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2008.10.21
ひょんな事から農場見学
昨日、コンチャ・ペルラでアメリカ人のニックという青年に出会った。シュノーケリングマスクとチューブとフィン、更にウェットスーツまで持っていて、普通の観光客にしては随分とシュノーケリングに力を入れている人だなぁと思っていたら、ここでボランティア活動をして長期滞在しているそうだ。今日は天気がいいので遊びに来た。彼の専門は農業で、イザベラ島で3人にまで減ってしまった農家を支援して農業の大切さを地元に広めて農業人口を増やすと共にその質を高める指導を行っているんだそうだ。
そんな話をしていたら、「じゃぁさぁ、明後日の21日に農場に一緒に遊びに行かない?」って話になり、今朝7時にバス停で待ち合わせることになったのだった。6時45分にバス停に行くと既にニックがいて「やぁ、来たね」と迎えてくれた。それまでに知り合った日本人大学生の西川君にも声をかけておいたが6時50分になっても彼はまだ現れない。バスは7時発と聞いていたのに6時52分にやってきて、用のある人はさっさと乗り込んで今にも走り出しそうになった。西川君、早起きできたら行きますと言っていたので無理だったのねぇと思っていたら、走り出そうとするバスに飛び込んできた青年がいて、西川君だった。これで全員が揃った。イザベラ島の公共のバスに揺られて30分、私たちは内陸へ内陸へと向かっていったのだった。バスは雨模様にもかかわらず多くの人を乗せて走る。途中の農場で働きに来ている人が降りたり、ニックの知り合いの農家の人が乗ってきたりして、外国からの観光客の知らないローカルの世界でも活発に日常生活が行われているのだった。
停留所もなく目的地を運転手に告げると停車してくれるようなバスで、私たちは農場の目の前で降ろしてもらった。バスの中でニックは今日の目的を語った。
ガラパゴス諸島というと高級クルーズで無人島を巡って終わるだけなのだが、この島で収穫される農産物とそこで働く人々の生活を見学してガラパゴス諸島の農文化に触れるというのも観光になるのではないか。そしてそういう活動が農家の副収入となり農家を行いたい人へのモーチベーションになるのではないか。
そのテストケースとして彼は私たちを呼んだというわけだった。つきましては見学後に農家の人にお志を一人US$2〜3ばかりあげて貰えないだろうかということも含めて彼の説明は終わった。まぁ、それくらいの金額の寄付なら喜んでしましょうと私たちは承諾したのだった。
彼が事前に農場見学の意図を話してくれたので、私たちもどうやったら先進国の観光客が興味を持つのかという視点を持ちながら見学できたので2重に面白いことになった。
まずは農家の人とご挨拶。朝が早くてまだ朝食を摂っていなかった私たちは持参したパンと牛乳を農家の軒先で食べさせてもらった。ここには4歳くらいになる「やんちゃ王子」がいる。朝食を食べながら「やんちゃ王子」とコミュニケーションを取ることができた。人のパンを欲しがったのにあげたら食べないでテーブルに打ち捨てる。ああ、本当にやんちゃだった。
朝食後、農園見学開始。先頭に立って歩くのはもちろんニック、ではなくて「やんちゃ王子」だ。ニックは彼を「ミニ・デビル」と呼んでいる。「さぁ、これがコーヒー豆です」と早速、植物の説明が始まったのだが、これが全く畑らしくない光景なのに驚いた。コーヒー畑というとコーヒーの木がずらりと植わっているのを想像するのだが、ここの農場は通路の脇にコーヒーや他の果物などがバラバラと自由に植わっている。まるで自然の森の中を歩いているような感じなのだ。「変わってるねぇ」とニックに感想を漏らすと、これは新しい農法で様々な樹木を取り混ぜて植えることで土地の疲弊を防いだり、特定の樹木につく害虫を防ぐ事ができるのだそうだ。
また、野菜を作っている畑は耕されて畝を作っているのだが、よく見ると丈の高い植物の足元でレタスも作っている。これも土地を有効活用した農法でイザベラ島では今まで行われていなかったのだそうだ。パイナップル畑では出来かけの実が見られる。こんな風にできていくのか。農業に初めて詳しく触れる私たちにはとても新鮮な体験だった。
ニックは有機肥料の作成にも取り組んでいる。特殊なバクテリアを使うことで通常よりも手間がかからず、短期間で同室の肥料を作ることができるのだそうだ。彼はこの肥料の分野を特に大学で詳しく勉強していたようで、ここの説明にはより力が入っていた。
今はここで農場指導をしているニックだが、将来的には有力なバクテリアを使った肥料を開発して世界中に売り出したいという夢も持っていると語っていた。でもそれには大規模な設備も必要で資金を出してくれる企業を説得しなければならない。「ニックがビッグになったら、ここで農場見学させてくれたエピソードを有力雑誌に語るからね」と約束。
森のような農園を歩いているうちに西川君が行方不明になってしまったが、まぁいいやと私たちは歩き回った。鮮やかな赤い色素をつける植物や可憐なオレンジの花もある。そんな中、細い枝から不釣合いに重そうな実を付けている樹木があった。聞くとパパイアだそうだ。確かにこれが熟れればそういう形。でもあまりに意外な実のつけ方でわからなかった。
森林の樹木が果物園だと気づいて周囲を見回すと、バナナ、パパイア、コーヒーなどがブラブラしている。お宝の山の中にいるような何だか嬉しい気分になる場所だった。
ここで果物休憩。トマトに似た真っ赤な実は亀が好む果物で人間は食べないというので却下されたが、細長い緑色の筒を開けると真っ黒な種の周りに真綿のように柔らかくてジューシーな白い実をつけた果物を食べさせてもらった。天然の甘さがおいしいし、この形、この種。魅力的な果物だった。ゴツゴツした外観のグアバーヤバは熟すと真っ黒になり中は真っ赤な実。エクアドルの首都キトでもグアバーヤバはジュースやお菓子によく使われる酸味の強い果物だ。
こうして2時間半ほど農園で遊ばせてもらってから、最初に訪れた母屋に戻るとご主人がパイナップルを切って振る舞ってくれた。この島では黄色っぽいパイナップルと白っぽいパイナップルの2種類ができるのだそうだが、白っぽい方が作るのが難しく味もとても良い。その白っぽい方をごちそうしてくれた。パイナップルなんだけれど酸味が弱めで甘みが強く筋っぽくない。これは本当においしかった。お土産にこのパイナップルとミカンを頂いた。
ニックが事前に申し出たように私たちはご主人に少ないですがと2人でUS$5を渡した。こんな金額を渡すのは日本人には非常に抵抗があるが、心なしか受け取る方のご主人にもてらいがあるように見受けられた。発案者のニックだけが満足気だったように見えたのは私の思い過ごしだったろうか。
後にプロジェクトを成功させるためにどうしたらいいのかという話をニックとした時に、このチップの渡し方も含めて日本人としての意見を言ってみた。アメリカ人のニックとしては自分が中間マージンを取っていない事を明らかにするためにも直接渡すという方法がいいと思っていたらしい。こうしたお互いの風習を背景にしている考え方の違いを知るというのも、こういう出来事があってこその経験だった。
その後もニックとはメールのやり取りをして、プロジェクトをイザベラ島の観光局に申し出る所まで話が進んでいると聞いた。ニックのボランティア期間も終了に近づいている。何かしらの成果を残してアメリカに帰れるといいね。
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