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2010.07.25
エメラルドの洞窟とアマルフィ海岸
アマルフィ海岸とはソレントからサレルノまでの海岸線を指す。ミュンヘン中央駅から空港までの電車の中で出会った日本人の女性から、「イタリアのアマルフィは良かったわぁ・・・」と夢見心地の視線で言われたのが去年の事だった。以来、虎視眈々とというのは大げさだが近くまで来たら絶対にアマルフィを訪ねようと思っていたのだった。
ポッツォーリのキャンプ場に滞在してポッツォーリ周辺とナポリと観光し、ポンペイのキャンプ場に移動してきてポンペイ遺跡、ヴェスーヴィオ火山と観光した。次にソレントに移動してカプリ島を目指すのだが、さてアマルフィへはポンペイから行くべきか、ソレントから行くべきか?
地図を見て検討するとソレントからアマルフィは半島の中央にある山を迂回して山と海岸線の間をずっとクネクネと走らなければならないようだ。対してポンペイからアマルフィは全体の距離は遠いものの山越えのクネクネ距離が少ない。
ってなことで、ソレントに移動する前にポンペイからアマルフィ海岸の中心地といえるアマルフィを訪ねることにした。ついでに、近くにある青の洞窟ならぬエメラルドの洞窟にも行ってみよう。
ポンペイを出てからしばらくは高速道路並みの快適な広い自動車道が続くのだが、半島の山の麓で「アマルフィはこっち」という手書きのような頼りない看板で右折した途端に急に道が細くなり傾斜のきつい上り道となった。それでもカーブは比較的緩やかで、時々ホテルなどのある小さな村を通過していく。こんな山中にもかかわらず案外観光客がいてカフェでエスプレッソなどをすすっている。小さな村では相変わらず違法駐車や違法駐車したい車が道をふさいでいて運転がちょっと難しかった。ナポリ湾側から山を上がって約30分後、向こう側の海が見えてくると、ここから一気につづら折りで山を下る。今日の道のりではここが一番の難所だった。道はゆっくり走れば問題ないのだが、何がいらつくかって、この道に慣れているナポリっ子たちがせっついたり追い越しをかけてきたりする事だった。陽気なナポリっ子とガイドブックなどには書かれていて、確かにピッツェリアや土産物屋ではそう感じるが、道路を走っている限り今までのイタリアの他地域と比べて運転が粗暴でマナーが悪かった。
つづら折りの山道を下り切って出た海岸線の道は、「これがアマルフィやサレルノまで続く幹線道路?」と疑うほどに狭く、一方に海に続く断崖、他方に山に上る斜面に挟まれてカーブの多い道だった。
今日一日この界隈を来るまで行き来するかと思うと夫はハンドルを握ったまま深く「うーむ」とうなってしまった。
まぁ、来てしまったものは仕方ない。最初にエメラルドの洞窟を見に行こう。
エメラルドの洞窟前はちょっとした駐車場になっていて大型バスも停車して土産物屋があるのでわかりやすい。しかも、係員が道路傍の駐車スペース(無料!)に案内してくれて通行する車も停めたりしてくれるから駐車するのに苦はなかった。
駐車スペースの場所からエレベーターで下に下りると洞窟への入り口に到着する。ここにはリアルゴッドファーザーという感じの強面のおっさん二人がパンを片手に釣りをしていたが、私達の姿を見ると「ウェイト」と一言発して再び釣りに集中していた。
やがてもう一組のアメリカ人家族がやってきてボートに乗り込むことになった。ここで一人5ユーロの入場料をおっさんに払う。
カプリ島の青の洞窟と違って、この洞窟は開口部が大きくてそこからぞろぞろと徒歩で中まで入って洞窟の内部でボートに乗るような場所だった。だから天候が悪くて波が高いので入れないということはなさそうだ。
ボートに乗ってすぐ奥にネオンチューブのような青い水面が見える。洞窟の奥に穴が開いていてそこから入る陽光がこの色を作りだしているのだった。内部は狭くすぐに青い水面に到達する。オールの先が水に入る度にトロッととろみを感じるような水だった。青い部分はほんの一部でくるっと回遊する時間は1分くらいだろうか。
