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2009.07.10
クロアチアにもある「青の洞窟」
イタリアのカプリ島にある「青の洞窟」は日本でも有名だが、「同じような青の洞窟がクロアチアにもあって良かったですよー」と前回の旅で知り合ったアキコさんからメールが入った。タイミングよく情報をくれる旅友は素晴らしい。他の旅行者に聞いたら「青の洞窟」はギリシャにもあってそちらで行ってきたという。ヨーロッパだけで3つも青の洞窟があるのに1つも行っていない私たちは、俄然クロアチアの青の洞窟行きに鼻息を荒くしたのだった。
クロアチアの青の洞窟は本土のスプリットからまっすぐ南にあるVIS島の近くの小さな島にある。ガイドブックの情報でスプリットから行くつもりだったが、フバール島に来てここからもツアーがあることを知った。フバール島からの方がずっと距離が短い。長く遊べて料金も安いだろうとフバールから行くことに決定した。
ツアー代金は一人KN350(7000円)。お昼ごはん付きで朝9時半出発、緑の洞窟、青の洞窟を巡ってからVIS島で2時間自由時間の後、午後7時過ぎにフバールに戻るという丸一日ツアーだった。
私たちは旅行代理店で前日ツアーチケットを購入したが、同じく前日にフェリー乗り場でBlue
Caveと書かれた立て看板で販売しているチケットも当日販売しているチケットも、皆同じ会社VAGABOUNDOに通じていて値段も全て一緒。この一社しかやっていないようだ。
朝8時40分に船に乗り込む。席は日陰になった場所から埋まっていて日向の席しか空いていないのだが、実は日向の席で正解だった。クロアチアは夏だ、日差しが高いぞ、暑いぞといっても実は緯度がなかなか高い。つまり水に入れば冷たく、日陰で風は涼しいという国だ。船が動いていない時は日陰が涼しくて気持ち良さそうなのだが、一度走り始めるとだんだんと寒くなってくるのがクロアチアのクルージングなのだ。走り始めて30分もすると日陰の席では長袖を羽織ったりバスタオルを体に巻きつける人が多く出始めていた。
午前11時10分、無人島に小さな洞窟が2つ並んだ場所が見えてきた。お、いよいよ青の洞窟か?前に見える先発の船からは観光客が海に飛び込んで洞窟に向かって亀の子のように泳いでいる。
あーあー、安いツアーだったのかねぇ。私たちのツアーは小さなボートに乗り換えて洞窟に入ることになっているから、あんな風に自力で泳いで泳いで行かなくってもいいんだもんねー。って、ふと自分の船を見ると「ドッボーン」と皆飛び込んで亀の子になっているではないか。私たちはややパニックに陥り、次々に海に飛び込もうとする観光客の間を縫って船員を見つけて「こ、ここが青の洞窟?泳いで行かなくちゃいけないの?」とすがりつくと、別の観光客が「大丈夫、ここは緑の洞窟だから。青の洞窟はちゃんと小船で行くんだって。私も今、全く同じ質問をした所なのよ」と教えてくれた。ふー、良かった。
クロアチア人やイタリア人は海慣れしているからシュノーケリングマスクも付けずにどんどん海に飛び込んでいるが、洞窟までは50mくらいもあるだろうか。私にとってはちょっとした距離だ。
緑の洞窟、どんな風になっているか気になるものの泳いで行くのはちょっとねぇ。と思っていたら、夫が「行け、行け、シュノーケリングマスク付けて行け」と指示する。彼は全く行く気がないようだ。このままじゃ、緑の洞窟かどうなっているかわからず終いじゃないかと思うと行かざるを得ないので覚悟を決めて海に入っていった。
洞窟の中は暗く、一体きれいなのか、本当に緑なのかシュノーケリングマスクをつけているからさっぱり見えない。ええい、ままよとマスクをはずしてみると、洞窟の真ん中辺りの天井に穴が空いていてそこから入る日光が照らした海面が丸く緑色になっていた。そういうことか。メキシコの東海岸にセノテと呼ばれる洞窟の中を地下水が走っている場所があってそこを泳いだりできるのだが、セノテにもこういうのがあった。
なるほど、なるほどと理解して、さて帰ろうかとマスクを装着しようとするのだが水中で片手で泳いで片手でマスクをつけるということができない。や、やばい。このままマスクなしで船まで戻れる自信はないし・・・。とにかく洞窟の縁まで行って泳がずに立てるような場所を見つけたかったのだがそれもない。しかたなく両腿で洞窟の壁面をはさんで何とかマスクを装着して船に泳いで戻ったのだった。
岩で両腿にかすり傷をつくり、じょじょにマスクに浸水してくる海水の恐怖と戦いながら船に戻ると夫が船の上から「おい、おい、写真取るからこっち見ろよ」と言っているのが聞こえた。しかしこっちにはそんな余裕がない。早く、早く船にあがらなくっちゃ。夫の声を無視していたら「何一人でパニクってんだよ、ったくもー、余裕ねーのかよ」と上から声が降ってきた。
そんなパニックの(他の人にとっては楽しい)緑の洞窟が終了した後はお昼ご飯となった。船内は向かい合わせ4人掛けテーブルが並んでいるのだが、謎の東洋人の私たちの隣には誰も座ろうとしない。こんな私たちとお似合いなのはあの人たちしかいないなぁと思っていたら、ついにあの人たちがやってきた。あの人たちは緑の洞窟に到着する前から私の注目を引いていた。ごつい体の男2人連れで、2人だけで超陽気にはしゃぎながら葉巻なんか吸っちゃってる。どうみてもホモセクシュアルのイタリアンマフィアで誰もが引き気味な存在だった。「ここ空いてるかなぁ?」と聞かれて他の席も全部埋まっているし、イエスというしかない。さぁ、どーなる。
