはあるが、どの分類の仕事をするかは担当者の選択に任されていた。

 金融やその他は複雑な仕事になるので一人にかかる時間が長い。イタリア人らしく長くいるとおしゃべりに花が咲く。じゃんじゃんと普通郵便の仕事をこなすよりも、そういう人間らしい仕事の方がお好みのようで、どうしても普通郵便の番号札は敬遠されて誰もやってくれないのだ。金融系やその他の番号札ばかりが呼ばれて、普通郵便がなかなか呼ばれない、そういう30分間だった。

 フラストレーションがたまらないように好きな仕事が選択できる職場は、お客さんに多大なフラストレーションを与える郵便局になっていた。もっとも、待っている事でフラストレーションを感じているのは私達だけかもしれないので、これはこれでイタリア的に機能しているということになる。

 夜は楽しみにしているトランペッター、セルゲイ・ナカリャコフが出演するコンサートへ。一昨日、会場のカフェで目撃して、フィレンツェ入りしている事は確認済みなので、ちゃんと出演してくれるだろう。

 会場に行くと、早速、出演者変更のお知らせビラ。女性ピアニストのValentina Lisisaさんが休演で代わりに、日本やメキシコを含む世界で活躍中のフィレンツェ出身Giampaolo Nuti氏になっていた。休演となった女性は事前にネットで調べていたら、本当はチェスの選手になりたかったのに夫の勧めてピアノの道に進んだとかいう経歴で、「才能はあるのにやる気がないんだね」と話していた人だ。会場に来たら、やっぱりお休みで、笑えた。やりたくなかったのね。

 オーケストラはGuiseppe Lanzetta指揮率いるOrchestra della Toscanaで、サント・ステファノ教会などで定期的に演奏しており、私達も既に数回この指揮者とオケの演奏を耳にしている。しみじみとして家族的でそれなりにいい音を出すオーケストラ。教会コンサートでは一律15ユーロだが、今日はソリスト達を交えて18ユーロなのでとてもいい。

 天井桟敷のギャラリー席(一番安い席)を買っていたのに、今日もギャラリーと両脇のボックス席は閉鎖で全て中央アリーナに集められた。今日もチケット販売に挫折しているようだ。お陰でまたまた良い席から楽しむ事ができた。

 前半、モーツァルトが18歳の時に作曲したというオペラ「偽の女庭師」La Finta Giardinieraの序曲。軽やかでおふざけな陽気さが若々しくて面白かった。で、続いてはセルゲイ・ナカリャコフのフリューゲルホルンによるハイドンのバイオリンチェロ協奏曲。とにかく息を飲む超絶技巧の連鎖に第一楽章が終わっただけなのに拍手が出てしまって、指揮者が「まだまだ続きますので、どうぞお静かに」とジェスチャーで聴衆を制する事になった。循環法呼吸で息を吸いながら吐いているので息つぎが少ない。鬼のように早いパッセージで全部タンギングされている。そんなスゴイ演奏なのに荒々しさもなく軽々と木陰で読書しているような表情で吹いて、感情的にも盛りあがる美しい音色を出している。完全に聴衆の心をつかんで、ブラボーの掛け声があちこちからかかった。

 アンコールではヴィバルディの四季「冬」から第二楽章。この曲は「白い道」とかいうタイトルで日本で歌詞が付けられてハイファイセットというグループがNHKの「みんなの歌」で歌っていたので知っている。日本での公演が多い彼の事だからこの曲はよく演奏しているのかもしれない。超絶技巧がないメロディーで聴かせる曲だが、こちらもよかったなぁ。本当に今日は来てよかった。

 後半は弱冠25歳にして舞台に立つAnna Tifuという女性で曲はVitaliのシャコンヌ。初めて聴く曲だったがかっこいい曲で、しかも彼女の楽器の音が素晴らしい。この楽器、絶対にいいものだろうな。それをちゃんと鳴らせる腕を持っている彼女もすごいのだろう。

 そして最後はGiampaolo Nuti氏のピアノメインとお隣にナカリャコフ氏が座って、ショスタコービッチのピアノ協奏曲C短調第一番。ショスタコービッチとか苦手だなぁと思っていたが、この曲はぎりぎり面白かった。昔の曲を聴くつもりで旋律を予想するとすぐに裏切られて全く別の所に連れて行かれる感じを面白いと思えれば楽しめるし、疲れて気が狂いそうだと思うとそうも感じられる。この曲はそういう意味では気が狂いそうになるぎりぎり手前な感じで面白かった。ピアノとオーケストラを合わせるのが難しそうな曲だった。

