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2008.09.11
トレ・チーメ・ディ・ラヴァレード
コルティナからの観光の最後はトレ・チーメ(3つの頂)と呼ばれる岩山があるという場所だった。3つの岩山が突き出しているといえば、南米のチリの南部にあるパイネ国立公園を思い出す。ここにもトーレス・デル・パイネ(パイネの塔)と呼ばれる細い岩が台地に突き刺さっているような風景があるのだった。
ガイドブックによればトレ・チーメの駐車場から1時間くらい歩くとトレ・チーメが間近に見られる場所にたどり着くとあった。キャンプ場から1時間もかからない場所にあるので、今日はゆっくりと10時半に出発した。あらかじめコルティナ・ダンペッツォの観光案内所で教えてもらっていたことなのだが、トレ・チーメに自家用車(レンタルでも)で入るには車1台につき20ユーロを支払わなくてはならない。自家用車が入る料金を高く設定することで車があまり入らないように、自然環境に配慮しているのかと思いきや、バスで行くとコルティナとの往復で一人10ユーロかかるそうで全く関係ない。自然配慮ともバス会社保護とも関係ないらしく、どうにも納得のいかない料金設定なのだが、とにかくそうなっているため、私たちはレンタルしている車でアプローチすることにした。
トレ・チーメまでの道のりには「あれがそうか?」と思わせるような尖った岩山がいくつかあり、詳しくこの辺りの地形を知らず、距離感もよくわかっていなかった私たちは、その度に車を停車して撮影なぞしていたが、どれも違った。この辺りはこういう地形ができやすい場所らしい。
トレ・チーメへあと8kmだったかな、往復歩いたらヘトヘトになりそうなくらい離れた場所に入場料金支払い所があった。ここに車を停車して歩く気満々の白人カップルを見て私たちも往復16kmを歩けるのかちょっと考えてみたのだが、トレ・チーメに到着して更に1時間歩くということはプラス8kmということになる。もう少し早く出てきていればなぁとも思ったが1日に24kmは私たちとしては歩きすぎ。無理だ。20ユーロを支払って予定通り車で入ることにした。ここから道は上り坂になって辺りの風景も緑が少なく荒涼としてきた。目的地への直前では谷間から一気にヘアピンカーブで上っていく道となり、更に駐車場への上り道はうちのプジョー君はうんうん言いながらでないと上がれないくらいのきつい傾斜。最終的に私は下車して夫と車で駐車場まで上がったら行けた。馬力ないんだよねぇ、この車。
駐車場から更に高い場所に上っていく道があり、私たちはそれがトレ・チーメへの道だと思い込んで上っていったら一番高い場所にある駐車場にぶつかって行き止まり。眼下に駐車場、その先に荒涼とした風景が見渡せたので良しとするが、トレ・チーメへの道はレストハウスの高さから更に左側に続く道だとわかった。レストハウスから続く道は右側に谷底に川もが光り、左側は斜面で高い山になった道。実際に歩くと道幅が広いので全く危険な感じはしないのだが、上から見ていると巨大な斜面にできた小さな溝を歩くようで怖く見える。トレ・チーメだけ目的にきてみたらこんなにダイナミックな景色も見られてお得な感じがした。
トレ・チーメへはここから1時間歩くという事なので、私たちも人の流れに従って歩き始めた。1時間と言われたがトレ・チーメの足元にある休憩所まで30分とかからなかった。ここまでの道のりは平坦ともいえる起伏の少ない道で舗装はされていないが、平らでよく整備されていてトレ・チーメへは楽勝だと勝手に判断。休憩所のレストランから左手を見上げると煙突のように細く巨大な岩石群がありこれがトレ・チーメらしい。しかし「トレ」、つまり3本には全く見えない。人の流れを見ていると、3本に見える地点はレストランの裏手から左にまわりこんだ急な坂を上りきった場所にあるのだろうと思われ、お腹ペコペコの12時4分、更に上を目指して上り始めたのだった。
レストランの裏手から左に回りこんでから道は右手に大きく回り、もう一度ヘアピンカーブのように巨石群に向かって歩くと、結局30分くらい歩くことになる。こうしてやっぱり1時間かかって、ようやくトレ・チーメといわれる所以になった形に見える場所に到着したのだった。後半30分はずっと上りなので、最近なまっていた身体にはなかなか刺激的なハイキングになった。
額に吹き出る汗を拭きながら、心地よい疲労感で見上げるトレ・チーメはくっきりと3本に見えて成し遂げた充足感も与えてくれた(いや、そんなにおおげさなもんじゃないんですが)。