それじゃぁあんまりだというのだろうか、洞窟の奥の陽光の届かない部分はライトアップされて鍾乳洞のある洞窟内を照らしている。その辺りにボートを寄せて「はい、これはエッフェル塔ね」と面白くもなさそうな声でいうものだから、アメリカ人も笑っていいのかわからずに皆でドギマギしてしまう。しかし、日本語で「トウキョウタワーね」と言った時はさすがに笑ってあげないと可愛そうな気になってきてしまった。この場所から見ると、既に青い光の部分は遠のいている。ほんとうにわずかな部分の陽光が見所の洞窟なのだ。
更にもう一ヵ所、海中に白い天使やらの彫刻を置いてある場所にライトを当てて見所にもしている。これは海面が揺れてうまく写真に写せなかった。水中にカメラをつければ撮れたかもしれない。
実は意外に洞窟内は広くてボート乗船時間は10分もあった。強面のおっさんは最初っから最後までガイドのあいの手のように英語と日本語で「帰りにチップを私に払うのを忘れないように」と何度も何度も言うのが、興ざめを通り越して哀愁を感じさせた。こんなに屈強で強面のおっさんが居丈高に言う内容が「チップくれ」。夫は映画の自転車泥棒と同じ悲哀を感じると繰り返し感想を述べていたが、私もそういう感じを持った。俺の人生はこんなはずじゃなかった、何で俺がこんな事をしなきゃいけないのかという不満に膨れ上がりながらも生活のためにチップを請求しているという、そういう悲哀に接するというのはある意味、青の洞窟よりもインパクトが強い生のイタリアを見た気がしたのだった。
まぁ、今回乗り合わせたメンバーがしんみりしていたからそう感じただけであって、おっさんの無愛想なガイドも乗り越えるハイテンショングループと一緒ならまた違う感想になったかもしれない。
降り際に3人家族のアメリカ人は5ユーロ、私達は2ユーロのチップを払って満足してもらえたようだった。
カプリ島の青の洞窟は天候によっては入れない事もある。そんな時はいつでも入れそうなこnエメラルドの洞窟でプチ青の洞窟体験と生のイタリア人観察をしてはどうだろうか。
さて、再びエレベーターで地上に上がって、桃売り屋台を出しているおっさんが日本語で「ももー、ももー」と奇怪な大声で叫ぶのを背に車を出して今度はアマルフィに向かった。
「アマルフィ」と書かれた看板を通りすぎてすぐに左手にアマルフィの斜面にはりつくように建物が並ぶ町が見えてきた。左手に駐車場への入り口があるのだが「満車」の表示になって駐車できない。もう少し先に行ったら駐車場があるのかと思って走り勧めたらアマルフィがどんどんと遠のいていってしまった。引き返そうにもUターンする場所さえも見つからない。ええい、それならラヴェッロに行ってしまえ。アマルフィからサレルノ方面に少し進んだ所から山側に上っていくと高台からの風景が楽しめるラヴェッロという町がある。岬にそって大きく道を迂回しながらかなりの距離を走ってラヴェッロに到着したのだが、なぜかラヴェッロの市営駐車場は閉鎖されていて、何人もの観光客が行き止まりで引き返しているのだった。他に駐車場はないと婦人警官に言われて、ラヴェッロ見学を断念。再びアマルフィに引き返して満車の駐車場に並ぶことにしたのだった。アマルフィの町はラヴェッロ側からアプローチした方がよく見えた。これは怪我の功名とも言える発見だった。
エメラルドの洞窟からアマルフィに至る海岸線は入り組んで
面白い風景を作っていた。 |
AMALFIの看板が出たらすぐにアマルフィに到着。 |
ラヴェッロはドゥオーモに「ドラゴンに飲み込まれる人」の床モザイク装飾がある。見たかったが・・・。 |
ラヴェッロから再び海岸線に出てアマルフィに。 |
駐車場には「満車」のサインが出ているが他にも待っている人がいる。その行列の後ろにくっついて並んだはいいが、広場から駐車場に至るとても細い道がバイクの違法駐車で更に細くなっている上にバスともすれ違わなくてはいけないという最悪の道だった。ほんの150mほどなのだがバスが本当に15cmくらい脇をすれすれにゆっくりと通り過ぎるのを待ったりして神経の擦り切れる場所だった。