各テーブルには白ワインとパンが置かれていった。兄貴分の方がパンに手を伸ばし、弟分、そして私たちもパンに手を出す。兄貴は白ワインには目もくれないので、私たちは「あのー、ワイン頂いてよろしいでしょうか?」と聞くと兄貴はワインのビンの口をくんくんと嗅いで「うわっ、こりぁ酷いよ」と言った。酷くてもいいから飲みますというと、じゃぁ最初の乾杯は一緒にしようと兄貴は4人分をグラスに注いだ。
「チアーズ!」と乾杯して喉が渇いていたので一気に空ける。じゃぁ、もう一杯ずつと注いで、今度は「チンチーン」とイタリア語で乾杯。ほいじゃぁ3杯目は日本語で「カンパーイ!」。これだけで意気投合しちゃって、あんなに顔をしかめていたB級ワインでここの4人だけ大盛り上がり。料理が出る前に1本空けてしまった。兄貴は「この船のキャプテンは俺の友達だから」ともう1本ワイン取り寄せちゃって、食事が来てからも飲み倒し。食事は一つのお皿にマグロのステーキとキャベツのサラダというシンプルなもので巨漢のブラザー達の胃袋を満たすはずがない量だった。すると兄貴は船のバーカウンターの方に行ってなんじゃかんじゃと陽気に話してもう2皿せしめてきた。お陰で私たちは通常の1.5倍の食事にありつくことができたのだった。素晴らしい。
話してみると、彼らはイタリア人というのは当たっていたがホモセクシュアルでもマフィアでもなかった。兄貴がローマでレストランを経営していて弟分が経理を担当しているらしい。
たまの休暇に口うるさいガールフレンドを逃れて気の合う弟分とバカンスに来たというわけだった。なーんだ、そういうことか。ホモセクシュアルかと思ったと言うと兄貴は「こいつ(弟分)と2人っきりだとそう思われると思ってたんだよねぇ」と豪快に笑っていた。
思いのほか愉快なランチタイムを過ごした後、いよいよ本命の青の洞窟に到着だ。6〜10人ずつ小船に乗り換えて青の洞窟へと向かった。小船の料金KN30(600円)はツアー代金に含まれていた。
ここまで本土から離れると水も素晴らしく美しく、この先の青の洞窟への期待感が高まる。小船に乗って青の洞窟までは5分とかからない。想像していたよりも入り口が大きいので気持ち頭をかがめるくらいで中にすっと入っていった。それまでの光にあふれる世界とはまるで別世界の暗く冷たい洞窟は海面も真っ黒でよく見えない。どこが青いんだといぶかりながら数メートル進むとボワーッと海面がブルーのネオンのようになりそれが視界の端から端まで広がってさざなみのように小船の中に感動が伝わっていった。
洞窟は一番先端の海中に穴があいていて、そこから入る太陽の光が入ってきているので最初はやや暗いブルーから始まって先に行くほど明るく輝くブルーになっていった。
洞窟の中を先端まで行ってしばらくたゆたう。あまりに突然の夢の世界への突入に皆言葉を失って静かにブルーの中に存在していた。
ゆっくりと船が向きを変えて出口に向かうと、ブルーの中に次の船が浮かんできた。来る時とはまた違う雰囲気と海面の色合いに、うわーっと囁き声で歓声があがる。やがて見えるまぶしく白い外界への穴は入ってくる時よりも輪郭がくっきりと見えるためか小さく見える。そのままでも当たらないとはわかっていながら、皆体をすくめて通り過ぎた。
洞窟内での滞在時間はほんの5〜6分で次のボートが待っているので中で泳ぐことはできなかったが、洞窟の外に小船の行列ができることもなく、カプリ島のように船頭さんがチップを要求してくることもなく、静かで落ち着いていい感じのツアーだった。
少人数ずつ青の洞窟に向かっているので、洞窟見学が終了した人から海に入って海水浴。今まで見たどのクロアチアの海よりもきれいな水で皆大喜びのおおはしゃぎだった。
最後の目的地はVIS島。立ち寄ったのは島の中でも人が少ない村だったが、ここにもSobe(民宿)の看板が出ていてレストランやカフェがこの規模の村にしては多い場所だった。
ここで2時間の自由時間が言い渡された。私たちは左右にあるビーチを見学して回り、その中で気に入った1つに落ち着いてから帰り際にアイスクリームを食べて戻ってきたが、カフェで大きなパフェを食べたり、イタリアン兄弟のように更にピザを食べたり(あれでも昼飯が足りなかったようだ)と過ごし方は様々。さっきの青の洞窟の付近の海に比べると、すでにここはやや質が落ちる。一度贅沢を知ってしまうと元に戻りにくいのは海についても同じことだ。VIS島の海につかりながら、「ああ、さっきの海は良かったなぁ」と思ってしまうのだった。
午後4時半にVIS島を出た船は逆風にやや難航して、来る時よりも揺れが激しく時間もかかりながら午後7時過ぎにフバール島に戻ってきた。青の洞窟だけでなく美しい海で泳げる時間もたっぷりあったし、お昼ご飯は基本的にしょぼいけどイタリアンブラザーのお陰でたっぷり食べられたし、なかなかいいツアーだった。
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