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2009.05.22
ポートワインの栄華を感じるゴージャスな町ポルト
超田舎のマダレナにあるキャンプ場からポルトへは1時間に1本くらいの割りでバスが出ている。地元の人も利用するバスは非常に頻繁に停車しながらゆっくりゆっくりとポルトに向かうわけだが、にぎやかなポルトガル人の日常のおしゃべりにどっぷり浸かりながらのバスは悪くない。
Douro川を渡ったらポルトという一歩手前の町はポートワインのワイナリーが川沿いに立ち並ぶビジャ・ノーヴァ・デ・ガイアVila
Nova de Gaia。地元民はここで降りる人が多く、バスに残されたのは田舎のキャンプ場に滞在する外国人が多数になった。ガイアの町の中心地を過ぎると、バスは細くて急な坂道を下り降りる。まるでリスボンのジェットコースター路面電車のようだ。対向車が来たらどーするんだ、っていうか対向車が来ているじゃないか、あああ、危ない。とかなり興奮するスリリングな展開になった。
そんな坂道を下りきると突然にして目の前にDouro川、そしてその向こうにゴージャスなポルトの町が出現して、ジェットコースターの旅が終わってやれやれと思っていた観光客は、今度は大急ぎでカメラの入ったバッグをごそごそとかきまわした。
それにしても何てゴージャスな眺めだろうか。後からガイドブックを見たらちゃんとこの景色が紹介されていたのだが、あまり良く見ていなかった私にとっては新鮮な驚きだった。ポルトってこんなにカッコいい眺めの町だったのか。
大きな橋を渡ってポルトに入る。ポルトも川沿いの斜面に建つ町なのでバスはぐんぐんと坂道をのぼって中心地へと向かう。実は私はバスに乗った瞬間からトイレに行きたくなってたまらなくなり、さっきのゴージャスな景色も気持ちの半分では楽しみつつも半分で「や、やばい、漏れそうだ」と青ざめる気持ちだった。ポルトの旧市街に入って石畳の道になるとその振動が体に伝わって、もう本当に我慢の限界に達してきた。そこで、どこかもよくわからないけど「とにかくバスを降りなければ」と降りて見知らぬカフェに飛び込んで一息ついたのだった。ふー、危なかった。
さて、ここはどこだろうとガイドブックを広げると、通りの終点に観光案内所があるドス・アリアドス通りAv
dos Aliadosの始まりだった。いやー、丁度よかった。
まさにNature calls me。ここでバスを降りなさいという神のお告げだったってわけ。
ポルトの観光案内所もなかなか愛想よく、地図も詳細なものを無料でくれる。この辺も気風がよくてお金持ちな町ねぇという印象を得た。
今日はオランダ人建築家レム・クールハースRem Koolhaas氏によるCasa da Musicaの見学とポルトの旧市街見学、そしてガイアにあるポートワインのワイナリーを1つくらい訪ねてみようかという予定にしていた。
カサ・ダ・ムジカCasa da Musicaは旧市街の北西にあるが地下鉄があるのでさくさくと行ける。例のごとくロンプラの言葉による解説だけではどうにも想像できなかったこの音楽ホールは実はとても素晴らしい建築で、デザインのみならずコンセプト、それに準拠した機能も備えていることが館内ツアーに参加してよくわかった。
館内ツアーは午前11時から。既に数分過ぎていたのだが親切なフロントの男性はツアーグループに連絡して参加させてくれることになった。ツアー代金は一人3ユーロ。英語で詳細にガイドしてくれるこのツアーはとてもお徳だった。
ツアーグループに追いつくにはどこに行けばいいのかと聞くと、フロントの男性は「ここはラビリンスのように入り組んでいるのでお2人では無理です。私がお連れしましょう」と案内してくれた。こうして私たちはツアーに参加する前からこのコンサートホールのラビリンスっぷりを体感することになった。
