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2008.11.30
観光四発目、んでもって世界一周
さぁ、昨日の不運を忘れて島内一周サイクリングの旅に再挑戦だ。ハプニングがあったからおばちゃんがメンテナンスしてくれていることに賭けて、もう一度同じ場所からレンタル。
「よくそんな事するねぇ、私ならこんな不埒なレンタル屋からは二度と借りないけど」。通訳をしてくれたスペイン人の女性も言うが、この島の体質としてどこで借りても同じ事。何か起こっても同じ人と話をする方が楽じゃないか。
出発は午前9時。昨日くじけた場所まではもう観光が終わっているのですっ飛ばして行こう。ゆるゆるした登りを終え、海岸への道に入る。朝日に輝く海が彼方に見え、ここから海までひたすら下り道。一度来ているのでよーくわかる。昨日は倒れているモアイばかり見て終了してしまったので、今日は立っているモアイ像を見たい。
ということで、今日のコースは以下の通り。基準として
・市街地から海へ曲がる道に石切り場へは13km
・ビーチから市街地までは18km
だそうだ。
昨日は石切り場への曲がり道に到達する手前で挫折。
海沿いまで調子よく下ってきた道は、長い間緩やかなアップダウンでほぼ平坦な道なのだが、石切り場に向かう前あたりから非常に苦しい上り坂になってきた。昨日はそんなの知らなかったから、上り坂の手前で石切り場近くに住んでいるという夫婦が車に乗らないかと誘ってくれたのを断ったのだった。
あの夫婦が今日通りかかってくれたら、迷わず乗せてもらったんだけど、そういう時に限って通りかからないものだ。んでもって、途中で見かけたのは、またもや倒れモアイ。モアイ信仰の終焉は各部族が他部族のモアイを倒して威信を崩すことから始まった。確かにバッタリと倒れているモアイ像は巨大なだけに非常にモーチベーションを崩す。やる気をなくさせるという効果があったのはうなづける。
さて、立っているモアイは一体いつ出てくるのだろうか。この辺りになると人は一人もいない。荒々しい波が溶岩でできた海岸を洗い、並みの音が聞こえる。海風が涼しいが日差しはとても強い。これがイースター島なんだなぁと全身で感じられる場所だった。
やがて石切り場への入り口と思われる看板を発見した。ところが「石切り場はあちら→」と左折するはずの所に右向きの矢印が出ている。ったく、矢印の向きが間違ってるじゃないかと思いながらゴリゴリと舗装していない走りにくい道を進んで行くと民家にたどりついてしまった。それでわかった。この家の人が観光客が紛れ込んでくるのであの看板を出したのだ。またゴリゴリと未舗装の道を戻って更に先に進んだら正しい入り口が見つかった。
石切り場はそこだけ盛り上がった岩山。そこの岩を掘り出すようにモアイ像を作って岩山から切り離して設置場所まで運んだようだ。大きな顔だけのモアイ像が残されて林立している場所や岩山をくり抜いて作り途中のモアイ像などが見られた。倒れていないモアイ像だ。
石切り場の端からは15体のモアイ像も見える。15体のモアイ像は色々な人のブログで見てきたが、大概はインパクトのある至近距離からの撮影で、一体このモアイがどのような場所に立っているのかなんてことは想像だにしていなかった。
こんなロケーションでこんな風に立っているのか。
石切り場から眺める15体のモアイ像は思っていたよりも、というかモアイに対して何の思いも期待も持っていなかっただけにインパクトが強かった。なかなか格好いいじゃないか。
この15体のモアイ像に背を向けて正座しているモアイ像も変わった姿だ。正座している姿を見られるのはここだけだろう。モアイ像っていうのは体に対して顔の比重が大きい。だから漫画チックでユーモラスな感じがして、ついつい同じポーズを取りたくなってしまう。
正座モアイ像もその魅力を発して、思わず正座でポーズ。
石切り場からは、舗装道路に戻らなくても15体モアイ像へとまっすぐに行けるショートカットがあった。15体モアイ像の場所には単体のモアイ像が1体、倒れたモアイ像が1体もある。イースター島モアイ像のハイライトとも言える場所なので、じっくりと時間を取って遠くから近くから正面から裏側からと見てきた。
15体のモアイ像から島を縦断して市街地に戻る道に接続するまでの道は未舗装。海に続く道の両脇には馬がいて緑の草原で草を食んでいる。落ち込む道の先には青い海と空。あー、夏休みって感じだよなー。自転車で来てよかったなぁ、楽しいなぁと思える道だった。
再び海。光の具合が変わったせいか今まで見ていた海とは違う色合いに見える。今までは濃い青色だったが、こちら側に来るとエメラルドブルーというのだろうかコバルトブルーというのだろうか、とにかく美しいトロピカルな色合い。飛び込みたくなるような海の色だった。
