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2010.06.26
高台の町、オルヴィエート
昨日、ウンブリア州のトラジメーノ湖からローマのあるラッツィオ州北部のボルセーナ湖畔の町ボルセーナに移動してきた。ウンブリア州とラッツィオ州の州境に近いウンブリア州側に突如として盛り上がった大地にデコレーションケーキのように建っている町、それがオルヴィエートだった。ウンブリア州側からはその異様な盛り上がりがよく見えないのだが、オルヴィエートの麓を通りすぎてラッツィオ州側に入り、ボルセーナ湖に向かうルートを走るとオルヴィエートと同じ高さになるまで向かいの丘に上がることになる。そこからは、異様なデコレーションぶりがはっきりと見える。朝は逆光で写真ではわかりにくいが肉眼で見るとかなり興奮する異様さだ。
ボルセーナからオルヴィエートを含むいくつかの町を訪ねようと思っていた私たちは、翌日の今日、早速オルヴィエートを訪ねることにした。
ボルセーナ側からオルヴィエートに行こうとして道路標識に導かれるままに麓から急な坂を上って行くとやがて駐車場になる。この駐車場からでさえ既にとてもいい眺めが見られる高さなのだが目指すオルヴィエートの町はあとビル10階分くらいの高さで目の前に立ちはだかっていた。
朝からハードな運動だと腹をくくりかけた時、「エレベーターはこちら」という表示が目に入ってきた。よかった。エスカレーターもあるのだがエレベーターよりも低い場所に到着するようなのでエレベーターで一気に高台に向かった。到着したのは東西に長い町の西端に近い場所。エレベーターのある場所に町の見取り図がわかりやすいイラストパネルになっていた。オルヴィエートは本当にそこだけ地面がまっすぐに隆起した変わった地形の町だ。大地の下からアクセスできるのは私達が使った西端の駐車場からか、東端の大地の下の駅のある町からだけ。要塞としてこれほど適した町もないだろう。
オルヴィエートに来たのはこの面白い地形の町に足を踏み入れてみたいという目的だけではなかった。ここのドゥオーモにはルネッサンスの画家ルカ・シニョレッリの有名なフレスコ画があるのだ。フィレンツェにいる時から美術館のショップをのぞく度に、このルカ・シニョレッリのぎょっとするフレスコ画が目に入る。「黙示録」から主題をとったという一連のフレスコ画は大勢の裸体の人間や悪魔などが入り乱れ、その生々しい肉体描写と描かれている場面のおどろおどろしさに思わず目を奪われて、何度も画集を見いってしまったのだった。この絵がオルヴィエートにあると知って、是非見たいと思っていたのだった。
だから早速ドゥオーモを目指そうと思ったのだが、この町がまた中世の街並みなもんだから道が迷路のようでわかりにくい。地図を見ながら進むのだがどうにも違う道を歩いているような気分になってくる。肝心のドゥオーモへの標識もあったりなかったり。道を聞こうにも朝9時40分のこの辺りには人が歩いていないし、半分困りながらも半分は人がいない中世の街並みを独占している満足感にひたりながら歩いていた。途中で一度人に道を聞いてたどりついたのが市庁舎のあるレップブリカ広場。そこから繁華街のコルソ通りで標識もあるし人もたくさん歩いているのでわかりやすかった。建物と建物が迫る細い路地からドゥオーモが垣間見えた時には、既にオルヴィエートの主要建物がある通りの8割は歩き終わっている。そんな小さな町だった。
迷路のような道が続く |
上下から道が近寄って交差する風景が面白い |
背景の門の非日常的風景は買い物する婦人にとっては日常 |
サンタンドレア教会と鐘楼、右手に市庁舎のあるレップブリカ広場 |
レップブリカ広場からコルソ通りに入ったすぐにあるロッジア |
トスカーナではベンチに座る老人と壁から突き出すチンギアーレ(猪)の頭を良く目にするが、両者を一緒に見かけるのは珍しい |
壁に色々な家紋の彫刻が貼りついた古い建物は現在、書店 |
ドゥオーモの姿が見えてきた! |
ドゥオーモは内包するルカ・シニョレッリのフレスコ画だけでなく、その外観も驚きの素晴らしいイタリアンゴシックだった。隣にはソリアーノ宮が建っている。
ドゥオーモのチケットはこのソリアーノ宮で販売されているというので買いに行くと、めっちゃくちゃイタリア語で複雑なチケット制度を説明され頭が混乱した。とにかく向かいのファイナ宮左手にある観光案内所にかけこんで「一体どーなってるのか」と説明を求めることになった。
色々な種類の共通券があったが、結局私たちは一人3ユーロでドゥオーモへの入場券とドゥオーモ内にあるルカ・シニョレッリのフレスコ画のあるサン・ブリツィオ礼拝堂への入場券を買えばいいという判断になった。今まで何度か経験したのだが共通券というのは、それだけではあまり集客できないような博物館や美術館を有名観光名所と組み合わせて安く販売するという観光チケットのバルク売りみたいなことになっているチケットだ。おまけといっては失礼だが主たる目的ではない場所に足を運ぶと、エネルギーと時間がかかる割にやっぱりあまり面白くなかったりして、大切な目的の作品観賞に使えるパワーが減るという経験を何度かした。