 アンコールは現代音楽の短い作品だったが趣味のよい曲で、このピアニストのセンスが感じられた。こういう時に選ぶ曲で「男をあげる」こともできるんだと妙に感心した。

 こうして生の音に触れ合う事で自分では聴こうとも思わない曲に出会えたり、新しい出演者を知っていくのは本当に素晴らしい体験だ。


2012.06.14(木) フィレンツェ(イタリア)
ザ・トスカン・サン・フェスティバル 4日目
 

 ここ数日間、ネット上で購入したバスチケットが手に入らなくて困っていた。

 ユーロラインというヨーロッパをカバーしているバス組織(28カ国にまたがって国ごとに会社組織になっている)があって、イタリアのユーロラインサイトに入ってバスチケットを購入したのだが、e-チケットが送られて来ない。フィレンツェのユーロラインオフィスに行くとイタリア側のデータしか表示されておらず、そのデータによればフランス側で決済されているチケットなので、イタリアでは発券できないという。

 フランス側のインフォメーションにメールしてもなしのつぶて。電話すると「今から送ります」というのに全く届かない。インフォメーションへえのメールも英語とフランス語で計4回、電話も2回したところで、はたと思い当ってメールの「迷惑メール」ボックスをのぞいたら、ユーロラインからの7通のメールがごっそりとみつかった。

 うわわわー。ここだったのか。

 ユーロラインには全く過失はなかった。ここ数日、ユーロラインにぶつぶつ文句を言っていた自分が恥ずかしい。「迷惑メール」ボックスに勝手に入ってしまった理由が、「お客様が通常使われない言語で書かれているから」だそうだ。メールはタイトルと冒頭の本分がフランス語、その後に英語が書かれていた。いやー、この迷惑メールの規定はやりすぎだなぁ。迷惑メールのルールが迷惑かけてどーする。

 ということで2週間に渡って緩やかに頭を悩ませていた問題が、こんな形で解決した日だった。

 昼食は「イル・ベジェタリアーノIl Vegetariano」というベジタリアンレストラン。

 ズッキーニのラザニア、サルトゥSartuというドリアのような料理(紫色の葉野菜のラディッキオとゴルゴンゾーラの入ったリゾットをオーブンで焼き固めたような料理、右写真)、スフォルマートという具だくさんのイタリア版茶碗蒸し(今日のは、ほうれん草)、チーズケーキとリコッタチーズとアプリコットのケーキ、コーヒー2つでしめて31ユーロ也。

 ものすごく量が多くて、二人ならプリモ(ラザニアやご飯系)、セコンディ(メイン)、デザートを全部1皿ずつでよかった。

 ケーキがものすごく甘さ控えめなので、大きな一切れなのに食べられてしまう。野菜類も塩も油も控えめでさっぱりしているので、大量に食べられるし、胃にもたれない。ベジタリアンのお店は初体験だったけど、思っていたよりずっと満足できるものだと感心した。

 午後からは、町のDVD屋をはしごして古い映画DVDを探し。

 イタリア映画の三大巨匠とは、フェデリコ・フェリーニ監督、ルチアーノ・ヴィスコンティ―監督、ミケランジェロ・アントニオーニ監督だそうだ。

 今日はヴィスコンティ―とアントニオーニの作品を探したのだが、アントニオーニの「欲望Blow up」はどこも売り切れ、ヴィスコンティ―作品は「揺れる大地la terra trema」、「イノセントEl Inocente」が見つかったので購入。他にマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレン主演、エットーレ・スコラ監督の「ある特別な日Una Giornata Particolare」も購入した後で、同じ主演でヴィットリオ・デ・シーカ監督の「昨日、今日、明日」も見つかったので買ってみた。ヴィスコンティ作品は遠い昔に「ヴェニスに死す」を見たきりなので、他の作品が楽しみ。

 町を歩いていると可愛いワンコにたくさん出会える。今日のこのワンコはバーニーズ・マウンテンドッグの子犬だと思われる。子犬といっても一抱えくらいもあるのだが、頭をなでていたら膝に前足をかけてぐいーっと甘えてきた。

 ふわっふわの柔らかい毛はぬいぐるみみたいでとても可愛らしい。飼い主の年配女性は知り合いとの立ち話に夢中で、私達のように道行く見知らぬ犬好きが触っても無関心なのがよかった。

 ありがとねー!



