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2009.01.03
ビッグアイス〜ペリト・モレノ氷河トレッキング
ペリト・モレノ氷河の上を歩く氷河トレッキングには氷上1時間半のミニトレッキングと3時間のビッグアイスとがある。旅行代理店に行って2つのトレッキングの違いについて聞いたり、実際に体験した人の意見も聞いた上で、私達はビッグアイスに行くことにしていた(2つのトレッキングの違いについてはSketch「エル・カラファテでの観光計画」参照)。ただし、1日に多数のグループでツアーを行っているミニトレッキングに対して1日少数組しか行っていないビッグアイスは予約が取りにくく、年末年始は3日、4日くらい前に予約しておかなければならない状況だった。カラファテの天気は非常に変わりやすく、天気予報も1週間前と直前では変わってしまうのでできるだけぎりぎりに予約を入れたいのに、この状況はなかなか歯がゆいものがあった。
ビッグアイスでは氷の上にいる時間が長い。氷の上には所々水溜りやそこから流れる水が作る浅い川などもあるので、スニーカーしか持っていない私は事前に町で防水ブーツを借りることにした。ビッグアイスを主催している旅行代理が紹介してくれた店に行くと、前日夕方にブーツを借りてトレッキングの当日返却するという約束でA$35(=US$10.5)だった。他にも、どんな天候にも対応できるように半袖Tシャツと薄い夏用トレッキングパンツを基調に上はソフトシェル、中綿ジャケット、防水防風ジャケット、下は中綿パンツ、防水防風パンツ、それに毛糸の帽子と手袋、日焼け止めとサングラスを用意した。天候が目まぐるしく変わった日となったので持っていた衣類は全て役立った。お弁当と水も持参だ。
年末12月31日にビッグアイスの予約を入れた時、1月3日の天気予報は晴れだった。しかし、1月3日の朝の空はどんよりと曇っていて、朝7時過ぎに迎えに来た車から進む先の山間には雨に濡れて美しい虹が出ているような天気だった。「虹、きれいですねぇ」なんて言う人は一人もいなくて皆渋い顔をしている。いやー、参ったなぁ。一人520ペソ(=US$156)も払ってるんだから晴れてくれよー。公園入場料金S$40(=US$12)−この後すぐにA$60(=US$18)に値上がりされた−を支払って氷河国立公園に入り、祈るような気持ちを乗せてバスが展望台に到着した途端に嫌味のように雨が「ザーーーー」っと激しく降り注いだ。展望台での氷河見学は30分だが誰もが展望台の下までちらっと見に行ってすぐにレストハウスに戻ってきてしまう。あまりに雨が激しくていくら防水ジャケットを着ているとはいえ不愉快この上なかったからだ。雨にけぶっていても青い氷の世界は美しいことは美しい。こんな日にわざわざ来ることもないだろうから、珍しい日に見学できたと思おう。
薄暗い観光客の気持ちを乗せて、バスは展望台から少し町に戻る道のりの右手にあるフェリー乗り場に到着したのは午前9時50分だった。フェリー代金はツアー料金に含まれているのでそのまま乗り込む。対岸まで15分ほどの遊覧は右手に氷壁が見え、手前に氷が浮かぶ風景で展望台からとは視点が変わって面白い。
対岸に到着するとアイス・トレッキングを主催している会社のロッジで英語グループとスペイン語グループにわかれて、今日の行程説明と諸注意を受けて出発だ。ロッジのある森を抜けて15分歩いた場所で氷の上を歩く上で不可欠なアイゼン(クランポン)を合わせた。1つずつ人が手で溶接して作ったような素朴なアイゼンはかなり重い。ふと見るとスタッフのアイゼンは最新式の軽いもの。それに気づいた参加者の一人が「どうして私達のはこんな重いアイゼンで君達のは軽いのだ」と指摘すると、スタッフのリーダーは「アルゼンチンの伝統的なアイゼンをつけて氷上トレッキングすることで歴史と文化を学んでもらう意図もあるのだ」としゃらっと答えて周囲を笑わせた。こういうやり取りは何度もしているので慣れているようだった。ミニトレッキングならばここから氷の上に出てトレッキングが始まる。彼方に小さく人影が見えて既にミニトレッキングで歩き始めている人たちが見えていた。
