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2008.11.09
世界遺産のソチミルコより面白い事
ソチミルコはユネスコの世界遺産。「NHKの世界遺産の旅」というホームページにソチミルコは以下のように紹介されていた。
「・・・16世紀初め、この地を征服したスペイン人は、直ちに植民地の首都の建設を始めます。街の中心には勝利の象徴として、250年もの歳月をかけて中南米最大の大聖堂が建てられました。大聖堂の地下には奇妙な石積みが残されています。それは、スペインに征服されたアステカ帝国の遺構です。大聖堂を臨むメキシコシティの中心部は、かつてアステカの都だったのです。1978年、配管工事中に偶然に発見され、その後の発掘で大神殿が姿を現しました。アステカの都は湖の上にありました。メキシコシティの南に位置するソチミルコは、およそ500年前にアステカの都を取り囲んでいた湖の一部なのです。」
アステカのロマンが眠るソチミルコ、どんな所だろうかと9日の午後から訪ねることにした。
地下鉄2号線の終点タスケーニア駅で降りて路面電車の終点で下車するとソチミルコ。というガイドブックの解説に従って行ったのだが、路面電車が終点の1つ手前の駅までしか行かず、そこから歩いていく羽目になった。といっても終点駅まではそんなに遠くない。お目当ては湖の一部が残っている場所で、今ではそこにカラフルな船を浮かべてメキシコ市民が憩っているという場所だ。しかし路面電車の終点駅付近にはまるでその気配がない。
周囲の人に「ソチミルコってどこよ?」と聞いても「ここだ!」と地面を指差す。どうやらソチミルコというのは町の名前であって、私達のめざす場所は更にその町のどこかなんだという事がわかった。つたないスペイン語登場。「水、湖、えっとー、ボート(ここは英語で)、見る、見る」みないな単語の羅列で人に聞きまくりながら町中を歩いていった。ソチミルコの町自体はどうだろうか、アステカの趣が残っているわけではなくメキシコシティの中心部に比べるとひなびてノンビリした田舎の風情が漂っている。とはいえ、中央の通り沿いに店が立ち並び、野菜や果物の屋台も入り乱れて大変ににぎやかな所がメキシコっぽい。ここで初めて「鳥の店」ってのを発見。やたらに鳥のいい声がするなぁと思ったら鳥カゴに入った鳥を販売している店だった。ホンコンのお金持ちのお年寄りの趣味でこういうのがあるというのは聞いたことがあったが、メキシコにもそんな趣味があったとは初めて知った。
こうして町中をつっきるように歩いた向こうにお目当ての湖が見えてきた。ガイドブックにも掲載されている華やかなボートもあるある。
しかし、湖はよどんで美しくなく、まだ時間が早いせいか誰も乗っていないボートがたくさんあって、私達に客引きがどんどんと押し寄せてくる。
湖といっても運河のように細長い形になっていて、自分達が立っている場所はいわば湖のどんづまり。ここから運河をこぎ出だして一体どこまで行くのかわからないが、あんまり気分が盛り上がらない予感がした。湖、船遊びという言葉から私達はお弁当を持参してきていたのだが、水辺は全て私有地になっていてお弁当を食べられるのは船の乗り場に出ている屋台と屋台の間にあるベンチしかない。しょぼしょぼとお弁当を食べて、さーてもうやる事もなくなってきたので帰ろうかという午後2時くらいになって、ちらほらと船に乗る家族連れが見られた。
船の中は椅子とテーブルが設置されていて、家族は盛大に持ち込んだお菓子やジュースをテーブルにぶちまける。子供たちは案外楽しそうで、子連れのレジャーにはいいのかもしれない。もっと夜になるとマリアッチという楽団を乗せて船を出したりする人もいて、そうなるとかなり雰囲気が変わってくるかもしれない。