 夜はコンサート。今日はユーゴスラビア人男性ピアニストのイーヴォ・ポゴレリチIvo Pogorelich氏のショパンのピアノ協奏曲第一番、後半は女性チェリストNina Kotovaによるサン・サーンスのバイオリンチェロ協奏曲第一番、ベートーヴェンの交響曲第一番。オーケストラはOrchestra della Toscanaという地元オケだが指揮者にメキシコ人女性Alonda de la Parraをむかえている。

 会場は今日もギャレリアとボックス席が閉鎖されていて23ユーロのギャレリア席だったのにアリーナの前から3分の2くらいの場所に格上げされていた。

 30分前の照明がないうす暗いステージの真ん中には、すでに最初にグランドピアノが置かれていた。ニットキャップに上下ジャージ姿の男性がポロポロと小さな音でピアノを弾いている。

 調律師だろうと思っていたのだが、それにしては調律的な音の鳴らし方ではない。小さな音で奏でながら会場をちらちらと観察しているその顔を見たら、ポゴレリチ本人じゃないか。

 本番前なのにラフな格好で聴衆の前で勝手に弾いて、しかも足元のガラス瓶に入っている液体は水じゃなさそうだ。

 型破りな演奏でも知られるポゴレリチは、人柄も型破りな所があるようだ。

 実際、今夜の演奏も所々驚くほど強いタッチで弾いたり、テンポがくるくる変わってオケを率いるメキシコ人指揮者も大変そうだった。変わった演奏だったなぁ。

 チェロの女性の演奏は、チェロの独奏を生であまり聴いた事がないのでよくわからないのだが、先日のバイオリンに比べると音が小さいし胸に迫る感じがない。チェロという楽器がこういうものなのか、彼女の弾き方がこういうものなのか判別できないが、そんなに驚かなかった。

 そんな事もあって最後のベートーヴェンがやたらに素直に楽しめた。美人指揮者は振りのジェスチャーも美しく見た目も楽しい。昨日のOrchestra da Camera Fiorentinaよりも人数が多いせいもあるがオーケストラの音が迫力があるのもよかった。最後に斜め前に座っていた半ズボンの20歳くらいの男性二人が立ち上がって「ブラバー、ビバ、メヒコ」と言っているのもメキシコらしくてよかった。親戚かなぁ?それにしても、メキシコでこんなに白人で美人な人は滅多に歩いていない。支配者階級とその他がいまだにきっぱりと別れているというのを実感させられる国だ。


2012.06.15(金) フィレンツェ(イタリア)
ザ・トスカン・サン・フェスティバル 5日目
 

 午前中は日記を書いたり、調べ物したり。

 昼食には昨日買ったマグロで漬け丼。魚売り場の腕にタトゥーをしたお姉さんに「カルパッチョとして食べられるか?」と尋ねたら、肩をすくめながら「私はマグロのカルパッチョなんて食べないけど、この魚はとても新鮮よ」と答えてくれた。

 日本人の感覚としては、「もちろん、新鮮だからSUSHIもOKさ!」くらい言って欲しいと思うし、言ってもらわないと生で食べるのに不安を感じる。しかし、あまりにおいしそうだったので買ってしまった。

 このランチをしてから既に20時間くらい経過しているが、無事に生きている。よかった。そして旨かった。

 午後は町に出てアントニオーニ監督の「愛の不毛」三部作を探して2作を買った。不毛シリーズ第一作目の「情事」L'Avventuraはあまりに腑に落ちない結末に話題騒然となった作品だそうで、不毛なのは愛なのか見た観客の時間なのか(これは私の勝手な感想)と思わせる評判だ。もう一つは「太陽はひとりぼっち」。アラン・ドロンが出ていてフランスとの合作。まぎらわしい邦題だが「太陽がいっぱい」ではない。原題はL'eclisse(日食、月食、失墜の意味)。巨匠アントニオーニ、楽しみだ。

 もう一つはニュー・シネマ・パラダイスの監督、ジュゼッペ・トルナトーレによるLa Sconosciuta。あるイタリア人家庭に、前の家政婦を追い出して入りこんだウクライナ人女性のイレーナ。優秀な家政婦ぶりに家の夫人にも気に入られるようになったのだが、ある日彼女のもとに男性が現れて・・・。彼女の真の目的は何か?家族に何が起こるのか?という内容らしい。

