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2008.11.29 Vol.2
あきれたイースター島の甘え体質
午前中に借りたレンタル自転車のギアが壊れて宿に戻ってきた私達のもとに、レンタル業者がやってきたのは日も暮れようとしていた午後6時過ぎのことだった。宿の寛ぎスペースには観光を終えた多くの宿泊客が集まっていて、私達はその日の顛末を皆に話していた。
そこにオーナーから声がかかってレンタル屋のおばちゃんが来たと告げられたのだ。
太ったおばちゃんは最初から眉間にシワを寄せて渋い顔で突っ立って、出会うなり数字が書かれた紙を私達に突き出した。何ですか、これは?と聞くと自転車の修理代金35000ペソ(=US$55.56)だという。私達が考えていた「今日のレンタル費は無料、次回半額」なんか俎上にさえ上がらない。あまりのずうずうしさに開いた口がふさがらなかった。
「何で私達が修理費を負担しなきゃいけないんですか?そんな話は聞いたことがない。」
思わず声が大きくなり寛ぎスペースで歓談していた観光客の注目が一気に私に集まってきた。この状況に耐え切れず、とにかく「払ってよね」とおばちゃんは私に支払い明細書を押し付けてとっとと去って行こうととした。
いやいやいやいやいやいや、話はまだ終わってないぞーーー!
母屋でおばちゃんにおいついて、話がややこしくなりそうなのでスペイン人で英語も堪能な女性に通訳をお願いして宿のオーナーも目の前にして話す。まず、私は他の国で自転車を借りた時の説明から始めた。フランスでギアが折れた時、すぐにそのばでもちろん無料で自転車を交換してくれたこと、先進国ではそういう態度が当たり前でお客にその修理代金を支払わせるのは常識としておかしいということ。
するとレンタル屋のおばちゃんは、自転車には保険をかけていない。だからこういう事態が起こった場合に修理することができないという。
いやいや、それはあなたの問題でしょう。保険代金を支払っていない分利益があがっているのだがら、そこから留保してメンテナンス代金にまわすのが普通でしょう。と私が言うと、今度は今朝オーナーの所で交わした契約書を見せてきた。その契約書には「いかなるダメージが起こってもお客様の責任となるのでダメージに対する費用は支払うこと」という項目がある。この項目を見て夫はギブアップ。「もうしょーがないよ、だってサインしちゃったんだから。それにさぁ、このおばちゃんは本当にお金がないらしいよ、貧乏人いじめしているみたいで嫌な気分になってきた。もう払えばいいじゃん。」と寛ぎスペースに去っていってしまった。
うううう、納得できない。
そこで、「ダメージってのはねぇ、借りた後に起こったダメージであって金属疲労によるダメージまでは含まれないのが通常の解釈だと思います。私達は2時間半しか利用していないし、その間に大きな転倒も衝突もなかった。通常の利用だった。だからダメージとはいえない」というと転倒してないなんて証明できないから、レンタル後のダメージかもしれない。というか、とにかく払えの一点張り。しかもあーいえばこーいう私の態度にも相当頭に来ているようだった。
じゃぁ、あんたはこの自転車を永久に旅行者に貸せると思っているのか。金属は使われたら疲労するし、メンテナンスしなかったらいつかは壊れる。それを貧乏くじを引いた旅行客に押し付けて商売していくつもりなのか。
この攻撃が最後の引き金になってしまった。おばちゃんは顔を赤らめて興奮気味にオーナーに何かを言った。
「警察を呼ぶと言っています」・・・だって。
おー、呼ぶなら呼んでもらおうじゃないか。と私は思ったのだがオーナーが警察はやめた方がいい。警察を呼ぶと余計に不利になるからと早口の英語で言った。そうか、ここは小さな島、村社会だ。一見さんの観光客よりも地元民の肩を持つのは当たり前なのだろう。オーナーは35000ペソを支払って今日のレンタル費用14000ペソは無料にするというので譲歩してもらえないかと仲介役として妥協案を出してきた。そして、私を納得させるように「以前全く同じようなケースがレンタカー会社とあって、その時日本人は3万円くらい支払ったこともあったんだから、今日はまだいい方だ」というエピソードを語ってくれた。全くなぐさめにならない。
この島はすっかり旅行者にたかる甘え体質になっていることが露呈してきたのだ。
こうなったら、在チリ日本大使館に電話して援護射撃してもらおうかと思った。もう私達が頼れる場所はそこしかなさそうだったからだ。しかし、ここはイースター島。そして考えたらたかだか5000円程度の話に日本政府を持ち出すのも大げさすぎる。うーむ。
夫は既に引き下がって寛ぎスペースに行ってしまった。おばちゃんはオーナーの妥協策ならしぶしぶ受け入れるがそれ以上の交渉には乗らない構えである。というわけで、私もオーナーの妥協案を受け入れて、それでこの話を終わらせることにした。それにしても悔しい。
そこで私は「明日も自転車を借りるからメンテナンスしっかりしておいて下さい」と言ってみた。おばちゃんは「もう怖いから借りないでくれ」と言ってきたが、そりゃぁこっちのセリフだ。しかしこの島の体質がわかちゃった以上、別の場所で借りても同じことが起こりうる。同じ店の方が話が早いし、このおばちゃんの態度から2度目は請求しないだろうと思っての判断だった。オーナーに英語で「この人にも損失を出させてしまったので、明日も借りて少しでもこの人に現金が入るようにしたい」とこちらの意図をスペイン語で伝えてもらうと、レンタル屋のおばちゃんも納得してくれた。
寛ぎスペースに戻って、興味津々の白人観光客たちにご報告。みんな「あり得ない。考えられない。何というひどい世界だ」と憤りと同情を示してくれたのがせめてもの慰めとなった。「あの自転車、ギアにヒビが入ってたから借りなかったんだよね」というちゃっかりドイツ人、「ここはイースター島、世界の他の場所とは常識を一緒にできないよ」とオランダ人、「僕が交渉している日本人ビジネスマンは手強いからもっと強硬な交渉をするかと思った」とフランス人。ま、こんな事でもなかったら知ることができない様々な国の人の様々な反応が見られたという点では面白かったな。
因みにフランス人の発言が気になったのでもう少し掘り下げて聞いてみた。日本人ビジネスマンはどうして手強いの?
すると彼は答えた。「日本人はチームでやってきて責任の所在を曖昧にする戦略を取るから、一体誰と話をすればいいのかわからなくて交渉できなくなるんだ」。雲隠れの術は現代ビジネス世界に生き残っているようだ。今回私は一人で交渉していたので失敗したのかもしれない。もっと日本人を集めてチームで交渉すれば良かったのかなぁ。
この日のうちにおばちゃんは全ての自転車に点検を施していたようだが、私達の大騒ぎがあって翌日、翌々日は私達以外に自転車を借りる人がぱったりいなくなった。で、焦ったおばちゃんは自転車をトラックに載せて一斉に店に引き上げて総点検を行ったようだ。そうそう、定期点検すればいいのよねぇ。でも、しばらくしたらまた点検しないで私達のように支払わされる旅行者が出てくるのだろうか。観光業で生きているイースター島、しかも島を訪れるのは先進国のお金持ちばかり。甘え体質が直るとは思えない。
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