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2009.01.23
パイネ国立公園トレッキング第三日目
チリ:プエルト・ナタレス

 朝7時過ぎに起床。昨日の昼から晴れていた空にはまた雲が広がっていてやや不安を感じたが、朝ご飯を食べてテントを畳んで9時過ぎに出発する頃には空はうろこ雲のようになって青空が見え始めてきた。よし、今日も晴れるかも!今日はグレイ・キャンプ場からフランセス谷のイタリアーノ・キャンプ場まで歩く。昨日1日休んだので大丈夫だと思いつつも、1日振りに担いだ荷物は早くも重く肩に食い込んできていた。

 気合を入れて歩き始める。来る時には疲れすぎて気づかなかったが、野原の道には美しい変わった形の花が見られた。川沿いの道、滝を見たりして緩やかに道は登りだったが、しばらくすると覚えのある急な坂道。来る時に2日後にこの道を登ると思いながら降りてきたんだよなぁ。いよいよ来たか。道は行きつ戻りつの九十九折でひたすら縦向きになった断層を登っていくのだった。ここに来る前にエル・チャルテンでかなり歩いて筋肉を作っていたのと、ストックを借りていたことが幸いして乗り切ることができた。ここを登りきったらペオエまではほぼ下り。それを知っているから耐えられたというのもある。

 そして歩き始めて約2時間後の午前11時過ぎに一番高度の高い場所に到着した。湖の右手に昨日見に行った氷河が青く光っている。こういうのを見ると今まで登ってきた苦労が全部報われる気がするからトレッキングはいい。キャンプ場で大きな塊に見えていた氷塊がゴマ粒のように小さく見えて、いやー、あんな所から歩いてきたんだなぁとという感慨も沸き起こる瞬間だった。


 ここからはあまり急な坂もなく氷河湖の横にある小さな湖沿いの道に到着する。来る時には風が強くて雲も多く、鉛色に波立つ湖面は魅力も感じられず氷河がどこにあるのかもわからない苛立たしい状況だったが、今日はよくわかる。

 広い空にすじ状の雲がサーッと伸びているのが風のない静かな湖面にも映し出されていた。静けさと壮大さ。そんな空気を感じながらここでお昼ご飯だ。今回のトレッキングでは生まれて初めてトレッカーらしいご飯にしている。3年前に来た時はごっそりとパンやチーズやハムを運んできて食べた。しかし、今回は長丁場でそういうご飯は荷物を増やすだけなので、クラッカーやナッツやドライフルーツなどをお昼ご飯に持ってきたのだ。食べてみて初めてその効用に気づいた。疲れている時は食欲が減退するのでパンが喉を通りにくい。その点クラッカーは軽くて食べやすいし、ドライフルーツがこんなにおいしく感じられるとは思ってもみなかった。来る前は何だか貧相なお昼ご飯だなぁと思っていたが、やってみればこれが一番いいのだと思えるのだった。

 お昼ご飯の後はもうずっと下り道。下りきった所から見覚えのある谷間の平坦な道をまっすぐに進むと湖沿いの出発地点、ペオエに戻ってくる。ペオエには素敵な宿泊施設と売店があり、ここでコーラを飲んでちょっと休憩だ。ツンと空に突き出した岩山が特徴の「パイネの角」も今日はよく見えている。

 ペオエからフランセス谷のイタリアーノ・キャンプ場までは2時間の道のりだとトレッキングマップに書いてある。でも、今回の私達は地図に書かれている平均所要時間よりも時間がかかっているので3時間くらいかかるかもしれない。休憩を済ませて出発が午後1時半なので午後4時半に到着できればいい。

 ペオエを後にしてイタリアーノ・キャンプ場へはまず緩やかに登りながら湖沿いを歩く。目線が上がって、目の前には2日前に見たのよりは数倍も美しい湖、その背後に雪をかぶった山々、そして空には流れるようなうろこ雲と青空が広がっていた。ここの湖面も水を打ったように静かで、空に浮かぶ雲がエメラルドグリーンの湖面に映っていて、ここも夢のように美しい景色だった。


 しばらく湖沿いを歩くとパスはやがてパイネグランデに擦り寄るように湖を背に歩く方角に変わる。行く手には左手奥にパイネグランデ、右側にパイネの角を頂いた谷間が見える。それが今日から踏み込むフランセス谷だ。近づくにつれてパイネの角が角度を変えて真正面に見えるようになる。デコレーションケーキのように3段階にくっきりと色分けされた地層と優雅に流れる縦ラインの模様をつけたパイネの角をまっすぐに捕らえながら歩けるのは気分がいい。

 やがて右手に見えてくる湖がスコッツバーグ湖。この湖はペオエ湖と違って色は深い藍色だが、今日は風のない湖面にくっきりと上空の雲を映してして見事だった。

 どんどんと湖を周りこむ道を歩いて行く。道は時に登り、時に下り、決して平坦ではないが右手にずっと見えている景色があまりに素晴らしく、まるで苦にならない。

 やがて正面の視界を遮っていた山が左手に退いていくと、右手にパイネの角が再び見えるようになる。この時の湖面が圧巻だった。あの大きな山がすっかり湖面に映し出されているのだ。私は鏡面になった湖に山が映りこむのを見るのが好きな方なので、特にこの日は大興奮。一歩ごとに樹木が風景を縁取ったり、山そのものがどーんと見えたりする景色はまさにパイネトレッキングの醍醐味と言えた。それにしても風の強いフランセス谷において、これだけ湖が穏やかというのも珍しいだろう。なんせ数日前にはここにヒョウが降ったくらいなのだから。いやー、ラッキーだなぁ。体の芯から幸せ物質がじわーっと染み出してくる気がした。


 湖が終了する場所がペオエからイタリアーノ・キャンプ場までの地図上の距離の3分の2くらいだろうか。時刻は午後3時過ぎ。歩き始めて1時間半かかっているからやっぱり2時間でキャンプ場まで到着は難しいようだ。

 ここからの道は、そもそもぬかるみが激しい上に、ここ数日で降った雨のせいでみずたまりも多い。ボードウォークのある場所はいいがない場所で水溜りができている場合はちょっと森の中にそれた迂回路を歩くようになっているのだが、そこにまた水溜りができていたりして結構歩きづらい場所もあった。ここにヒョウや大雨が降った数日前にここを訪れた旅行者に聞いたら、道が悪くてフランセス谷の奥には行けなかったと言っていた。

 こうした道を歩いて最終的に大きく激しい川を渡ったらキャンプ場に到着だ。私は川を渡ってすぐがキャンプ場だとは知らなかったので、最後はあっけないくらい突然到着した感じがした。時刻は午後4時15分頃。やっぱり平均所要時間よりもやや押して2時間45分かかった。それでも、40代にして始めてこんなに荷物を担いだにしてはちゃんとやっているではないか。自分達を多いにほめてキャンプ場にチェックインした。

 このキャンプ場は無料なのでシャワーがない。到着してテントをたててしまったら、もうご飯を食べるくらいしかやることがない。ご飯もお湯を沸かして火を止めてマッシュポテトを入れてかき混ぜたらできあがりという簡単な食事。これにハム、チーズを添えて持ってきていた赤ワインで食べる。熱々のマッシュポテトでちょっとチーズが溶けたりしてなかなかおいしいし、こんな山中で飲む赤ワインはすこぶるおいしかった。

 日の入りが遅いのでまだ明るいうちから寝袋に入ることになるが、地鳴りというか雷のように轟く氷河の崩れ去る音を子守唄にあっという間に眠りに入ってしまった。


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