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2009.08.06
島で一番高い場所をめざす
クロアチア:ラブ島

 さーて、今日からラブ島探検の開始。まずは自転車を借りてサイクリングしながらビーチ巡りだ!と張り切ってお弁当まで作って朝早く山越えしてラブタウンまで歩いてきたのに、レンタサイクルするのにIDが必要ってことを思いつかずパスポートがないために挫折。

 仕方ないので旧市街散策と旧市街にくっついている岩ビーチに予定変更となった。

 旧市街は徒歩30分もあれば周れてしまう規模の場所だが、フェリー乗り場から急な斜面を登って昔ながらの教会を見たり、石畳の小道を歩くのは風情があった。
 

 旧市街の向こう側の海へは所々で階段で降りられるようになっている。そこから隣町まで約4kmくらいだろうか海沿いに細長く遊歩道がつけられていて、人々は遊歩道にタオルを広げて思い思いにくつろいでいた。隣町まで行くと宿がたくさんあるせいか人も多いが細長い湾の内側に入ってしまうので旧市街に近い外海近くの方が水質はきれいだった。

 今日はゆっくりと泳いで・・・。という計画にしてみたのだが風が冷たい。午前中はまだ海水温が上がっていないせいだと思っていたのだが、木陰のベンチでお弁当を食べて正午になってもまだ風が冷たい。日陰にいると体が冷えて寒いくらいの気温だ。今日は泳ぐのはダメだ。こんな時は、そうだ!山に登るのがいいんじゃないだろうか。

 ということで2度めの計画変更。ラブ島で一番高い400m超の地点までハイキングすることにした。

 ラブ島の全体図で言うと真ん中あたりを下側の旧市街から上側の一番高い山まで登って、アパートのあるムンダニエまで歩いて帰って来たことになる。

 旧市街の海沿いからは公園の中を通ってコマーシャルセンターに行ける。コマーシャルセンターを突っ切って最後の八百屋を右に折れて300mくらい進むと、車は入れないが民家の横道をそのまま直進して山に上がる細い道が続いている。

 この九十九折の山道を登っていくとムンダニエ地区を走るオレンジの太い通りに出るのだ。ここまではいつも私達が旧市街のマーケットに行く時に使うトレッキングパスだ。


分岐点の看板。肝心の山の名前と高さの1の位が
木に隠れて見えない。ま400数メートルでした。
 オレンジの自動車道に出たら左方向にしばらく歩くと、車も走れる右折道路(山に行くならこっち→という看板もある)がある。ここを右折して一本道をたどっていくと山の頂上に到着できた。

 右折の看板から曲がってすぐに道はどんどんと傾斜を激しく上っていく。周囲の農家ではブドウ、茄子、トマトなどが栽培されて夏の盛りの元気な農園風景が繰り広げられていた。クロアチアの民家では大なり小なり家庭菜園で食べられるものを育てている家がとても多い。お庭が広いということだけでなく、国民所得に対して物価が高すぎ利う現状を回避しようという生活の知恵なんだろう。

 15分も登ると午前中に滞在した旧市街が遠く眼下に見えてくる。赤い屋根の家々と美しい色の海、海と緑の陸が入り組んだ、いかにもクロアチア的だった。クロアチアは目線の高い場所から見ると本当に素敵な風景の多い国だ。

 旧市街を右手眼下に見ながら歩く道は、やがて大きく左カーブそして右カーブをを作った後に急激な上り坂になって岩山を回りこむように歩く。急な坂は最終的には旧市街を背にした所まで回りこんで、後は緩やかな坂になるのだった。緩やかな坂の両脇には潅木とごろごろと転がる白っぽい岩の荒涼とした世界で、岩山を回りこむ前の草木の緑に満ちた世界とは一辺したのが面白かった。両脇に転がる岩と同じ白い道はひたすら緩やかに登った先で途切れて見えない。一体どこまで歩けばいいのかと不安になるこの風景の左手に見えている電波塔が最終目的地だった。