一見お得に見える共通券だが、よく内容を吟味して買うべきだと思い、今回は目的の場所だけのチケットを買った。
ドゥオーモはまず正面外観から圧倒的な装飾で驚かせてくれる。上から金箔を使ったフレスコ画、壮麗な飾窓とその周囲の細かい彫刻、扉周辺の付け柱のデザインと扉と扉の間の彫刻。オペラグラスでも持ってきてじっくりと上から下までながめる価値ありのもの凄い装飾っぷりだった。
足元から見上げるとさらに圧倒的 |
美しいバラ窓の周囲を取り囲む細かい装飾 |
正面扉と左右扉の間の柱の彫刻 |
扉を囲む飾りの付け柱は一本ずつ異なるデザイン |
黒と白の石が印象的な内部 |
各礼拝堂の装飾も隙がない |
そしていよいよルカ・シニョレッリのフレスコ画。これは期待を裏切らない迫力のある作品だった。残念ながら撮影禁止で写真がない。「地獄へ落ちる人々」や「善人と悪人の選別」などのテーマごとの絵画が壁を埋め尽くしていて、そこに描かれている人数の多さもさることながら悪事を働いて地獄へ落ちる人々の苦悩や苦痛や悶絶や生前に犯した罪などが生々しく描かれていて一人ひとりに注目しているとどんどん絵に引き込まれていく。そもそも興味深いテーマの上に、裸体の表現がとても写実的なので尚更見入ってしまう。いやー、面白かった。
さーて、お昼ご飯にはまだ早いので午前中にもう一つポポロ宮でも外観を見ておこうと宮殿のある広場に行くと、今日は市が立つ日で宮殿前が屋台で埋めつくされていた。野菜から衣料品まで様々な店が並んで賑やか。いつしか揚げもののいい匂いのする屋台に引き寄せられコロッケを頬張ることになった。まったく、こういう屋台は憎らしいくらい魅力的だ。こういう時食いしん坊の相棒と結婚してよかったと思うのである。
ってなわけで、今日のポポロ宮はどの角度から撮影しても屋台のテントが入ってしまうことになる。ポポロ宮は12世紀に建てられたロマネスクゴシック様式だそうだが、13世紀から建築がはじまって17世紀にやっと完成したドゥオーモと比べると、時代が古くあっさりとした感じを受ける建物だった。
ここからメインストリートのカヴール通りを東に向かって歩いて行くと、オルヴィエートの高台の東端に到達する。ちょっとした公園になっていて、高台の端まで行って崖と眼下の町を眺める事ができた。本当にここだけステージのようにガーッと隆起したのが実感できる場所だ。少し下がった場所には法王が水源確保のために掘らせた井戸が見え、螺旋階段で井戸の底まで降りられるという観光名所になっている。行かなかったけど。
これにてほぼオルヴィエートの観光は終了なのでカヴール通りをさかのぼって戻ることにした。カヴール通りに入ってすぐ左手にカットピザ屋があったのでそこで昼食。アジア人女性が店員さんで珍しいなぁと思いながら注文していたら途中から「あれ?日本人ですか?」と彼女が聞いてきた。なんと日本人だったのだ。オルヴィエートに住んで10年になるという。指輪をしていたので結婚してここに住んでいるのだろう。オルヴィエートのこの高台の住宅は昔ながらの作りで狭い路地に建てられているので日当たりがあまり良くないが、最近人気で家賃がどんどん高くなっているなどという話をしてくれた。本当はもっとおしゃべりしたかったが、昼時で忙しくなってしまったので、私達も先に進むことにした。
因みに彼女の所のピザは生地が薄くて私達好みだった。他の店でもっと厚い生地のピザがあるがあれはアメリカ仕様なのかと聞くと、ピザにも色々あって厚い生地のピザもイタリアではあるのだそうだ。
午前中はドゥオーモが逆光でよく撮影できなかったので、順光のドゥオーモを撮影しようと午後からもう一度行ってみると、正面扉前が騒がしい。しばらくすると聖堂から花嫁と花婿が現れて親戚友人一同からライスシャワーを受けていた。午後の光を受けて輝くように美しいドゥオーモを背景にこれまた輝くように幸せな二人の姿に多くの観光客がカメラを向けていた。
そして最後にドゥオーモをパチリと撮影。今日のオルヴィエートの観光はドゥオーモにつきるなぁ。
帰りに朝立ち寄ったオルヴィエート向かいの丘のポイントにもう一度立ち寄った。やはり午後の方が光の具合でよく見える。朝はその異様な町の地形ばかりが気になったオルヴィエートだが、今日一日であそこに華麗なドゥオーモがあって、10年暮らしている日本人女性がいて、今日から新婚生活のカップルがいるという具合に血肉の通った印象に変わったのだった。
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