ちょっと足元がすぼまった立方体の外観を持つこのホールだが仔細に見ると微妙に線が斜めになっている。そして内部はフロントの男性が言った通りに緩やかなスロープを上がったと思ったら秘密のような扉を開けて階段を下りてエレベーターに乗って、再びスロープを上る。一体どこをどう歩いているのかさっぱりとわからない構造だった。
ツアーは黒と白の格子の壁と天井(これも斜め)の空間から始まった。コンピュータが数台置いてあってタッチパネルで音色を選んで音を出せるようになっている。このコンピュータは他の場所にも置いてあって各コンピュータが鳴らす音は全てのコンピュータで同期して音が出るようになっているんだそうだ。音への興味、関心を引き出すという目的なんだって。
次の部屋はオレンジのフェルトの斜面がある明るい部屋だ。ここと廊下をはさんでお隣の紫の部屋は親がコンサートを聞いている間のベビーシッティングの部屋として使われる。オレンジには興奮作用があるのでここで自由に転がったり遊んだりして、紫の部屋では落ち着いて眠ったりガラスのカーテン越しにコンサートを聴いたりできる。子供にとっては親のいないコンサートでも楽しんで過ごせる配慮になっているという説明だった。
今日は子供のグループが多くて総勢2000人が訪れる予定になっているそうで、館内は子供で一杯だった。オレンジの部屋で転がりまくる子供達を見て紫の部屋へ移動しようとすると、紫の部屋から目をつぶって歩いてくる子供達に遭遇。これからオレンジの部屋に行ってから目を開けたら大興奮になるに違いない。しっかり目をつぶっているのが可愛らしかった。
紫の部屋のガラスのカーテン越しには下のコンサートホールが見える。今日は公開リハーサルが行われていて、ステージにはオケ、観客席には見物の子供達が見える。コンサートでもないのに、こんなにわいわいと人が集まっているコンサートホールも珍しい。何かここで楽しいことが起こるという印象を受ける場所だった。
カサ・デ・ムジカは2つのコンサートホールからなる施設で、右図で中央縦長が大ホール、左側に斜めに突き出している長方形が小ホール。コンサートホールだけ見るとクラシックなシューボックスタイプなのだが、これらのホールを斜めにつないで段差をつけ、大ホールの反対側をちょっと膨らませて色々な部屋をつけて段差でつなぐと、とても複雑な構造になるのだった。
夫は「いやー、面白い。新しい。建築はもはや直線だけじゃつまらない、こういう時代になったんだなぁ」と大興奮のおおはしゃぎで大喜びだった。私は専門じゃないけど、迷路の中を歩いているような感覚や洒落た照明の使い方やキッチュな壁のデザインや色使いがとても面白いと感じた。
最後に訪れたのはVIPルーム。館内で一番高い場所にありガラスの窓から町を見下ろせる部屋だ。プレスカンファレンスなどに使われるそうだ。この部屋の特徴は壁から天井までポルトガルで伝統的に室内装飾に使われてきたアジュレホと呼ばれる青い彩色のタイルで埋め尽くされていることだ。このアジュレホは大きなガラス窓を通して外からも見え、モダンな建築の中に伝統的なタイルが見えるという面白さを表現している。
幅の違う曲がった階段や館内を貫く吹き抜けなど、今まではコンピュータの中のイマジネーションでしかなかったようなデザインが具現化されていて、CGの中に迷い込んだような楽しさが感じられる。
このコンサートホールを置くことで寂れてしまったこの地区の再開発を目論んで2005年にオープンしたカサ・デ・ムジカでは頻繁にコンサートや音楽シンポジウムなどを開いて特に若者が気軽に音楽と触れ合える機会を増やそうとしているのだそうだ。新しい試みに新しい建築。これがあるだけでもポルトが新しい画期的な町に見えてきた。
新しいポルトの一面を見た後は昔ながらの町を見物しに行こう。
写真ももちろんピースサインで。
顔ちっちゃいのに、指、長い。 |
地下鉄に乗りながらこの後どうやって動こうかと夫と話していたら、目のぱっちりした少女マンガ系の若い女性が「大丈夫ですから」といきなり日本語で話しかけてきた。
な、何だ?何が大丈夫なんだ?
