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2009.01.22
パイネ国立公園トレッキング第二日目
一夜明けてトレッキング二日目。マットが薄いので体が痛くなるんじゃないかと思ったけど、それは割合大丈夫だった。それよりも2人用のテントに2人というのが窮屈。荷物と私と夫が川の字になって寝るのだが寝返り打つのがやっとという幅。ただ、このテントを3人用にするとその分自分が担ぐ荷物が重くなるから痛し痒しだ。
朝はかなり冷える。巨大な氷の塊である氷河のそばに寝ているからねぇ。こういう時に温かい飲み物が作れるってのは嬉しい。キャンプでトレッキングする人の中にはストーブやガス缶が重いからと冷たい食事だけで済ませようという人もいるかもしれないが、朝一番の温かい飲み物、夜の温かい食べ物がないとだんだんと気力が萎えてくるだろうなぁ。
さて、今日も出だしの天気はあまり芳しくない。予定ではここからもう少し上流の氷河のすぐ脇まで歩いて戻ってくるだけ。時間はゆっくり取ってあるから焦る必要はないがキャンプ場にいてもやる事もないので、近くのミラドール(展望ポイント)まで歩いてみることにした。ミラドールはキャンプ場の隣にある丘の向こう側だ。丘が遮って小さな湾ができている場所には氷河が崩れて流れてきた氷の塊がたまっている。その向こうにグレイ氷河が見えている。
湖の縁まで降りて氷を目の前に写真を撮影していたのだが、とうとう雨がぱらつき始めてしまった。すぐ横には青空が広がっているから長続きしない雨だと判断してミラドールを後にして、今度は上流に向かって歩き出す。最初は水溜りの残る上り道の山道を上っていく。30分も歩くと森の端、左手に視界が開けて氷河が近く見えるようになってきた。天気も青空が広がっていい感じ。この調子でどんどん晴れてくれよー!
昨日も感じた事だが、近くに見えているけれど氷河は意外に遠い。緩やかに上ったり少し下ったり、水がどーどーと流れる滝を横切ったりして1時間半歩いてようやく次のキャンプ場、ロス・グアルドスに到着した。ここは無料のキャンプ場で宿泊しているテントの数も少ない。昨日宿泊した有料キャンプ場に比べると、シャワーも売店もレストランもなく設備といったらトイレくらい。プエルト・ナタレスで宿の主人のオマールと山の玄人らしいイスラエル人がこちらのキャンプ場の方が人も少なくて氷河が目の前でグレイ・キャンプ場よりもずっといいと話していたのだが、キャンプ経験が少ない私達としてはやっぱりグレイの方が気持ちいいと感じられた。あまりにワイルドだからね、ここは。
このキャンプ場から氷河に向かってひょろひょろと細い道が続いている。その向こうに太陽に照らされて水色に輝く氷河が見えていた。細い道は林を抜けると地層が縦になってずれてしまったような場所にでる。ここから先は何の表示もない。地層に沿って歩けそうな所を伝って氷河に近づいていった。
天気は嬉しいことにどんどんと晴れている。目の前の氷河は太陽に照らされて目が痛いほどに輝き始めていた。今までエル・カラファテやエル・チャルテンといったアルゼンチン側でも氷河を見てきたが、ここから見る氷河は今までに見たことのない角度からの氷河だ。ペリト・モレノの展望ポイントやエル・チャルテンのトーレ湖からグレイシア・グランデは正面から見ることになるが、ここは側面から見るのだ。側面から見る氷河は奥行きが深く感じられて右手方向に長く上っていく上流がずっと見渡せて、今まで見てきた正面からの氷河に比べるとより雄大に感じることができた。
あまりに光が強いので湖の部分や周りの岩山から浮き上がってコラージュ写真のようにも見えるのだが全て天然で合成していない。自分が立っている場所に対して水平に撮影すると右方向に上がって写る。つまりそれだけ川が傾斜しているというのも不思議に感じられた。
足元をみると可愛い花や実をつけた植物がある。厳しい環境の中でも密かに夏を謳歌している彼らの存在も見逃せなかった。