並んでいると係のおっさんが「何時間滞在するのか?」と聞いてきた。2時間だと答えると、どこからかある車のキーを持ってきて車を移動させてその場所に停めろという。どうやら、関係者のみの駐車スペースをも駐車スペースにしてこっそりお小遣い稼ぎをしているようなのだった。これもイタリアっぽい。私達としては同じような金額で早く駐車できるので問題ないために、さっさと駐車させてもらった。状況に応じて四角四面ではなくルールを変えちゃうというのはイタリア人の得意技だ。双方に利益がもたらされれば問題はない。
駐車場の向こう側はレストランとビーチベッドの並ぶ小さな海水浴場。その端の磐に陣取ってまずは持参のお弁当を広げてランチだ。
目の前の海は今回のイタリア旅行で見てきたどこよりもきれいな水の海だった。アマルフィ海岸は海流の流れがいいのか、あまり開発されていないのかとても海が美しくて嬉しくなる。
ランチを済ませて早速アマルフィ散策開始。散策といってもアマルフィの町はとても小さい。海に突き出した桟橋があるのでそこから眺めると、海があってカラフルなビーチパラソルが並び、その後ろからすぐ町が斜面にそって持ち上がって後ろが岩山になっている。小さな空間にぎっしりと色んな物が詰め込まれて、夏の南イタリアの強いひざしに活き活きと色が踊って見えておもちゃ箱のようなデコレーションケーキのようなこの景色に浮き浮きとした気分になってきた。
町は海岸から100mくらい入りこんだ場所にドゥオーモ広場があり、広場に面してドゥオーモやカフェや土産物がある。広場から更に内陸に1本細い道があって両脇に400mくらいお店が並んだ先はもう住宅もまばらで何もなくなる。あっという間に観光が終わってしまう小さな町だった。ドゥオーモはどことなくイスラム教のような感じの漂う建物で、アルハンブラ宮殿やそういうスペインの建物を思わせた。
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中央のブロンズ扉はコンスタンチノープルで鋳造され1065年に取りつけられたそうだ。 |
ドゥオーモの階段から広場を見たところ。 |
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内陸に伸びる細い道がいわばメインストリート。
途中には味のある水飲み場もあった。 |
とにかくジェラートが食べたくなる気候 |
30分も散策して町見学も終了した。あと1時間くらいあるので泳いでみようかということになり、さっそくビーチに出てみた。パラソルとビーチベッドは有料区域なのだが、その隣にフリービーチがある。ここではパラソルを持参したりタオルだけを広げてたり、思い思いのスタイルで皆が楽しんでいた。物陰でちゃちゃっと着替えて私達もこのグループに参加する。とにかく暑いので海水が気持ちいいことこの上なかった。
あまりに気持ちがいいので、駐車場のおっちゃんの所に戻って1時間延長を申し出た。既に次の客を確保している様子だったので、おっちゃんは少し苦い顔をしながらも延長を認めてくれた。
こうしてビーチで1時間半を過して午後3時に撤収。駐車料金は3時間で8ユーロだった。
帰りもまたつづら折りの道をぐいぐいっと登りる。太陽の加減で西側にあるこちらの海は午後になるとより美しい色になるようで、帰りの方がきれいに見えた。一番高い場所まで来ると先の方にナポリ湾が見え、ポンペイに近づくにつれて巨大なヴェスーヴィオ火山を目の前に見ながら走ることになった。今日のドライブは起伏に富んだ地形を走るのでドライバーは大変だったが助手席にいる身としてはとても楽しい道のりだった。
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