旧市街を背にして坂を登る。この坂が一番きつい。

急坂を上がりきった先は荒涼とした世界。
遠く左手に見える電波塔が最終地点だ。

 ところで、緩やかな坂を登って行くと途中に何とレストランがある。ここまでは車やバイクでも来られるので私達が通りかかった時も休憩しているバイカー達がいた。このレストランについては後日、ちょっと面白い話があった。

 私達が借りているアパートは大きな一軒屋で、1階がオーナー居住区、2階と3階を旅行者に貸している。各階には2ベッドルームとシャワー・トイレとキッチンがあるのだが、3階の人は必ず2階を通らないと外に出られない。私達がいる間ずっと、ドイツ人家族が一緒だった。ドイツ人家族は叔父さん家族と甥っ子家族の2家族で来ているので3階まるまると2階の1部屋を使うことにして、私達は2階の残りの部分を使うことになった。こういう変形な借り方なので、私達は自分達のベッドルーム、シャワー・トイレ、キッチンにそれぞれ別の鍵があるという面倒な事になっていた。いちいち鍵をかけるのが面倒くさいので、家に滞在している時は扉も開けっ放しで生活していた。

 ドイツ人の家族はゲルマン系の人種ではなくアラメア人というアラブ系の顔立ちの人たちだった。ドイツで生まれ育ったというもののアラメア人親族で集まって暮らしているせいか、人懐っこさがまるでアラブ系。私達のキッチンの扉が開けっ放しになっていると何も言わずに通り過ぎるのが悪いと思うのか、必ず立ち寄って2〜10分くらい話をしていくようになった。ということであっという間にお互いの年齢、国籍、職業などが知れることになり、毎日「今日はどーした、こーした」と報告する仲になっていた。

 そんなある日、叔父さん家族が夕方からめかしこんで出かけていくのが見えた。美人で陽気でお洒落な奥さんは特に今日は洒落ていて、大粒の白いネックレスにスリットの入ったタイトな水玉ワンピース。メイクもバッチリだった。上のお嬢ちゃんも英語が話せるおしゃまな12歳で、ママと同じように可愛いワンピース。いつものように軽くおしゃべりして「行ってらっしゃーい」と見送って20分くらいもしただろうか。車の音がして家族が帰って来た。食事にしちゃぁ随分と早いお帰りだねぇと夫と話していたら、ママとお姉ちゃんがどたどたと家のキッチンに走りこんできたのだった。

 「どーしたの?」

 ママはマニュキアが美しく塗られた手で胸を押さえて、動悸がおさまるのを待ってから弾丸のように話し出した。

 「どーもこーもないのよ。今夜はね、山の上のレストランに行こうとしてたの。そこは島で一番高い場所にある素敵なレストランだって聞いたからいい思い出になると思ったのよ。きっと夜景もきれいでしょうしね。ところがね、途中からとーっても急な坂道になって車が坂を登れなくなっちゃったのよ。ところが道は狭いし、見たら反対側は断崖絶壁だしUターンしようにもできないでしょ。私たち、怖くて怖くてし方なかったけどゆっくりバックして坂を降りてきたってわけなのよ。」

 途中でお姉ちゃんの「ほーんとに怖かったわねぇ、ママ。私達、崖の下に落ちちゃうんじゃないかと思ったら、私、ドキドキしちゃった」という合いの手も入って、静かだった我が家の食卓が急に劇場になった。

 ははーん、あの坂だな。と私達は行ったことがあるのでピンと来ていた。確かに上まで来ていた車は四駆のランドクルーザーのような車かバイクだった。乗用車で来ていたフランス人家族は坂の下に車を停めて徒歩で上がってきていたなぁ。叔父さん家族の車はベンツのワゴンなんだけど、それでもだめだったらしい。それにしても車が上に登れないとわかった時点で運転者以外の家族3人が車を降りてみようとしなかったんだろうか。と思ってふとママの足元をみると、ピンヒール。なるほど。降りるわけがない。話を聞きながら気の毒とは思うが大騒ぎする一家の状況が目に浮かんで沸々と笑いがこみ上げてくる。

