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2009.06.26
ドブロニク初日の宿探しに見えるクロアチア人気質
初めて訪れる国クロアチアは、上空から見えた美しい海とバスターミナルに向かうシャトルバスから見えた赤い屋根の素敵な旧市街が印象的な町だった。インターネットで予約しておいた宿のご主人が約束通りにバスターミナルまで迎えにきていてくれて、すんなりと宿までたどり着き、ここまでは順調。
しかし、私たちはドブロニクで1週間ほど滞在して観光と今後の計画をじっくり立てようとしていた。それには環境が必要だ。今の家にはその環境がない。
予約した家はいわゆるソベSobe。普通のお宅の空き部屋に宿泊するというシステムでクロアチア全土で行われている。政府に登録したソベにはブルーの小さな看板が与えられて家の門などに掲示しているが、登録していない家も違法だが宿業を行っているのでこの限りではない。
また、ソベといっても家族のキッチンを使える、使えない、他の宿泊客とバスルームが共用か個別かなど条件は家によって様々なのだが、今の家の場合は宿泊客は客室と各客室専用のバスルームのある空間以外は家主のプライベート空間で立ち入りできないようにしてある。聞いてみるとキッチンの使用はできないと言われるし、部屋に冷蔵庫がなく家主に毎回断って家主側のスペースにある冷蔵庫から物を出してもらわなくてはならない。家のお父さんもお母さんもとても感じの良い人なのだが、こういう点で融通を利かせる気は全くないらしい。礼儀正しく笑顔を絶やさないが、簡単に一線は越えさせない感じが日本人みたいだと感じた。
お父さんもお母さんも感じが良いし、家も至る所に草花が見えて清潔で美しい、窓からはアドリア海も見える。いい所もたくさんあって1日、2日を過ごすにはいいだろうが1週間となると違ってくる。私たちの場合、必須条件はキッチンとなり清潔度や家主の感じの良さは二の次になってくる。今後1週間の宿を探さなくては。キッチンが使えないとわかった瞬間、私たちの今日のお仕事は今後の宿探しということに決まった。
予約した家はフェリーターミナル近くにあるインフォメーションのある場所から100m程山側にあがった場所にあった。バスターミナルも近い、お父さんが車を持っているので送ってもらえる、インフォメーションの近くには魚市場も立つという好条件だった。できればこの近くで探したいと思って、まずは近所のSobeマークを掲げている家をあたってみることにした。Sobeマークは2〜3軒おきくらいに頻繁に見つかるので片っ端から訪ねていった所、わずかな時間で2軒のキッチンが使える部屋が見つかった。
1軒は一人一泊110クーナ(クロアチアの通貨、以降KNと表示する。KN110=US$22)。因みに今の宿は一人一泊KN90なので800円増しでキッチンが使える環境になる。ここは最初お母さんが玄関口に出てきたのだが、私たちを見ると「ああううう」となにやらうなるように言いながら奥に消えてかわりにお父さんが出てきて対応してくれたのだ。お父さんはソベの認定証のような額縁に入った紙を私たちに見せながら「通常KN130のところ110にディスカウントする」と言ってきた。キッチンを使うとなるとお母さんとのコミュニケーションが密になるのに、お母さんがあんなに腰がひけていたらややこしい事になるという直感と、お父さんが見せてくれた認定証にはハイシーズンKN130、ローシーズンKN110書かれていて今の時期はローシーズンなのでKN110はディスカウントでもないのにディスカウントだと言ってきたお父さんにやや不信感も芽生えてしまったのでキッチンと部屋を見せてもらったものの返事は保留させて欲しいと申し出た。お父さんは「この値段が高いと思うのか?何が気に入らないんだ?問題がないならここにすればいいじゃないか」とやや強気に出てきた。このお父さんの対応はハンガリーのブタペストで宿探ししていた時に出会った家主に似ている。お客さんが色々と品定めして物を選びたいという心理が理解できない人。与えた中から選べばいいという反資本主義的な考えから来るのか、インドや中東で経験したように自分都合で客のことはどうでもいいという考えから来るのか。お父さんの場合は前者のような感じがした。