地図上にビーチと書いた場所よりも手間にも美しい入り江がある。後にオランダ人から聞いたら、勇敢な彼がこの美しい入り江に裸足で入って足の裏をウニに刺されまくったそうだ。あー、入らなくってよかった。
ちゃんとビーチと書かれている方はそんな事はない。残念ながら海は人が多く入っているせいか先ほど見た海の色とは違ってグレーというかやや濁っているがアプローチの手前にやしの木などがうわっていて南国の雰囲気を出しているし、ここにもモアイ像があるってのがイースター島らしくていい。
もう走り続けて、暑くて暑くて体が火照りきっていた私達は浜辺につくなり荷物を降ろして水着になってわーーーい!と海に飛び込んだ。イースター島は海流に囲まれているので海水温度はかなり低い。一気に体温が下がった。「くー、冷たいねぇ」と浜に上がってくると、浜辺に同じ宿に宿泊している日本人カップルがいて日向ぼっこをしている。彼らは先日他の人と車で観光したので、今日はバイクでビーチにだけ来たのだそうだ。ところがバイクで体が冷え切っていて、とても海に入る気にはなれない。とりあえずビーチで体を温めようと寝転がっているんだそうだ。そう、ビーチにくるなら自転車で来ないとね。そのくらいここの水は冷たい。
もっとゆっくりとしていたかったが、私達はここでやっと折り返し地点だ。ビーチに到着して1時間後の午後2時過ぎに帽子を被ったモアイ像に別れを告げて出発した。
さぁ、ここからは一気に町へと戻る。サイクリングを始める前にオランダ人から最初の3kmがずっと登り坂だということは聞いていた。だから彼の助言としてはこの縦断道路を先に走ってビーチ沿いを戻ってくるのがいいというのを、走った後のビーチを楽しみたいからと逆走してきたのだった。そして3kmの上り坂が始まった。所々きつい坂もあるが全体としてはなだらかな坂。
の、はずなのにちっとも前に進まない。今まで走り続けてきたので体力が限界に近づいているようだ。ほんの僅かの坂も足に負担を感じて、まるで初めてスキーをした時のようだった。
耐え切れずに自転車から降りて引くと夫との距離はあっという間に広がった。やっと追いつくとまた距離が広がる。追いつく、距離が広がる。この連続だった。私達には格好の競争相手がいた。フランス人の小粋なおっさん2人組みだ。オフピンクと白のストライプの長袖面シャツに白のパンツ、もう一人もきちっとしたシャツとチノパン。まるでパリの自宅からバゲットでも買いに来たようなパリッと洒落た格好で、自転車を引いているが苦しそうな表情はない。私達が休んでいると「やぁ、お先に」と追い越し、彼らが休んでいると「お先に」と私達が追い越すという関係だった。
何度も休みを入れて3kmのピークと思われる場所に到達した時、とうとう私の頬と手がブルブルと震え始めて痙攣が止まらなくなってきた。後で聞いたら低血糖症という症状らしい。お昼ごはんにソーセージとレタス、甘いものは一切とらず、水も不足気味。そんな状況で起こった現象だった。もー、ダメだ。傍らの草原に寝転んで痙攣が治まるのを待つしかなかった。
競争相手のフランス人2人組みはこれから下り坂になるというので自転車に乗りながら、私を指差して「ファーティーゲェーーー!」と叫びながら走り去っていった。フランス語で「疲労困憊」って意味だから状況そのままなんだけど、近所のクソガキみたいなおっさん達に横になりながら「ちっくしょー」とつぶやいた。後でこの2人には村で再会し、お互いに無事に戻ってこられたことを祝福。ちょっとした戦友の気分だ。
20分ほど横になっていたら痙攣もおさまって走れるようになった。この坂道だけで1時間近く費やしたのに、この後から村までは20分で帰れてしまった。確か15kmはあったと思うのだが一度も漕がないで済む下り坂だったのだ。
宿に戻る前にそのまま自転車で行きつけのスーパーに直行。水、ビール、クッキーを買い込んで店の前のテーブルに陣取って水分と栄養補給。人間ってのは凄い。さしておいしくないクッキーなのに食べたくてしかたない。体は死ぬほど糖分を欲していたのだった。宿に戻る途中、まだまだ糖分を補給したかった私は更にパンを購入。それも好きではないパンなのだが、あっという間に食べてしまった。
宿に戻ったのは午後4時。午前9時から借りたので8時間だと午後5時に返却すればいい。予定通りだった。今日は無事、最後まで自転車が壊れなかった。私達もホッとしたが、レンタル屋のおばちゃんも私達以上にホッとしたに違いない。
自転車でのイースター島一周は40代の運動不足の私達には少々刺激の強すぎるコースだった。でも、満足度は120%と言える。十分な水、炭水化物のお昼ご飯、糖分の入ったスナックを持っていけば途中で痙攣することなく走り切ることができたはずだ。いやー、充実感に溢れた満足の1日になった。
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