 必死に笑いをおさえながら「そぉー、大変だったねぇ」と相槌を打っていた。

 ママとお姉ちゃんはひとしきり状況を説明すると、「ということで、今日は町のレストランに行くことにしたの、じゃ、行ってくるわね」とくるりと踵を返して2人でキッチンを出て行った。そしてすぐに車の音がして家族がお出かけ。

 ねぇねぇ、あの人たちはどうしてここに戻って来たんだろうか。あの興奮を誰かに話さずにいられなくって、そのために戻ってきたんだろうか。と私達は大爆笑。全くもってキュートな家族だった。山の上のレストランを思い出すと、あの可愛い奥さんとお嬢さんが大興奮してキッチンで話す姿がありありと思い出されて頬が緩む。

 話が横道にそれたが、このレストランを過ぎて尚もダラダラとゆるい登り坂を歩いて電波塔に到着。電波塔の裏側が一番高い場所だった。そこにはもう樹木が生えていなくて、辺り一面は真っ白な岩がゴロゴロと転がっている。登山家が頂上で行うように所々に石が積み重ねられているのが日本人の私としては幼い頃に絵本で見た三途の川原を思い出させてちょっとゾクッとするような風景だった。

 この岩ゴロゴロの中にもよく見ると人が歩いて踏み固められた細い道がある。ここを伝ってもう少し先に行くと、急激に下り坂になって青い海まで見下ろせ、その先にクロアチア本土の緑の森が見える風景になっていた。クロアチアの島はどこも大抵、本土側が急激な坂や崖になっている場合が多いが、ここも例外ではなかった。

 海は深い青色で島の反対側のエメラルドグリーンとは全く違う色合いだった。

 対岸の本土が見える場所からもっと左手に移動すると、ラブ島の北部、ロパール地区の先に浮かぶ2つの島が見えてくる。ほとんど樹木が生えていないのでベージュの砂丘のように見える島が真っ青な海にぽっかりと浮かんでいる。背景を作っている海と青い空は境界線が曖昧で、まるで青い幕の上にベージュの島を画像で切り取って置いたような非現実的な風景に私達は長い時間見とれてしまった。


 さて、ここから同じ道を使って戻ることもできるが電波塔を背にして右側に折れる道に行くと車が入れないトレッキングパスが下まで続いている。

 途中までは島民の私有地を歩かせてもらっているのだろうか、石垣で区切られた敷地を金網の扉を開けたり閉めたりしながら進む道だった。石垣には赤と白のペンキで丸印がマーキングされているので、ここが正しいトレッキングパスだとわかるようになっていた。

 途中、右の丘の上に石を積み重ねて円柱にした場所が見えた。地図にも展望ポイントのマークがあるので行こうと思ったのが道がないので、石垣を乗り越えて行く羽目になった。何か間違っていたかもしれないが、他に道が見つからなかったから仕方ない。大人になってからこんな風に他所ん家の石垣をよじ登ることになるとは思ってもいなかった。展望ポイントからは旧市街が一望できてなかなかいい眺め。よじ登った甲斐はあった。
 

 再び元の道に戻って細い道を緩やかに下りながら歩いて行った。

 最後に岩山を回りこんで谷部分にある森を一気に下っていくように地図ではなっているのだが、ここが一番トリッキーだった。というのもトレッキングパスの表示が間違っているようなのだ。どう見ても道には見えない急斜面を下れという矢印があり、少し下ってみたのだが先に行けない。

 ここは谷の一番深い場所まで歩いていって、そこから下る道が正解だった。

 森の中を下って来る時に歩いてきたアスファルトの自動車道に接続したら、あとはもう楽勝だ。アパートのあるムンダニエの手前にある分岐点から自動車道を通って頂上まで行き、山道を下って分岐点に到達するまでの所要時間は2時間15分という所だろう。旧市街を出発点にしたら分岐点から旧市街の往復で40分プラスになる。

 午後の一番暑い時間帯に行ったので苦しかったが、午前中の涼しい時に行けばそんなに大変ではない。海に飽きたら山という楽しみもあることがわかった。

 アパートに戻ってすぐに甘くてジューシーで冷たいスイカを食べた。ふー、旨い。夏休み気分満喫だ。


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