私達は、ここから自分のアイゼンを持って1時間くらい氷河脇のパスを歩いてからトレッキングが始まる。氷河は川下から川上に至る間に氷の平原から切り立った岩の連なりになり再び平原へとどんどん形を変えて行く。たった1時間の氷河脇トレッキングだが変化に富んで面白い道だった。
11時30分に安全のために山中のテントで全員の体に安全帯を装着。全員をロープでつないで歩くのかと思ったがそうではなく、有事の際(クレパスに落ちた時などか?)にこの安全帯にロープをつけて引き上げてもらうために付けさせられたのかもしれない。そこから10分歩いた場所からいよいよアイス・トレッキング開始だ。
一人ずつアイゼンを装着してもらって氷の上に出る。今日は川の真ん中まで歩いていって戻ってくるというトレッキングだそうだ。歩いていて最初に見学したのは水色の小さな水溜り。氷の中にできた美しい水溜りをのぞきこむと、深く深く水色からほとんど黒へとグラデーションする穴がどこまでも続いていて美しいと共に恐ろしいという感覚がやってくる。
歩き始めの頃は氷河の上にうっすらと石や土がかぶっていて、削られた所だけが真っ白な氷がのぞき、そこにたまった水が水色に見えるという風景が続いている。
更にどんどんと川の中央に向かって歩く。途中にはクレバスがありスタッフに手を支えられて飛び越える瞬間に先の見えない深い切り込みが足元にあったり、一人ずつスタッフに呼ばれて氷を流れ落ちる滝とその下の滝つぼ、更に下に真っ黒に見える切込みを見学したりしながら進む。足元の氷はツルツルとなだらかになり汚れもなくて真っ白な平原になって、天気が回復したのとあいまって目が痛いくらいに眩しい光景だった。
午後1時半に今日のハイライトである水色の湖に到着。ここで昼食休憩だ。アイゼンが入っている袋が防水になっているので、それをお尻に敷いて座ると濡れない。好きな場所に陣取って各自持参してきたランチを頬張った。水色の湖は中ほどに深い部分があるのか水色のグラデーションになっている。近寄ると吸い込まれそうな美しい水で、今まで2回アイストレッキングをしたことがあるこんな大きくて美しい湖を見たのは初めてだった。
美しい湖での昼食休憩は30分。ゆっくりしたい気持ちもあるのだが座っているとお尻が冷えてきて座り続けていられない。30分もすると皆立ち上がってうろうろし始めたので出発ってことになったのだ。ここからは折り返して同じ道を通って帰るのだが、今日は本当に天気が目まぐるしく変わり、既に曇り、雨、晴れを2回も繰り返している。その度に景色がガラッと変わって見えるので同じ道を通っていてもそういう気がしなかった。真っ白だった氷の平原が土かぶりのやや汚れた風景になると戻って来たんだなぁという思う。岸近くになると氷の上を流れる薄い水色の川が流れていてこれも美しかった。
3時間のアイス・トレッキングを終えて重いアイゼンを外すと足に羽が生えたように感じて、そこからの1時間のトレッキングは軽々と歩ける。途中の滝を楽しんだり、見えてくる氷河湖の景色を楽しんだりしながら帰っていくのだ。
この1時間の道中は途中から来たのとは違う道を歩くようになっていた。氷壁が見渡せる場所を抜けて再び森に入った時に雷のような轟音が響いた。慌てて来た道を戻ると氷壁の足元に大きな水の輪が出来ている。しまったー。見損ねてしまったがかなり大きな氷塊が崩れて落ちたようだ。崩壊が作り出すさざなみが岸を洗うのを見るばかりとなったが、この1時間のトレッキングの途中でこういうお楽しみもあるのだ。
最初に立ち寄ったロッジで振る舞ってくれるコーヒーを飲みながらフェリーを待つ。フェリーの中では氷河を浮かべたウィスキーとアルゼンチンやチリでよく食べられているドルチェ・デ・レッチェという牛乳に砂糖を入れて煮詰めた茶色いクリーム状のものが入ったお菓子が振るまわられた。グラスにたっぷりと注がれたウィスキーを20分で飲み干すってのはかなり急ピッチ。お代わりするツワモノもいたが、私達は一杯飲むのがやっとだった。
フェリーを降りるともういい気分。待機していたバスに乗り込むや意識不明で眠り続けて1時間後にぱっちり目を覚ますと町に到着という具合で、なかなかナイスフィニッシュなツアーなのだった。
最初はどうなるかと思われた天気も、晴れたり曇ったりで変化に富んだ景色を見せてくれたし、よかったんじゃないか、ビッグアイス。
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