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2011.01.13 Vol.1
「深夜特急」でバンコクからサムイ島へ
タイ:サムイ島

 「まるで、小説『深夜特急』みたいだ。」そう言って、ぐびぐびとビールを喉に流し込むと急に旅情が沸いてきた。

 今日はバンコクからサムイ島に移動する日。前回ピーピー島に行った時にバスで往復してとても辛かったので、今回はちゃんと体を伸ばせて眠れる列車の寝台車にしたのは正解だったようだ。バンコクのカオサンで集合してバスに乗ったら目的地の島行きの港に連れて行ってくれるバスと違い、列車は駅まで行かなくちゃいけないし、到着した駅から島行きの港までバスで移動しなきゃいけないという煩雑さがあり、かつ値段もバスよりも高いのだが、体が楽だというだけでなく、「旅」の雰囲気という面でも列車に軍配があがる。

 出発はフアランポーン駅からだった。カオサンからは赤のバス53番で行く。途中でバスを乗り換えたり、交通渋滞があって40分くらいかかったが、いつどこで降りたらいいかと不安げな私たちを見て、周囲のタイ人が「駅に到着したら教えてあげるから心配するな」と言ってくれたり、「もう少し先で左に曲がったらすぐ駅だから」などと進行状況まで教えてくれてとても親切だった。カオサンにいると白人観光客が多くて、流暢に英語をあやつるけれど心が許せないようなタイ人やインド人も見受けられ、普通のタイ人の人の良さを忘れそうになる。バスの移動ではこの雰囲気をそのまま島まで持ち込むような感じになるのに対して、列車の旅では一度カオサン影響下をはずれるのがいいんだな、きっと。

 フアランポーン駅はヨーロッパの駅みたいに天井が高い建物で改札がない。手前の待合ロビーには正面に向かってきちんと椅子が並んでいて、正面壁の真ん中には王様の肖像画、左右には出発と到着の電光掲示版が掲げてある。午後6時には国家が流れザザッと全員が立ち上がって王様の肖像画に敬意を示すのだった。こんな光景も見た事がなかったので新鮮だった。

全員立ち上がるのでビックリ。

足元には時々お客様がやってくる。

駅内のフードコートで夕飯、リーズナブルな値段で量も味も満足。

 駅内のフードコートで夕飯を済ませて、トイレで歯磨きなどして待っているうちに乗車の時間になった。寝台二等車(扇風機)というクラスの車両内は通路をはさんで両脇に2脚ずつ椅子が向かい合っている車両だった。自分たちの場所に行くと、さっそく隣に入っていたフランス人カップルが尋ねてきた。

 「ここは寝台二等車でしょうか?」

 確かにベッドが全く見えないので初めての人には寝台車には見えないだろう。

 私たちはインドで似たような車両を体験していたのでわかる。おそらく上の棚が開いて上段のベッドになり、椅子を伸ばして下段のベッドにするのだと説明しながら、近くの係員にも確認をするとフランス人は愉快気に納得して自分たちの席に戻って行った。

 この車両には外国人旅行者が集められているようだが、隣のフランス人カップル初め、誰もが未知のアジアの旅に少しの不安と大いなる期待を込めているのが表情に見てとれる。あー、なんだかいいなぁ、この雰囲気。


プラットフォームにゴミ1つない。人が牛がいて、
床に寝たり床にご飯を置いて食べているインドとは大違いだ。
インドと比べるなっちゅーの。
 定刻通り午後7時半きっかりに出発した列車は、暗くなったバンコクの街中のバラックの家が線路をはさむように建っている中を縫って走る。昼間に見るバラックの家はいかにもスラムの感じがするのだが、こうして夜のスラムを通るとテレビを囲む家族の姿や食事の支度をするお母さんがいて昼間感じる悲惨さが薄れて見える。自分は見えている景色から短絡的に想像して相手に憐憫の情を持ったり温かい家庭だと思ったりしてることに気づかされたりしながら列車は進んでいった。


 列車の旅のお楽しみといったら、食べる事!特にアジアの列車の旅ではインドでも中国でも食べ物の物売りが来てとても楽しかった。タイも期待していたら、まずは食堂車からの出前メニューが配られた。オフィシャルの食事は通常の食事値段の4倍くらいしてとても食べる気にはならない。というか列車に乗る前に夕飯は済ませていたので、食べる必要はないのだ。

 しかし、オフィシャル出前をかわした後にやってきた気軽な値段の車内販売にはやられてしまった。お弁当40バーツだ。卵焼きとひき肉のバジル炒めがご飯の上に乗ったやつ。こうなってくるとビールも欲しいとついついオフィシャルのビール大瓶を買ったら140バーツ。日本円で考えたら385円なんだけど現地物価で考えるとびっくりするような高価だが、もう食欲は止まらないのだった。いやー、楽しい。たまにはこうししてパーっと欲望のままに飲み食いしてもいいだろう。