もう1軒はお母さんがきりもりしている家でお母さんとキッチン共有で一人一泊KN100。1軒目よりは値段が安いし、お母さんの気安い感じがよかった。しかし、2軒目にして値段が下がるということは、もっと探せばもっといい物件があるかもしれない。このお母さんには正直に「もう少し見て回って、やっぱりここが良かったら戻ります」というと笑顔で「朝と晩は家にいる確立が高いのでその時間に来てね!」と言ってくれた。この人の対応は通常のヨーロッパでも見られる対応だった。。こういう人もクロアチア人だ。同じ国に住んでいるからといって皆が同じような気質とは思わないけれど、ここまでバラバラな印象を持つ国民も珍しいのではないかというのがここまでの印象。この印象は最後のスローバさんに出会ってなお更強まった。スローバさんはこの日出会った家主の中では最強のキャラクターだったからだ。
もっと安い物件を探してインフォメーションに聞くと、フェリー乗り場にある建物内にエージェンシーがあるのでそこで聞くといいと教えてくれた。エージェンシーを訪ねると誰もいない。隣のブースのフェリーチケット販売窓口の女性が「どうしました?」と声をかけてくれて話すと知り合いがアパートをやっているので電話してあげると、急に携帯で電話し始めて友達が出ると携帯電話をこちらに渡してきた。話してみるとルームではなく孤立したアパートで一泊50ユーロだという。た、高い。「そりゃぁいい物件だろうがあまりに予算とかけ離れている」というと、いくらならいいのかと聞いてきた。今まで受けたオファーの一人KN110だからEUR33くらい。EUR35が上限予算だと答えるとそりゃぁ無理だということになり破談となった。電話をかけてくれた女性は「ま、しょーがないわね」と肩をすくめた。この若い女性はいわばクロアチアの戦後世代ということになるだろう。資本主義となり、ヨーロッパから観光客が押し寄せる時代に育っている彼女はこういう儲け話には非常に敏感で、自分の勤務中でも友達にすぐ電話をするなんて私が体験した中ではマレーシア系中国人に似ていた。
「はい、写真撮りますよー!」といってもまるで聞いていない
スローバさん。 |
私たちに残された選択肢はバスターミナルにたむろしているソベの家主たちとの直接交渉だ。バスターミナルに向かう途中から年配の女性に声をかけられて聞くと一人KN120。最低価格を割らないので却下だ。そしてついにバスターミナルでスローバさんとの出会いがあった。
別の女性から一人KN100のオファーを受けた後にやってきた彼女は、私たちをちょっと離れた場所につれていって私たちが最低5泊したいというと「本当は一人KN90なんだけどKN80でどうか」と囁くように言ってきた。他の人のブログで見てドブロニクのバスターミナルではソベのおばちゃん、おじちゃん達が談合して値段を下げないようにする傾向があると聞いていたので、スローバさんの隅に移動した配慮は本物だと思わせる反面、やや怪しいのか?と思う気持ちもあった。
スローバさんは以前に宿泊していた日本人がモンテネグロの小旅行から帰ってきて再び宿泊するのでバスターミナルまで迎えに来たというので、丁度その人から話も聞けるし、一緒に今から家に行って下見をすることにしたのだった。
スローバさんの車の中はとても賑やかだった。というのもスローバさんの過激な運転にわーきゃーとビビル私たちの声、連れの男性に「家はこんないい所がある、はい、伝えて」というスローバさんの声、その合間を縫って日本語で本当の所はどうなのかを男性から聞きたい私たちの質問と彼の答え。そんなんで10分足らずのドライブはあっという間に終了して家に到着した。