ってなわけで、ソチミルコ訪問はやや時間が早すぎて失敗気味。やれやれと、電車に乗って中心部に戻ってきたのだった。
ところで、ここで利用した路面電車や地下鉄はソチミルコに比べると断然面白い。この日は週末ということもあり、メキシコ一般人の生活ライブが繰り広げられていたからだ。例えば、地下鉄にはしょっちゅう物売りが入ってくる。小さな可愛らしい少女が築地の魚市場のおやじもビックリの練られた野太い声で「チューインガム、スナック、甘いお菓子ぃ〜、どれも5ペソだよ〜」と一うなりしたかと思うと、インディオ系の背の低い中年のおばちゃんが「パバロッティー、ドミンゴ、マリア・カラスぅ〜、世界のオペラ歌手のCDだよぉ〜」とモーツァルトのドン・ジョバンニのアリアを大音響で鳴らしながらやってくる。
足元がさわさわするなぁと思うと、ストリートチルドレンの貧しく汚らしい身なりの少年がこれまた汚い布で客の了解なく靴を磨こうとする。まぁ、磨くというより布を靴になすりつけては黙ってその人を見上げて「ちょっとコインでも頂戴よ」という目つきをするのだ。当然ながらあげる人はいないし、あからさまに「あんた止めなさいよ」と叱咤するおばちゃんもいる。こういう子供がいるというのは由々しき問題なんだろうけど、床をはいずりまわる子供も確信犯的な所があり、だから大人も子供に対する甘やかしなしに露骨に嫌な顔をしていて、いわば大人と大人のやりとりになっている分、悲壮感があまり感じられなかった。
こういう物売り、靴拭きの子供達もいれば携帯電話を片手に友人とおしゃべりと楽しむ洒落た服装の若者もわんさか乗っているし、白人系のお洒落だが厳格そうなおばさまも乗っている。メキシコで列車に乗っている人は上流階級ではないのかもしれないが、それでも様々な人種、社会的階級の人がごった煮のようにひしめいて乗っていて、均一に見える日本の電車とはかなり違っていた。ソチミルコまで足を伸ばした収穫はこの電車内見学にあったともいえる。
ソチミルコが早く終わってしまったので、ちょっとテピート地区に立ち寄ってから夕方4時半に宿に戻ったのだが、扉のベルを鳴らしても誰も出ない。鍵も閉まっている。「おおーーーいいーーー」と呼びかけても誰も出てこない。つまり、私達は締め出しを食ってしまったのだ。鍵を持っている常連の宿泊客はみんなルチャリブレに出かけて夜遅くならないと戻ってこない。日曜日なのでお手伝いさんはお休み。そして奥さんも出かけている。向かいの公園の縁石に座って待っていると次々と鍵を持たない宿泊客が戻ってきて縁石組みはついに6人にまでなった。午後6時になってきたので、6人はそれぞれ夕食を食べに行こうということになった。
一番早く戻ってきたのは私達で午後6時半。宿の前には一台の車があり中には奥さんと二人の子供が乗っていた。いやー、良かったぁ、これで入れる。
すると車の外に出てきた奥さんが「鍵は持っていませんか?」と聞く。何?奥さんは車から降りるなり「私も鍵持って出るの忘れちゃったのよねーーー、あっはっはっは」。あっはっはってどーするんですかぁ。「前回は隣のホテルの2階のベランダ伝いに窓から入ったのよねー、大変だったわー」って初犯でもないのかぁぁぁ。近所に住む奥さんの妹さんがこんな事に備えて鍵を持っていて、今ここに向かっているというので私達も一安心。向かいのアイス屋からアイス買ってきて全員でベロベロとアイスを食べながら鍵を待った。それにしても明るい。この奥さんの明るさはこちらの怒りを吸い取るパワーがある。これもメキシコなのだねぇ。やがて妹さんが鍵を持ってきてくれて終了。これもソチミルコよりも面白い出来事だった。この日から奥さんがでかけようとする度に「奥さん、鍵持ってる?」と夫がチェックしたのは言うまでもない。
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