オフィシャルの出前メニュー

安い車内販売が陽気にやってくる。

買っちゃった、お弁当。

んでもって、ビールも飲んじゃった・・・楽しい。

 私たち食欲にあてられたのか通路をはさんで向かいの白人兄ちゃんがオフィシャルのオレンジジュース屋に声をかけて「あのー、オレンジジュース」といいかけた。値段を聞こうと思っていたのだが「ハウ・マッチ」と彼が質問した時には「40バーツだよ」という答えとともにおじさんはジュースにプスッとストローをさしてしまった。「はーー」とため息をつきながら兄ちゃんは市価の倍額の果汁が入っていなさそうなオレンジジュースを飲み始めた。次のオフィシャルじゃないお菓子売りのおばちゃんには「ハウ・マッチ?このナツメやし」と素早く聞いてから買うという学習効果を発揮していたので、行く末が楽しみだ。

 夜8時半近くになるとベッドメーキングが始まった。一人の担当男性がこの車両全てのメーキングを行う。1つずつ上の棚を開いて、丸めてあるマットレスを開き、マットレスをシーツで包んで、枕カバーをつける。

 無駄のない動きは美しささえも感じさせ、ほれぼれするほどだった。

 シャッターがしめられてベッドがずらりと並ぶと、誰もが夜の雰囲気になってそそくさとカーテンを閉めて自室に入りこみ、まだ夜浅いというのに車両内はにわかに静まった。私も上の段にもぐりこんで本を広げたのだがビールの力もあってついくーっと眠りこみ、はっと目覚めたらすでに午後11時半。

 まっさらでピンと気持ちのいいシーツの上で熟睡しながらの移動はとても快適だった。

 一夜明けて1月13日の午前7時半、約1時間遅れでスラータニの駅に到着した列車を降りて見ると、実にたくさんの外国人客。

 駅の外には港までの送迎バスが待機していた。ここからの送迎バスとその先のフェリーのコンビネーションチケットはバンコクで買ってきていたのだ。美しいバスと非常にぼろっちいバスがあったので、まさかと思いつつ美しいバス近くの係員にチケットを見せると、「お前のバスはあっちだ」とぼろっちい方を指さされる。まぁ、最安値を売りにしている旅行代理店で買っているから薄々予想していたことだった。

 ここからフェリーの出るドン・サックDon Sakまではバスで2時間もかかるとはあまり予想していなかったので大丈夫だろうと考えたのと、タイでは荷物をバスの下に預けると盗まれそうな気がしたので車内に持ち込んだ。しかも、バスの座席のリクライニング機能がほぼ全席壊れていて椅子が倒れっぱなし。後ろに倒れ座って膝に山盛り荷物という姿勢で2時間耐えることになった。足がしびれて感覚がなくなってきたころに港に到着。朝ご飯を食べるチャンスもなくトコロテンのようにフェリーに詰め込まれていく。あいにくの天気ということもあって船倉の座席はほぼ満席となり、後部の売店に人が詰めかけてサンドイッチや飲み物を買う行列を作っている。列車を降りてから、ワイワイとおんぼろバスに乗せられて、ぎっしりのフェリーに食料を求める行列。これから南国リゾートに向かうというよりは、どこぞから逃げてきた難民の集団みたいな移動になってきた。昨日の夜までは優雅な旅気分だったのにバスチームと合流するとこの有様となる。
 

 とにもかくにも、サムイ島に上陸した。

 少し面白かったのは、サムイ島に到着近くになると船内の特定のお客さんにだけ声をかける女性が出現していたことだった。

 「あなた、宿はどこ?どちらまで行きますか?チャウエン?ラマイ?」

 観光客の大方はチャウエンビーチかラマイビーチに行くと相場が決まっているようで、この女性はミニバス手配師だったのだ。サムイ島のタクシーは恐ろしく値段が高いので有名なので、この女性の一人150バーツという話にほいほいと財布を開く人が多かった。というか、よく見ると財布を開きそうな人にしか声をかけていない。愛想がよくて人の話に耳を傾けるお行儀のよい観光客にだ。従って、もちろん私たちにこの話はこなかった。

 予想通り、船を降りてすぐの場所にテンソウと呼ばれるピックアップトラックを改造した乗り合いタクシーが待機していて一人75バーツでチャウエンまで連れて行ってくれるということが判明した。

 このテンソウとて運転手の言い値は100バーツだった。たまたま隣のタクシーの客が運転手と最終値段を確認する「じゃぁ75バーツですね」という会話が耳に入ったので交渉して75に下げたのだが、そうでなかったら100バーツ払っていた所だった。タイはこういう細かい落とし穴が多い。面倒くさい白人さんはたかが数十円の違いじゃないかとおおらかに支払う。外国に出ると急に吝嗇化する日本人はとことん小銭でも交渉する。そしてタイ人はますますファラン(白人)好きになっていくようなのだ。

 同乗したのはイタリア人夫婦、中東系ドイツ人男性2人、ロシア人女性1名という面々。サムイ島には本当に世界中から観光客が押し寄せている事を実感する。イタリア人夫妻はネットで既に予約したという宿で降り、ロシア人女性は謎の笑みを浮かべながら宿もない場所で降り、残る私たち4人が予約なしでチャウエンビーチに向かう観光客だった。5年前にもここに来たというドイツ人が降りたあと、私たちはめぼしをつけていたチャウエンビーチ最北部にあるバックパッカー宿(Moon Light)前に降ろされたのだった。

 12月までが雨季というサムイ島、この日はまだ雨季を引きずった曇天が雨に変わっていた。リゾートらしからぬ雨模様の中、訪ねたバックパッカー宿は満室!引き続き宿探しをしなくちゃならない羽目になった。さー、ピンチだ。


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