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2008.09.05
ボルツァーノ国際音楽祭フィナーレコンサート
イタリア:ボルツァーノ

 9月に入ってからというもの、夏休みが終わってしまったイタリア人の呪いなのだろうか急に天候が崩れ始めていた。ガルダ湖も突然嵐がやってきてから曇りがち。5日、ガルダ湖から更にオーストリア国境に向かって北上の移動をすると、とうとう今回のドライブ始まって以来の高速で豪雨という事態にぶちあたった。

 他の車も一気にスピードを落としてきたので高速は全体にスローダウンしていて安全な感じだが、初めての豪雨の中で夫はかなり緊張したことだろう。しかし、雨が降ってスローダウンするなんてなかなかイタリアもマナーがいいじゃないかとあらためて周囲を見回すとバカンス帰りらしいドイツ国籍の車ばかり。ああ、だからマナーがいいのねぇと納得。

 午前11時過ぎにキャンプ場に到着した時には豪雨地帯は抜けて雨がやんでいた。手早くテントを設営して簡単に昼食を済ませた。午後から少しずつ晴れ間が戻ってきたのでキャンプ場から4km離れたボルツァーノの町に行ってみると、午前中の大雨が嘘のように青空が広がった。ボルツァーノは西にアルプス、東にドロミテ山塊のある山岳地帯。町の雰囲気はもはやすっかりチロリアンになっていた。

 ボルツァーノからはアルペ・ディ・シウジを訪ねようと思っていた。ボルツァーノから西、ドロミテ山塊の中にあって周囲を高い山に囲まれてそこだけ浮き上がるように高くなった丘陵地、それがアルペ・ディ・シウジだ。観光案内所では豊富な資料をくれてシウジ行きに十分な情報を得ることができた。

 もう一つボルツァーノで気になっていたのがブソーニ国際ピアノコンクールだ。機会があったらコンクールを見てみたいと思っていたので聞いてみたところ、コンクールは終わってしまったのだが今夜かつての入賞者を招いてのフィナーレコンサートが開かれるという。チケットは市立劇場TEATRO COMUNALE (STATTEATER)で販売されていてコンサートの会場はコンツェルトハウス・オウディトリアムという別の場所になっているということだった。因みにボルツァーノの町に入ってからは道の名前や公共の建物の名称などはイタリア語とドイツ語が併記されるようになっていた。これもチロリアン文化って感じ。

 観光案内所を出た足で市立劇場に向かいチケットを購入した。どの席も一律25ユーロでコンピュータ画面を見ながら席を選べるようになっていた。ピアノだったら目の前で指の動きを見てみたいと思って係員に相談するとコンツェルトハウスのステージはそんなに高くないので一番前でも見上げることなく見られるだろうとのこと。そこで前から2列目の真ん中からやや左よりの席を購入した。

 一度キャンプ場に戻って夕食を済ませ、午後7時過ぎにコンサートに向けて出発。ボルツァーノの中心地は川を越えるのだが、川を越えて中心地にある駐車場は昼間利用したのだが1時間2.4ユーロだったかな、かなり高かった。そこで今回は川の手前の体育館の駐車場に行ってみた。周囲にいたおじさんに駐車料金について聞いてみると、午後7時半から翌朝まで駐車無料の時間帯になるという。時刻は丁度7時半を越えた所だった。いやー、ラッキーだ。おじさんは「心置きなく町で朝まで遊んできなさいよ、体育館付近は治安もいいから大丈夫だ、わっはっは」と豪快に笑って去っていった。昼間の観光案内所も、このおじさんも、キャンプ場の人たちもボルツァーノの人は皆感じがいい。素朴だけれどどこか少し垢抜けた感じもあってとても話しやすかった。

 コンサート会場はライトアップされて昼間よりかなり洒落た雰囲気に見えた。チケットを見せて中に入るとモダンなロビー、奥にはバーカウンターがある。そんなに大きなホールではないが新しくて美しい場所だった。

 お客さんは地元の年配の人が多いようだ。男性はスーツ、女性はスーツやワンピースなどが多くややフォーマルな装いの人が多いが時々カジュアルな服装の人も見られたので思いっきりアウトドアの服装の私たちはややホッとした。

 観光案内所でもらっていた冊子を見ると今日はプロコフィエフの交響曲第一番でピアノはなし、2曲目からピアノが登場する。最初のピアニストは28歳のロシア人アレクサンダー・コブリン氏。1999年と2005年にブソーニコンクールで2回第1位を獲得したらしい。この人はとても華奢で神経質そうで、白衣を着て科学者とかが似合いそうな人だが手が大きい。そして体格からは想像もつかない程の迫力のある、それでいて正確で緻密な弾き方で、会場の空気が一気に彼に弾きこまれていくような演奏だった。曲は同じくプロコフィエフ作曲のピアノ協奏曲の第3番だ。

 選んだ席はベストと言えるポジションで、鍵盤の上を恐ろしいスピードで指が動く様を息を呑んで見ていた。こんな間近でこんなレベルの高い人の演奏を聞いた、というより見たのは初めてだった。しかもプロコフィエフという人の曲は音が多くて超絶技巧の連続。知らない間に聞いている方にもぐーっと力が入って演奏が終わった時はこちらもぐったりとするくらい集中してしまった。

 ここで休憩。夫の隣の席が1つ空いていてそこに一人の男性が席を移動してきた。彼はボルツァーノの地元の人で毎年このコンクールを楽しみにしているのだそうだ。「のだめカンタービレ」でも指揮者コンクールが開かれる町でコンクールを楽しみにしている地元の人が落ち込む千秋君を励ます場面が出てきていたが、この町にもこういう人がたくさんいるんだろうなぁ。彼は「音楽やってるんですか?ピアノ?知り合いがコンクールに出たとか?」と興味津々で聞いてきた。私たちが旅行者で偶然コンクールにやってきたことを知ると、次回は是非コンクールの最中に来るといいと教えてくれた。フィナーレコンサートもいいが、コンクールは1日4ユーロの入場料で見放題。自分がいいと思った人が最終まで残るのかなど、数日に渡って楽しめるというのだ。そうそう、そういうのを期待してたんだよねー。ちょっと来るのが遅かったようだ。それでも、彼のように町のイベントを誇りに思い自らも思いっきり楽しんでいる人に出会えたのは私たちにとって面白い経験だった。ヨーロッパにはいくつものこうしたコンクールがあり、そういうイベントがまたクラシック音楽を聞く人の層を厚くしているのだろう。コンテスタントのレベルも高いしねぇ。

 休憩が終わって第二部はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。ピアニストはリリア・ジルバースタインという女性で彼女もかつての優勝者。年齢は42歳で私と同年だが彼女はもうベテランの貫禄がある。チャイコフスキーも難しそうな指の動きで技巧も体力も必要な曲だったが、小さな身体をはずませるように巧みに弾いている。先ほどの緻密で正確な弾き方のコブリン氏とは全く違ったタイプのピアニストだった。15年近い年齢の開きが音楽に深みと表情を与えているように思えるというのは私の勝手な想像かもしれないが、音楽の奏で方にも年齢が出るようだ。

 今夜は本当に楽しい夜だった。次回はもっと早くにボルツァーノ入りしてコンクールからフィナーレコンサートまでずっと楽しみたいものだ。


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