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2011.04.11
更にディープ!バタのレッスン見学
キューバ:サンティアゴ・デ・クーバ

 今日は、知り合ったユータ君のお誘いで彼のバタ(太鼓)のレッスン見学をさせてもらうことになった。

 彼との待ち合わせの前にカデカCadecaという公式の両替所でキューバ兌換ペソから人民ペソへの両替をしようと思ったら、これが時間がかかった。

 入口から外の通りにずらりと並ぶ行列の最後尾についたものの、あまりに進展がないのでどういうことになっているのか観察して、なるほど進まない理由が明らかになった。1つには行列が入口から左右2列になっているので、それだけでまず考えるより倍の人が並んでいたのだった。2つめには窓口は5つあって5人ずつ入れ替え制度にしている。つまり1から4の窓口業務が終了しても5つめの窓口で誰かが業務していたら次の客は入れていないのだ。なぜだ、なぜ終了順に一人ずつでも入れないのだろう。そして3つめの理由は並んでいる人にあった。並んでいる人に「いやー、アミーゴ、元気?」などと知り合いが近付いてきて話し始め、知らないうちに列に入り込んでいるとか、5人入れ替え時にササーっと入りこんでしまう輩がいるとか、とにかく割り込みが発生していた。まともに並んでいた私たちは30分もかかってやっと両替することができたのだったが、ユータ君との待ち合わせに10分も遅刻となってしまった。スミマセン。

 ユータ君に遅刻の理由をいうと、カデカの近くに闇両替屋があってそちらでは待たずにすんなりと両替できるとかいう話だった。そういうのは短期滞在の私達には難しい手だけど、住んでいる人には必須事項なのだろう。

 太鼓のレッスンの前に立ち寄ったのはさとうきびジュースのお店。一杯CUP1(4円)でガラスのコップ(といってもビンを切ったコップなので、口を切らないかドキドキできる)に氷と絞りたてのさとうきび汁をなみなみと注いでくれる。中には一度に2杯も飲む人がいて、お店は大盛況だった。薄甘くて冷たいジュースを飲むと、のどの渇きがスーッと引く。天然の混じりっけのないジュースは私達の社会ではかえって贅沢な物になっているが、ここでは当たり前なのだった。もちろん、ここで使っている氷は水道水だろうから日本から来たばかりの人はお腹がゆるくなる事もあるだろうが、私たちは全く問題がなかった。

 ユータ君に連れられて、だんだんと観光客など全く姿が見えない住宅街へと入りこんでいく。ずっと民家が並んでいるのだが、所々で民家が軒先で野菜や肉などを販売している場所がある。こういうのがキューバな感じなのねぇ。ユータ君はもう近所の人の間では有名人らしく、あちこちから「へい、ユータ!」と声がかかってきた。そう言えば、昨年ドミニカ共和国のプエルト・プラタに行った時に海外青年協力隊員と町を歩いた時もこんな感じだったなぁ。あの時の彼女はもっと立ち話に時間を割いていたので300mくらい進むのに1時間はかかっていたっけ。いずれにせよ、カリビアンの人たちはとても人懐っこいようだ。

 太鼓のラモン先生は昨日も出会っているので、今日は既に知り合いな感じでなごやかに挨拶が始まる。レッスン会場は先生の自宅だった。1階のリビングでしばし世間話をしてから2階のレッスン場に行きましょうってなことになったのだが、2階のレッスン場というのは2階のベランダで4人も座ったら一杯になるような場所だった。周囲は住宅街で家が立ち並んでいる中だ。こんな場所で太鼓のレッスンなぞしたら日本じゃ殺人事件にでもなりかねないのだが、この日は昼から夕方までぶっ通しでユータ君、続いて様々な生徒さんが来て太鼓を打ち鳴らしていった。たぶん、この日だけじゃなくて毎日、こんな事になっているんだろうけど、音に関してはキューバ人は寛容に違いない。

まずはリビングで世間話から。

2階のベランダからの周囲の風景。

 ユータ君がラモン先生から習っているのはナイジェリア周辺から来たヨルバ族が元来の宗教をキリスト教の聖人にカモフラージュした宗教「サンテリア」の宗教音楽で、神様ごとに25以上の太鼓伴奏付き歌がある。