彼女は日本が大好きなポルトガル人。漫画や日本の雑誌から独学で日本語勉強中なんだそうだ。まだ自分の言いたいことを言うのみの段階だけど、独学でここまで日本語を勉強してくれるなんて嬉しいじゃないですか。なぜ日本が好きなの?と聞くと、日本文化はとにかく「可愛い」んだそうだ。少女マンガの主人公のように両手をグーに握って口元に持っていって「日本、可愛い、可愛い、大好きー!」とのたまっていた。先に降りた彼女はボーイフレンドとお母さんに「やったー!」と叫んでガッツポーズをとっていた。
どっちかというと彼女の方がよっぽども可愛いわけで、「日本の可愛い文化」の威力に驚くとともに、こんな中年の私たちに出会って喜んで頂けるなんて恐縮しまくりだった。
ポルトでは観光の他にもう一つ目的があった。日本の電気製品をヨーロッパの電源差込口で使えるようにするためのアダプターが壊れてしまって必要だったのだ。そこで地下鉄に乗ってBolhao駅に移動。ここから南下しているサンタ・カタリーナ通りRua
Santa Catarinaが繁華街なのでここに来れば見つかるんじゃないかというインフォメーションの案内だったからだ。歩行者天国になった通り沿いには確かにお店がびっしり。大抵は古い建物そのままを使った店が多いのだが、新しいショッピングモールもあり家電製品店も入っていた。しかし、ここでは見つからない。
家電製品店では液晶テレビ、最新型携帯電話、コンピュータ、デジカメもあるのだが、私たちが欲しいようなちょっとした気の利いた部品的な商品はないんだよなぁ。
電源アダプターはスペインに戻ってから探すかと諦めて、素敵にクラシックな内装のCafe
Majesticでコーヒーブレイクしてから海沿いのレストランに向かって歩き始めた。
すると繁華街サンタ・カタリーナ通りと中央大通りのドス・アリアドス通りの間のこちゃこちゃとした町中に「Chaina
Shop」の文字。そうだ、チャイナショップがあるじゃないか。中に入ってみると衣料品、文房具、調理器具、そしてそして延長コードや様々な電源アダプター。やったー、中国人は偉い!ポルトガルの通常のマーケットに不足している細かい商品がチャイナショップに来るとかなり見つかることになっている。まさにニッチをついた中国人の商法に私たちはまたしてもお世話になったのだった。
大通りのドス・アリアドス通りから海に向かって下る景色は目線がどんどん下がりながら曲りくねった道あり、古い教会あり、鉄道駅構内には立派なアジュレホあり(今朝見たコンサートホールのVIPルームのオリジナルがある)で楽しみながら散策できるコースだった。
大通りから少しはずれたRua das Floresはガイドブックに「パリのモンマルトルを移植してポルトガルテイストを加えたような通り」とあるが、古めかしい個人住宅がみっちりと並んで下町風な雰囲気を出している辺りが言いえている。
ガイドブックで目当てにしていたレストランはすでに潰れてしまっていたのだが、海沿いには同じくらいリーズナブルでボリュームも満点そうな店が見つかった。店の端に「本日のランチメニュー」という看板が出ていて一人7.5ユーロから12ユーロくらいでメイン、デザート、飲み物が付く。これはいいじゃないかとここでランチすることにした。
着席すると普通のメニューを持ってきたので「ランチメニューは?」と聞くと別にランチ用の持ってきてくれた。というか言わないと持ってきてくれない所がトリッキーだなぁと身構えたのだが、この後の対応をいくつか見ていてお客からできるだけ売り上げをあげようという店ではなく、何となく見目形のいい兄ちゃん達をやとった結果、愛想はいいけどちょっと間抜けなサービスになっているだけということがわかった。
注文を済ませると、まず卓上にパンと何かのおいしそうな揚げ物が並ぶ。ポルトガルでは卓上にこうした物を客の承諾なしに乗せて食べたら課金するというシステムになっている。知らないと後で驚く羽目になるシステムだ。パンも揚げ物もおいしそうなので値段を聞くとそれぞれEUR2とEUR5だと言われた。5ユーロかぁ。でもあまりにおいしそうなので食べることにしたら大正解。干しダラのさつま揚げだね、これは。そうか、さつま揚げってポルトガルから来たんだっけ?じゃぁ、オリジナルじゃないかと話も盛り上がった。