その男性の意見は、スローバ宅はバスルーム1つを他の3部屋の宿泊者と1部屋にいるスローバさんの子供達と共有しなきゃならないし、バスタブなんか今までクロアチアで宿泊した他の場所に比べるとかなり清潔度が落ちるし、場所がどこからも遠くて不便だ。だいたい彼女のキャラクターが過激で朝9時半にバスターミナルに送って欲しいといっていたのに、突然「客引きに行きたいから今すぐ出発する」と突然9時になって言われたことなどネガティブな発言が多かった。因みに彼は2人部屋を1人で利用してKN140となっている。クロアチアのソベでは1人で利用しても2人で利用しても1部屋料金を支払うことになっているが、そう言ってしまってはシングルのお客さんが逃げてしまうので若干値引きするのが常らしい。それでも彼はクロアチアの他の場所ではもっと安かったというのも文句の1つだった。要するにやめた方がいいという話。
ここまで聞いていて、私たちは「大丈夫かもしれない」と逆に思い始めていた。というのも交渉時の値段は一人KN80とかなり安めだし、バスルームの共有も8人で1つというのはバックパッカーレベルとしてはやや少なめだが今まで経験したことがないわけではない、耐えられるレベルだったし、スローバさんの過激ぶりははっきりと物を言うと捉えられた。一応彼女なりの論理があるようなので、ポイントを押さえればコミュニケーションは可能そうだ。笑顔でいながら色々断ってくる人よりはよっぽど付き合いやすそうだというのが私たちの判断。あとは清潔度がどのくらいひどいのかという点と、どのくらい不便なのかという点だ。
家に入ってからもう一度地図上で場所を正確に確認した。なるほど、旧市街からもバスターミナルからもビーチからも離れている。しかし逆にどこにも徒歩で行けそうな距離でもある。はい、この問題はクリアー。そして部屋とバスルームを見せてもらったが、清潔度は私たちが今まで体験した発展途上国の宿に比べたら遥かにマシで全然問題にならない程度だった。彼は日本で生活して休暇でやってきた短期旅行者だ。そういう人から見たら耐え難い汚さに見えてしまうのかもしれない。あらためて自分達のレベルの低さというか許容量の大きさ(笑)を感じてしまった。ということでこれもクリアー。
部屋には専用のバルコニーがあり、キッチンは自由に使えて、しかもしかも、ここでは無料WIFI使いたい放題になっているという。もうこれが決め手。値段も安いし、私たちは翌々日からここのお世話になることになった。現在の宿は入り組んだ場所にあるのでお迎えは大通りに出た所で待ち合わせた。
翌々日、スローバさんは約束通りの時間にちゃんと車で迎えに来てくれた。最初は5日と言っていた滞在だが結局8泊することになった。バスターミナルでのソベの家主同士の客引き合戦は壮絶なものがあるらしく、よく家で「疲れた、酷い目にあった」と文句を言っていた。でも翌日には朝早くから何度もバスターミナルに通ってお客さんを連れてきている。与えられたチャンスに対してとても積極的に頑張っているスローバさんは、言い値をそのまま受けた上に延泊を申し出た私たちに「感謝する、感謝する」と何度も言っていた。雨の日は洗濯物を取り込んでくれていたし、夕食のおかずに作っていたクロアチア料理も作り方を教えた上で試食もさせてくれた(お返しに魚フライをあげたら喜んでいた)。スローバさんは怒る時は怒る、喜ぶ時は喜ぶという喜怒哀楽がとてもとても激しい人だが情も深い人だった。これを書いている今は大分他のクロアチア人とも知り合ったが、こういう気性の人は他にはいない。彼女もまたクロアチア人だ。
宿探しをしていると、その国の人の特に庶民レベルの人の考え方や気質がだんだんと見えてくる。この日もいい宿との出会いとともに、多くのクロアチア人の一面が見えて収獲の多い日だった。
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