左手には氷塊が浮かび、今朝見に行った氷塊の浮かぶ湾が小さく見えている。あの半島の向こう側がキャンプ場になっている。湖に大きな影を落とす雲、彼方の雪山、どこに目を移してもすがすがしい景色が広がる中、視界にある人間は私達だけで、まさにこの景色を独り占めしている優越感がこみ上げてくる瞬間だった。
この場所に誰もいないのは人気がないからではない。いわゆるWと呼ばれる人気のトレッキングパスを5日で制覇する場合、この時間帯にこの場所にいることが難しいために人がいないのだ。ここに到着した12時半から14時半までのたっぷり2時間を人っ子一人いない中で過ごすことができた。移り行く太陽の角度によって氷の色が輝く白から青に変わり、再び白く光るようになるまでをずっと見つめていた。太陽が真上にきて氷を照らすと氷は青く光る。この日は午後1時半くらいがとても青く見えて美しかった。
午後2時半に氷河を去ることにした。縦になった地層をひょいひょいとよじ登って森になった所からキャンプ場に戻る。強い日差しが照らしているとはいえ、体を動かさないで氷河を見つめているとかなり体が冷える。ここを去る時にはTシャツ、ソフトシェル、ウィンドブレーカーを着込むくらいに冷えていた。それにもかかわらず、唇はかさかさ。日焼け止めクリームとリップクリームを持ってきていて本当に良かった。
この時間になるとだんだんと人がやってき始めた。この氷河のもっと北部から降りてくる人や南からあがってくる人など様々だが、私達のように荷物を置いて軽がると歩いている人はいなくて、皆大きなバックパックを背負っている。氷河の展望台からグレイ氷河キャンプ場までは2回ほど川を渡るのだが、一つは滝の途中の平らな部分を渡るような感じで、大きな荷物を背負っているとちょっと大変そうな場所だった。
キャンプ場近くに到着したのは午後3時半。晴れてきたので今朝見に行った展望ポイントにもう一度行ってみる。今度は氷塊の浮かんでいる湖の岸辺まで降りてみた。氷塊はほんの一部にたまっているのだが、氷塊を目の前に向こうの氷河を見るとまるで氷塊に囲まれているような錯覚に陥る。想像していた以上に素晴らしい景色に私達は夢中で撮影したのだった。
キャンプ場に戻ってゆっくりしてから午後5時半に夕食準備開始。といってもお湯を沸かしてマッシュポテトの粉を入れたらできあがり。これにチーズやハムをつけてワインで食べたら夕食終了だ。お腹がすいているのでとてもおいしく感じられた。
といっても午後6時にはもう暇になってしまった。
湖に面して右手の小山をふと見ると、小さな矢印がついている。食後の散歩としていいかもしれないと矢印に従って小山を上ってみると道はどんどん、どんどんと先に続いている。そういえば、日中氷河から見た時に半島の先に巨大な氷塊が見えていた。この道をたどったら氷塊の目の前に出るに違いないと思い、思い切って先まで行くことにした。この道はあまり人に使われていないのか大変に歩きにくい山中の道だというのに、私達はクロックス型のサンダルで来てしまった。こんなに大変な道になるならちゃんと靴を履いてくるべきだったなぁ。
キャンプ場隣の小山を越えて向こう側の岸辺に出ると右手の奥に氷塊が見えてきた。岸辺沿いにちょっとわかりにくいが、よく見ると細く続く道がある。そこをたどっていくと氷塊にどんどん近づくことができた。一番近い場所までくるとかなり大きな塊だということがわかる。氷塊正面までくると右手に氷河も見えてきた。きっとここからずっと右手に回り込むと、今日行った展望ポイントまで行けるような気がしたが、時刻は午後8時を過ぎている。パタゴニアの日没がいくら遅いとはいえ、明日は一番長く歩く予定の日ということもありここで終了することにした。
今日はグレイ氷河三昧の一日。朝のうちは天気が悪かったが昼くらいから素晴らしい天気になった。期待以上の天気と景色にすこぶるご機嫌なトレッキング。今日一日荷物を担がなかったのでエネルギーも戻ってきて明日歩く気力もでてきた。やっぱり中年トレッキングはゆっくり行くに限る。
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