日本のさつま揚げのようにスムースでなくもっと魚の繊維が残った感じなのでプリプリした感じではなく魚っぽい。これはこれでおいしい。隣のテーブルに来た白人中年カップルも私たちのさつま揚げを見て同じものを注文したいというと、メインメニューの中にある同じ物を指差していた。突き出しなら5ユーロだけれどメインメニューだとボリュームも倍だが値段も倍になっちゃう。これもいい加減なウェイター君の仕業だけど笑顔がキュートだから許されるだろう。大量のさつま揚げを前にして白人カップルは「おかしいなぁ」とこちらのテーブルと見比べながら食べていた。
最後にランチセットについているデザートをオーダーしようとウェイター君を呼ぶと、デザートメニューを持ってきた。いやいや、ランチだから含まれているでしょ?というと「あ、そうか」と仕切りなおす。やれやれ。
こうしてつつがなく昼食を終えてつつがなく勘定を済ませて店を出ると、最初に出た揚げ物が勘定に入っていない。やったー!キュートで愛想が良くて勘定をマイナスに間違えてくれなんて、何て素敵な店だ。ウェイター君のいい加減さもあるが、値段と味とボリュームは良かった。場所はDouro川を背にして川沿いに並ぶレストランの左端の店。でも栄枯盛衰が激しいから、この店もいつまでもつかわからない。お客が一番入っている店で、食べている物と値段を自分の目で見てから決めた方がいい。
川沿いには今朝川向こうのガイアから見て驚いたカラフルでクラシックな家が並ぶ。ローマ時代の水道橋の名残だったかなぁ、世界遺産になっている場所でポルトガル人の若者が遊んでいる。世界遺産ですよ、そこ。贅沢だ。家の一階はレストランやカフェになっていて、景色を楽しみながらゆったりとお茶している人もいるし、目の前の川からクラシックな外装のクルーズ船で出ようとする団体もいる。リスボンでも感じたが、ここも町全体がテーマパークのようにクラシックで楽しい。しかも全てが本物なのでテーマパークなんかよりずっと歴史の味わいがあって誰にも真似できないユニークな雰囲気を出していた。
今朝バスで渡ってきた橋の向こう側には丘を登る小さな登山電車がある。これで上まで行くと昔の城壁が眼下に見え、教会から赤い屋根の家々が見渡せた。
この高さのままで橋を渡ってガイアに行くことができる。ここからの眺めが素晴らしい。渡り始めは対岸のガイアの町並み、そして左手には湾曲する川と緑と赤い屋根の家が美しい風景を作り出している。橋の中ほどから振り返ると城壁跡とさっき使った登山電車、川沿いのカラフルな家々が見える。渡り始めから終わりまで360度飽きる景色がない。
ただし、渡ってからガイアの川沿いに並ぶワイナリーに行くには、急激な坂道を下っていかなくてはいけない。上るよりはずっと楽なので問題はない。ストストと石畳の古い道を降りてあっという間に対岸の川沿いに出たのだった。
ここに立ち並ぶポートワインのワイナリーのどれかに入ってみようと思って来たのだが、どこも2種類の試飲プラス博物館で4ユーロという料金設定だった。ポートワインは熟成の若い方からRuby、Tawny、Aged
Tawny、Late-Bottled Vintage、Vintageの5種にわかれる。今まで私たちが買ったのはTawnyが2本。この先Vintageを買ってみるかどうかの判断をするためにワイナリーを訪れて試飲したいと思っていたのだが、試飲の種類はRubyとTawnyのみでVintageは出さないという。3軒目に訪れた大手のポートワインメーカーでは「Vintageを飲みたいならショップで1本買えますから」と言われた瞬間に、それまでポートワインメーカーのワイナリーツアーのあまりにもツーリスティックな対応にムカムカしていた気持ちが爆発して「だーかーらー、買うかどうか決めるために試飲があるんでしょうが。試飲させないで1本買えばっておかしくないですか?」と激高してしまった。Vintageといってもたかだか1本20米ドルくらい。「先進国の観光客はお金持ちなんだから買えばいいじゃん」というポートワインメーカーの意識の低さに腹が立ったのだが、言われた方は「このケチくさい東洋人の猿が何をぬかすか」という表情だった。
決裂。
夫に「ワイナリーにはもう行かない」ときっぱり宣言した。そもそもどっちでもよかった夫に依存のあるはずがない。私たちはさっさとバスに乗り込んでキャンプ場に戻ったのだった。
ポルトの町は素晴らしい景観だった。カサ・デ・ムジカのようにハイセンスの施設もあり、伝統と新しい文化が融合しつつあるのを目の当たりにすることができた。日本びいきの女の子に出会えたのも好印象だった。ここを訪れる観光客は多い。その観光客に安易に頼る商人がいるのは仕方ないことだろう。そうしたマイナスポイントを差し引いてもポルトはとっても魅力的な町だ。
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