 アルノ川を渡った向こう側、サント・スピリト地区にあるパーネ・イ・ヴィーノというレストランのメニューチェックへの帰り、カッライア橋のたもとにあるジェラテリア「カッライア」でジェラート休憩。以前から混んでいて気になったので食べてみたが、1.5ユーロで2種類食べられる安さが人気の理由だろう。お客のほとんどが観光客だった。ジェラートを食べているとアイスクリームよりも乳脂肪が少ない感じがするのだが、そういう意味ではここはアイスクリームという感じ。それはそれでおいしいのだが、フィレンツェでわざわざこの手のアイスクリームを食べる事もないだろう。

 今夜のコンサートはアメリカ人メゾ・ソプラノ歌手のスーザン・グラハムSusan Grahamさんのリサイタル。月曜日からずっとフェスティバルのコンサートを聞いてきて、とてもよかったので今夜も行くことにした。本来の会場はいつもの場所の隣に付属している小ホール。本来は18ユーロから35ユーロの値段設定だったが場所が狭い所になり、当日券売りは一律28ユーロで自由席となった。本当にこの組織はチケット販売に失敗してしまったようだ。

 私達観客にとっては、貴族が音楽家を招いてサロンコンサートを開いているような感覚になれるアットホームな空間で、とてもよかった。

 50代になるグラハムさんはアメリカ人らしい気さくな人柄が、歌と歌の間の表情からもうかがえるような人だった。

 伴奏の男性も彼女と息がぴったりで気持のいい演奏だった。

 前半はリスト、シューマン、シューベルトといわゆる大物作曲家のシリアスな曲が多かったが、後半はフランス人やアメリカ人作曲家の曲を器用してコミカルで芝居っけのある曲で、お洒落で楽しい雰囲気になった。

 最後のSexy Ladyはメゾ・ソプラノ歌手である彼女のために書き下ろされた曲だそうだ。「舞台の上では若い青年役が多いメゾ・ソプラノを歌っているけど、本当はセクシーな女性にもなれるのよ」という内容の歌詞で、途中でフィガロの結婚のケルビーノ役の歌のメロディーが入ったりして楽しい曲だ。

 火曜日に聞いたルーマニア人ソプラノ歌手のゲオルギューさんは美人で歌がうまいけど気位が高そうな雰囲気だったのに対して、グラハムさんは表情豊かでちゃめっけたっぷりな感じ。歌い手さんの個人的な人柄もあるだろうが、ルーマニア対合衆国という出身の国のキャラクターも影響していると思われた。オペラは芸術といえどもエンターテナーであるという位置づけを認識しているのがグラハムさんならば、一流芸術を一般市民に聞かせてやるという上から目線なのがゲオルギューさん。出身国の中でのオペラの位置づけをそれぞれの歌手の背景に感じられたのも面白かった。

 今夜は前から2列目の中央の席。歌手との距離は5mくらいだろうか。メディチ家気分を味わえた夜だった。


2012.06.16(土) フィレンツェ(イタリア)
土曜日の風景と映画観賞
 

 明日、アパートの住民を招いてホームパーティーすることになったので、午前中はスーパーに買い出しに行ってきた。

 途中の教会前には寄付を募るフォークソングバンドみたいなのが歌を歌っていて、その周囲は週末とあってのんびりとおしゃべりしたり、ぼんやりと階段に座っていたりする人がおおぜいた。

 人が大勢集まっているというのは日本でも見られる光景だけど、日本の場合はどこかに向かっているとか、買物をしているとか、何かを食べているとか、目的を持って行動している結果として人が集まってしまったという感じがあり、そこには「話しかけないでほしい」というオーラ、大勢集まっているけれど個々がプライベートな空間をまとっているある種の緊迫感があるんじゃないだろうか。そう思ったのは、今、目の前に集まっているイタリア人たちがあまりに無目的な感じで無防備に存在していると感じた反動だった。気持がいい朝だから、ちょっとぶらっと教会前にでも行ってみるか。というようなユルイ空気。見知らぬ同士でも話がはずみそうな空気。そんな物が、教会前にほわわーっと漂っている。こういう光景は昔のイタリア映画の中で見かけてはいたが、現代でもまさに存在しているのだった。

 午後2時半、ストロッツィ宮前に白と黒のスタイリッシュなテントあり。テントは数日前から設営が始まっていて、昨日聞いたら今日の朝10時からあるファッションメーカーの無料プロモーションイベントが行われるというので来てみた。