目の前には3本の巨石があり、右手には荒涼とした風景が続いている。道はここで終わっているわけではなくて、どこまでもどこまでも続いていて、入場料金を支払った場所でもらった地図によれば1日中歩き回って楽しむことができるのだった。いやー、それさえ知っていればもっと早くここに入って思いっきり歩き回ったのに。荒涼としたむき出しの岩山や、ちろちろとしか緑が生えていない斜面を見ているとボリビアの風景を思い出す。トーレス・デル・パイネやボリビアのウユニ塩湖を思い出させる、不思議に南米的なスポットが私たちの中でのトレ・チーメだった。もちろん、ここには三つ編みにシルクハットのおばちゃんも歩いていないしリャマも歩いておらず、小奇麗なハイカーばかりなので私たちの勝手な思い出リンクに過ぎない。
トレ・チーメの3本の塔のどこかにロッククライミングできるスポットがあるそうで、岩と岩の間から笑い声や人の話す声が聞こえてくるのが面白い。あの岩の中に入れるのはかなり魅力的だ。
ようやく目的地に到着したのでここで持参したサンドイッチで昼食。空気は乾燥していて日向はとても暑いが岩陰に入るとヒンヤリトして気持ちよかった。ここから最初に出発した駐車場近くのレストハウスまで巨石群の中を散策して戻ると4時間くらいかかるだろう。ちょっと時間が足りないので、それは次回の楽しみとして同じ道を戻る事にした。全く同じ道ではなく、先ほど通った道よりも少し高い場所にある道なので目線が変わって楽しい。
途中で日本人一人女性旅行の前田さんに出会ってからはますます賑やかな散策になった。彼女はヨーロッパ好きらしく、仕事の休暇を使ってはあちこちに旅行しているのだそうだ。彼女の次の目的地が私たちと同じだったので、一緒にドライブに誘って次のミズリーナ湖まで移動することにした。
トレ・チーメの駐車場からミズリーナ湖までは車でほんの10分の距離だった。
周囲には大型観光バスも停車できるような広い駐車場があり、土産物屋、レストラン、ホテルが数軒立ち並んで観光地化した場所で、湖の水は濁っている。ドロミテ西側ルートで訪れたカレッツァ湖の魅力に比べたらぜーんぜん興味が沸かない。
とはいえ、湖面に映るトレ・チーメの姿はなかなか良かったのでこれだけカメラにおさめて満足した。
前田さんは次のバスが車で湖を一周するということだったが、私たちは用事があるのでここでお別れということになった。
コルティナの町に近づいてくると、再びゴージャスな風景をバックにチロリアンな家々が見える。トレ・チーメもいいが、こちらの人の息使いが聞こえる風景もホッとしていいものだ。
こうしてコルティナの町に午後3時過ぎに到着。こんなに早く戻ったのは町で「防水シートを買う」という重要任務があったからだった。私たちの使っているレジャーテントは、下にシートを敷かずに使っていたことと、南仏、イタリアと下が砂利のキャンプ場が多かったことと、テント内で調理したりして出入りを頻繁にしたことが重なって、テント内の床がぼろぼろになってきていた。
9月に入って1度大雨にあった時、友人のカバンが濡れていて「まずいな」という危機感はあったのだが、昨夜の大雨でついにあちこちから浸水が始まった。ガムテープで穴と思われる場所をふさいでもふさいでもテント出入り口付近の床の浸水が止まらない。とうとう夫を残して私は車の中で眠ることになった。
「防水シートを買わなくては」。
これが昨夜発生した緊急課題だった。とはいえトレ・チーメは削除できない観光項目なので急ぎ足で観光して夕方買い物することにしたのだった。急いで帰ってみれば、町はシエスタで百貨店もシャッターを閉めている。ったく、人の気も知らないで・・・とムラムラとくる怒りをジェラードで沈め午後3時半のシエスタ明けを待った。
メインストリートに1軒だけある百貨店は一階、中二階、二階とあるのだが道具などが売られている中二階にも一階のスーパーの中にもそれらしき品物がない。まずいなぁと思って道具コーナーの人に聞いたら「4階のキャンプ用品コーナーにあるんじゃないかな」と言う。え?4階もあるの?
探したら密かに上にいくエスカレーターやエレベーターが見つかり、紳士服、婦人服、アウトドア用品売り場などがあることがわかった。そこのキャンプ用品売り場に行くと、目的の防水ビニールシートが見つかったので2枚購入することにした。1枚はテントの下に敷き、もう1枚は濡れそぼってしまったテント内に敷くのだ。私たちのテントはレジャー用なので内側テントを覆う外側の防水屋根が上の方にしかかかっていない。横殴りの雨が降ると内側テントにかかる雨が雫となって壁を伝い床から浸水してきてしまうので、床面だけの防水シートではなくテント全体を防水しなくてはならないのだが、とりあえず激しい雨でない限り床下の防水シートだけでしのげそうだった。
キャンプ場に戻って防水シートを上下に敷いて寝てみると、数日感じていた湿った感じも冷たい感じもなく快適。今夜は安眠できそうだ。
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