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2008.09.22
オクトーバーフェスト、キャンプ場の実態
9月下旬のミュンヘンといえばオクトーバーフェスト。ビールのための小麦の収穫祭に起源を持つこの祭りは日本でも毎年テレビや雑誌で報道される超有名フェスティバルで、いつか一度行ってみたいという思いはノイシュバンシュタイン城に対する思いよりも強かった。
最初に向かったキャンプ場は市内にあって地下鉄でフェスト会場に向かえるのが売りだった。キャンプ場への小道に入った途端にフェストに向かうらしき顔にペインティングした若者が大量に繰り出してきて、「おー、やってるやってる!」なんてはしゃいでいたのだが、実際にキャンプ場に到着してチェックインさえも長蛇の列という状況を見て、だんだんと興奮が冷めてきてしまった。予想以上の混雑状態だ。
フロントの青年は私たちが時を誤って来てしまった普通のキャンパーだと思ったらしく、「非常に申し訳ないが現在オクトーバーフェストという一年で一番有名な祭り中なので通常キャンプ代金プラス祭り料金になります。また夜中、というより明け方までみんな飲んで騒いでいるので一晩中うるさいと思いますが、それでも宿泊しますか?」と尋ねてくれた。私の脳裏には一晩中飲んで暴れまくる白人若者が踊りくるって私たちのテントを破り裂く悪夢がよぎったが、他のキャンプ場がここより良いとは限らない。とりあえず一泊して考えてみようということになった。
あてがわれたキャンプ場に向かう途中に大型バスが数台停車している。ドイツの別の地域や遠くは別の国からやってきて常設の集合テント場に宿泊させるツアーがあるようなのだった。因みにこの常設テントには個人で来ても宿泊できる。市内のバックパッカー宿の狂乱の値段に比べたら安上がりなので地下鉄とバスを乗り継いでここに来る若者も多いようだ。ただし、安いといってもこんなテントでの宿泊が一人一泊25ユーロくらいしていて、よく値段をわかっていなかった若者がチェックアウト時に絶望した表情になっているのをさっき見たばかりだった。
まぁ、まぁ、がっかりしなさんな。私たちは車を返却した後に駅前のバックパッカー宿に予約した40人ドミトリーのベッドなんて一人一泊64ユーロもするんだから。よっぽど、それを言って慰めてあげようかと思った。
キャンプサイトはまるで難民キャンプさながら。テントの前にテーブルと椅子を広げるなんて優雅な空間は全くなく、隣のテントと鼻先を付き合わせるように場所を確保するのがせいぜいだった。折から雨で空は陰惨なグレーだったが、酔っ払いには関係ない。テントの入り口を開け放して隣のテントのやつとグラスを酌み交わす奴、雨の中でも踊っている奴、屋根のかかったカンティーナと呼ばれる簡易食堂には高くてまずそうなスパゲッティーを肴に飲んだくれる人が満載。どこに目を向けても酔っ払いだらけだ。
オクトーバーフェストはビールの祭典だから酔っ払いばかりがうようよしているという覚悟はできていたつもりだが、20代ならいざ知らずいい大人が来る場所じゃないなぁという気がひしひしとしてきた。
更に酔っ払い対策としてトイレから全てのトイレットペーパーははずされ、シャワーのお湯はもちろんのこと、煮炊きや食器洗いにつかう水も全てコイン式の有料となっていた。夜になったらトイレは吐瀉物だらけ、キッチンの洗面台はスパゲッティーで埋まるに決まっている。いーやーーだぁーーー、こんな所。
あー、ダメだ。とってもなじめない。こうなったら少し離れているが市郊外北西にあるもう一つのキャンプ場を見に行くしかない。テントを設営し終わる頃には決意は固まっていた。
スーパーで食材を購入した足で午後4時過ぎにもう一つのキャンプ場に到着。タールキルヒェン(今夜のキャンプ場)ほど人はおらず、こちらではテントに電気を引いてくることもできるしシャワーは有料だが、調理関連の水は無料で使える。宿泊費もこちらの方が少しだけ安かった。巨大なキャンピングカーをいじっていたドイツ人の老人と少し話をしたのだが、タールキルヒェンに今夜宿泊するというと「うわっ。あそこは酷い場所だからねぇ。すぐにこっちに来た方がいい」と言った。やっぱりねー、知っている人は知っているんだよね。
とにかく一晩だけやり過ごせばいいと思い、夫はシャワーを浴びたが私は浴びる気になれずにシャワーなしで耐える。夜が更けるほどに外の騒ぎは大きくなるのを耐え、今日テントを設営している時に雨が降っていたのでテントの床が浸水して夜になるほどに冷え込むのを耐え、我慢、我慢の一夜を送ったのだった。とはいえ、日本で見るオクトーバーフェストの報道といったらフェスト会場で楽しそうに飲む姿ばかりで、世界中からビール好きの低所得者階級も詰め掛けているという実態を知れたというのは貴重な体験だった。低所得者階級って差別的表現で申し訳ないんだが、この時期のこのキャンプ場に来てみれば誰でもこの発言に納得してくれることだろう。国境を越えて同じような種別の人が一堂に会しているという光景は凄みが感じられる。このスケッチを読んだ誰が好き好んでここに行くかと思うと疑問だが、それでもオクトーバーフェストのある一面を見ることができるので見学だけでもする価値はあるかもしれない。
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