 ところが入口の女性いわく、設営準備の遅延でまだオープンできないそうだ。「今日のアフッタヌーンにはオープンしまーす」と言うのだが、すでに午後2時半。先日も午後2時の時点で「今は販売しませんが午後からは販売します」という表現を聞いた。イタリア人の「アフタヌーン」はだいたい午後4時くらいから始まるんじゃないかと予想しているが、まだ不明だ。

 ZARAにて洋服見学。夫はついにピンクのパンツ試着。こちらの男性は赤系のパンツをよくはいているのだが、別に妙ではない。見慣れてきたのでついつい履いてみたが、まだ抵抗感があるみたい。来年への課題。

 ついでにレディースフロアも見学していたら、夏用の気軽なジャケット発見。ディテールが今年らしい編み模様が入っていて、前ボタンなしで羽織るだけ。お洒落で可愛いくて思わず心が揺れそうになったが、値段60ユーロを見てピタッと欲望がおさまった。日頃、カッシーネ公園の古着市で3-6ユーロで洋服を買っているので、欲望のストッパーが鍛えれているようだ。

 デイ・ネリdei Neriでジェラート。夫はゴルゴンゾーラ&ノッチ(ヘーゼルナッツ)と抹茶。私はリコッタ&干しイチジクとミルティッロMirtillo(ブルーベリー)。行くたびに見た事がないジェラートに変わっているので思わず通ってしまう。

 帰ってからは映画観賞。

 最初の作品はルキノ・ヴィスコンティ―監督の「揺れる大地」。

 貧し漁村で仲買人に買いたたかれる漁師一家が、覚悟を決めて家を抵当に入れて銀行から借金して船を買い、獲ったイワシを塩漬けにして自分達で販売しようとするのだが、しけで船が使い物にならなくなりイワシは結局仲買人に買いたたかれ、借金返済できなくて家を追い出され、遂に食べていくことができなくなって嘲笑され罵倒される中で同じ仲買人と契約して再び漁師になるという物語。

 あまりに社会派でドキュメンタリーを見ているようなリアリズムと明るい未来が見えないままエンディングを迎えるという展開にどーんと気持が重くなった。

  続いてジュゼッペ・トルナトーレ監督のLa Sconosciuta。こちらは現代の作品なのでテンポが速くて描写の複雑さも現代っぽい。内容はあまり詳しく言うと面白くないので控えるが最後に救われた気分になれるので「揺れる大地」とは異なる。

 イタリア語字幕で見ようとしたが、あまりに意味不明だったので英語字幕で見たのだが、内容も英語字幕を読む事にも体力を消費してぐったりと疲れた。


2012.06.17(日) フィレンツェ(イタリア)
ホームパーティー
 

 前のアパートはキッチンが共同だったので、何かとほかの住人との交流があったのだが、こちらに引越して来たら独立したキッチンとシャワー・トイレ付きのアパートなのでそういう交流がぱたっとなくなってしまった。

 それでは寂しいじゃないかと、大家さんに協力を願って他住人を我が家に招いて食事会を行う事にした。大家さんの奥さんが日本人ということもあり、住んでいるのは全員日本人。学生2名とレストランで働く御夫婦一組。御夫婦の奥さんは用事で参加できなかったが、大家さん宅から奥さんと息子さんも参加して合計7名になった。メキシコでシェア飯している時は10人を超える事もあったから、7名は楽勝だ。

 話は様々な方向に飛んだが、共通して言っていたのは、皆が憧れるフィレンツェも、旅行で訪れるのとは違って暮らすとなるとうんざりする問題がたくさんある事。私達も郵便局で体験したように普通郵便を出すのに30分待ちが当たり前なこと、消費税が20%を超えていること、光熱費がものすごく高いこと。働く女性が子供を預ける施設が足りない事。その上、言語や習慣が異なり、治安も日本よりも悪いとなると「日本がいいよねぇ」という結論になっていくのは当然かもしれない。フィレンツェに住んでめちゃくちゃ楽しいっていう話満載になるかと思っていたら、そんな話になったのはちょっと意外だった。それでも、皆の体験談からは日本では到底できないような話もどんどん出てくる。イタリア国内でも最大級のワインイベントがヴェローナで開かれていて、それに行った話。フィレンツェならではの食材だったら、子牛のレバーがいいという話。文句はあるけれど、得るべき所も多い。それが本当の結論だったと思う。シェア飯はやっぱり楽しい。このメンバーでもう一回くらいできたらいいな。


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