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2009.03.14
タンゴ歌手「冴木杏奈」さんのコンサートへ
アルゼンチン:ブエノス・アイレス

 宿でいつものようにサイト更新作業をしていたら、お客さんがやってきた。誰かの知り合いというわけではなく、「たまたま通りかかって日本語の表示を見てきたのですが・・・」という女性だった。

 彼女はタンゴ歌手「冴木杏奈」さんのブエノス・アイレスでのコンサートチケットを宣伝しにきたという。この宿の近くに日本人経営の旅行代理店があるので、そこにパンフレットを置いてきた帰りにこの宿をみかけたのかもしれない。「こんな場所にこんなに日本人がいるんですねぇ」と彼女はしきりに驚いていたが、私達も驚いていた。冴木さんって誰なんだろう?そしてこの人はどうして冴木さんの宣伝をしているのだろうか。

 私達が不審に思っているのが伝わったのか、その女性は一生懸命に説明を始めた。

 自分が所属する「輝く女性の会」というグループが冴木さんを支援していて、この度、ブエノス・アイレスで彼女がコンサートを行うことになったので自分はファンの一人として会の一員として宣伝をしてまわっているんだという。チケットは一人15ペソ(=US$4.2)。いくらアルゼンチンの物価が日本よりも安いからといって随分安い。どうしてそんなに安いのかと聞くと「会から援助金が出ているので」と彼女は答えた。

 旅をしていると警戒心が高くなってしまう。この女性はとても悪人には見えないのだが不明な点が多いのでその場でチケットは買わずにパンフレットだけ置いて帰ってもらうことにしたのだが、すぐにネットで調べると冴木さんという女性は実在するし、輝く女性の会についてもわかった。面白そうじゃない?あと気になる点は「会」の存在についてだ。安いチケットでコンサートを楽しんだ後に何かに入会させられるんじゃない?何か説教を聞かされるんじゃない?冗談半部んい様々な可能性を検討して、ま、大丈夫なんじゃないかという結論に至った私達はコンサートに行ってみることにしたのだった。

 会場に到着してみると、入り口の垂れ幕に「アルゼンチン沖縄県人移民100周年記念」とありすぐに事情が把握できた。記念行事の一環として冴木さんを招聘したのは沖縄県人会あるいは商工会議所なのだろう。それらの団体から援助金が出てチケット代金が安くなっているようだ。会場に来ているのは沖縄方言やスペイン語で話す60代〜70代、80代の日系の方たちが9割くらいを占めている。移民として頑張ってきた彼らへのご褒美的なコンサートらしかったのだ。なーんだ、全然怪しくないじゃん。

 開演の7時半になるとステージのスクリーンに光が当たって、冴木さんのプロモーションビデオが映し出された。平原の風景が映し出されているし曲調もアンデス音楽のような物悲しさを含んでいて面白い。曲が終わって拍手がやむと、もう一曲。そしてもう一曲。

 あれれ?もしかして今日のコンサートって本人出演なしのフィルムコンサートなのか?宿から一人誘っていた私は非常に焦って「うわー、やばいなぁ」という気分で一杯だった。そんな焦りも知らずにフィルムコンサートは数曲で終わり、やがて本物の冴木さんが登場して会場から拍手喝采が起こった。ふー、よかった。いよいよコンサート本番のスタートだ。

 最初は日本の童謡を2曲、それから冴木さんのオリジナル曲やアルゼンチンで流行った歌謡曲が演奏されていった。周囲の反応としては日本の童謡よりもアルゼンチン歌謡曲の方が受けているのが時代を感じさせた。このコンサートが50年前いや30年前に行われていたら童謡の方が受けたのかもしれないが100年ともなると、こちらで生まれ育った人が圧倒的に多いだろう。

 私達は前から2列目に座っていたのだが、最前列に座っているおばちゃんは冴木さんの大ファンであるらしく大声で歌って隣に座っているおばちゃんに睨まれていた。会場は沖縄県人会の公会堂のような場所で座っている椅子もパイプ椅子、ステージ上でもマイクの音声が入っていなかったりして、何だかほのぼのしたコンサートだが、冴木さんの声量や声の艶といったらものすごくて本当は大きな会場を一杯にしてコンサートを行う技量のある人なんだろうと感心した。

 数曲を歌い終わった時点で、「そういえば、輝く女性の会のおばちゃんはどこにいるのかなぁ」と会場を見回していたら、「えー、それではここで冴木さんのご紹介をさせていただきます」とマイク片手に現れた女性がいた。見るとうちの宿に来たおばちゃんじゃないか。おおお、エライ人だったんだー。

 おばちゃんは本当に冴木さんが好きで、その解説は愛にあふれているのだが溢れすぎて通訳されていない事もあったような・・・。ま、いっか。

 コンサートは歌だけではなく、ヨーコさんという女性タンゴダンサーのダンスが入ってステージを一転させた後、素敵なブルーのドレスに着替えた冴木さんが伴奏のパートナーであるアルゼンチン人男性としっとりとタンゴを歌う後半に入った。彼はでパリで活躍しているのだそうだ。

 アンコール、アンコールとの呼び声に答えて終始にこやかにステージをこなした冴木さんは、最後に商工会議所の会長さんらしき男性から記念のたてや花束を受け取ってステージ終了となった。

 ところがこの2時間ほどのコンサートですっかりファンになってしまったお客さんはどどどーっとステージに駆け寄って冴木さんとの握手を求めた。こういうのも何か非常にほのぼのとしていい感じだった。

 ブエノス・アイレスに来て何かアルゼンチンらしいこと、しましたか?

 と、他の旅行者に聞かれて答えられるネタがまた一つ増えた。日本人でありながらタンゴを愛する冴木さんのコンサート、それに集まる移民のみなさん。アルゼンチンらしいといえば、これ以上にアルゼンチンらしいという場面もないだろうなぁ。


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