 ラモン先生からは歌なしで太鼓のリズムだけを全て教わっていた。本来は口述というのだろうか、耳で聞いて体で覚えるというものらしいが、ユータ君のように外国人で時間がない人のために特別な楽譜をラモン先生が書いてくれる。この楽譜によってかなり早く習得することができるようになっているのだそうだ。

 両側からたたく、このバタという太鼓は大きさによって3種類あるのだが、ユータ君の膝の上にのっている一番大きなバタがメインの旋律となるのだそうだ。中間の大きさのバタでラモン先生が伴奏して、それに合わせてユータ君が一曲ずつ復習していった。素人の私達が聞いても一番面白そうで、演者にとっては一番難しいのが太鼓の神様の曲だった。それにしてもラモン先生のリズム感は素晴らしい。語学と一緒で子供の頃に叩き込まれたリズム感はずれることなく体に入りこんでいるという感じだった。

 たっぷり2時間レッスンして、それではお昼ご飯にしましょうという話になった。日本人3人でお肉を買ってくれれば、あとの材料は先生が提供して奥さんにお昼ご飯を作らせましょうという事だったので、さっそくお肉を買いに行く。

 お肉屋さんはこの肉塊1つだけをつり下げて商売をしている所だった。外側をスモークして日もちするようにしている豚肉でとてもおいしそう。どーんと塊を天秤にのせて、売り子の兄さんは「うーん、8ポンドだね。1ポンドあたり35ペソだから280ペソだ」と言った。8ポンドというと約4kgで、280ペソ、しかも人民ペソなので12CUCに満たないから1000円くらいだ。キロあたり250円だから100gあたり25円。日本の豚肉と比べるとかなり安い。とはいえ、先生。一体、何人分を私達に買わせようとするのか。「8ポンド全部買うのは多いよねぇ」と思わず目を丸くして先生に日本語で言ってしまったら真意は通じたようで、先生は「ユータ、どうしようか?」とユータ君に救いを求めた。調停役のユータ君は表情を崩さすに「4ポンドでいいでしょう」とあっさり半分の量にしたのだった。

 レッスンを見学に来た人に上手に甘えるキューバ人と甘え過ぎるキューバ人を軽くいなす日本人のあうんの呼吸のようなコミュニケーションは、やはり長い時間を一緒に過しているからこそできる芸当なんだろうなぁと、また、ここでもユータ君の技に感心してしまったのだった。

 午後からは、今度は歌の先生がやってきて歌のレッスン開始。伴奏は再びバタだ。歌詞は様々なバージョンがあるようで、こちらも複雑だった。ユータ君は声もなかなかよくて、日本で歌ってたたけるパーカッショニストになって欲しいと心から願うのだが、この太鼓の裏打ちのようなリズムに合わせて歌を歌うというのは、太鼓だけ叩く以上に難しいに違いない。実際、ユータ君も「頭がごちゃごちゃになりそうだ」とつぶやきながらやってきた。

 途中からドイツ人の生徒さんも伴奏に加わって楽しい雰囲気になってきた所に、一人の老人が登場。この人が歌の先生に稽古を付けた大先生だそうでフラッと弟子の稽古見学にやってきたのだった。ドイツ人のリクエストに応えて大先生とラモン先生で演奏することになったのだが、大先生は段々とアドレナリンが出てきているのが傍で見ていてもわかる。音のハリが誰よりもよくて金属的なよく響く音がするのだった。打ち続けているうちに、視線はどこをさまよっているのかわからなくなり、口では歌詞を歌っているように唇が始終動いている。まさにトランスした状態のようになった大先生を誰も止めることができず、「次はあれ、行こう」「今度はこの曲だ」と結局、全曲をぶっ通しで聞かせてもらうことができた。なんと素晴らしいことだろうか。

ユータ君は声もなかなかいいのだった。

お昼ご飯がやってきた。

大先生を交えて、こうなったら全曲通しで演奏だ!

大先生の手には太鼓豆ができていた

 結局、先生のお宅を後にしたのは午後5時となった。夕方からは地元の高校生がレッスンに来て、まさに伝統芸能として引き継がれているのを目の当たりにすることもできた。ヨルバ族のバタを使ったサンテリアの音楽は、想像以上に素晴らしいものだった。キューバには様々な伝統音楽が今でも引き継がれているとガイドブックに書かれてあったが、今日はその1つの「サンテリア」を通して関わる人々に出会い、その生活を見せてもらうという貴重な体験ができた。こんな機会を与えてくれたユータ君に本当に感謝したい。


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