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2008.08.22
コモ湖での一日
ミラノ北部には東西にいくつかの湖が連なり、まとめて湖水地方と呼ばれている。その中の一つ、シルクの産地として有名なコモ湖は、西側海岸に映画界、スポーツ界などの著名人の別荘があることでも有名な避暑地。今日はここにドライブしてコモ湖遊覧船に乗ってみるっていう計画だ。
コモ湖は「人」という文字の形になっている湖なのだが、左下にコモという最も大きな町があり、2又に分かれる部分にあるベッラージョが湖が最も美しく見えるというので、この2つを訪れたいと思った。ところがロンリープラネットの表記を見ると、コモからベッラージョまでの道は細くて曲がりくねっていてかなりドライブテクニックが必要らしい。この1文によりベッラージョまで車で行くのは断念してコモの駐車場に車を停めて、ベッラージョには遊覧船で行くことになった。
ミラノから車で1時間でコモに到着し、少し迷って現地の人に聞いたりしながら旧市街のちょっと手前の駐車場に停めることができた。
イタリアの駐車場ってのは今まで全般的にそうだが駐車スペースが小さい。イタリア人の乗る車が小型車が多いのでそうなっているんだと思われるが、コモ湖の駐車場もスペースが小さく私たちの車は鼻先が出てしまう。これ、不安なんだよねー。仕方ないけど。
あいにくの曇り空となってしまったので町は翳ってグレーがかってはいたが、美しい建築の教会やパステルカラーの壁に彩られた街角、立派なドゥオーモなど港まで続くヴィットリオ・エマニュエーレ2世通りは想像していたよりも洒落て華やかな通りだった。もっと田舎のひなびた繁華街をイメージしていたのだが、建物は古びているもののマックスマーラの入ったブティックや高級食材店などもあり、湖の西側のVIPの期待を裏切らない程度の都会的な店が並んでいる。思ったよりもシルク専門店は少ないのはちょっと意外だった。
港に到着して遊覧船のチケット売り場で聞いてみると、コモ発でベッラージョ付近まで行って帰ってくる途中下車有効の周遊遊覧船代金とトレメッゾにあるヴィラ・カルロッタの入場料金が含まれたチケットが一人21ユーロ。バラで買うよりもこれがお徳なので、このチケットを購入することにした。10時半発が出てしまったばかりで次は12時。もうちょっと早く来ればよかった。
チケットを買って販売所を出ると、外が何やら騒がしい。一人旅行お嬢様中国人が湖にクレジットを落とされてしまったのだそうだ。薄く見えてはいるのだが、落としたクレジットカードが複数枚あるようで拾いきれない。一生懸命に網ですくおうとしているイタリア人に向かって、お嬢様は時計を指差しながら「早くしないと船が出ちゃうの、早く、早く」とせかしている。いやー、ものすごいお嬢様っぷりだ。落としたのは彼女の過失であって恐縮しさえすれ、せかす立場にはないはずなのに。一体、どーやったらクレジットカードだけ都合よく落ちるのだろうか。
このやっかいなお嬢様の後ろからついていったら、さぞや面白い観察記ができるだろーなーと思いつつも、その場を離れた。
時間があるので観光案内所で更なる情報収集。ここの観光案内所の人は英語もすばらしくよく話せるし、詳しい地図も用意してくれていてなかなか良かった。コモ湖沿岸の町には昔の貴族の館であるヴィッラがいくつもあり公開されて中を見学することができるものもある。好みのヴィッラを訪ねながらコモ個を遊覧するのが一般的な観光だと言われ、まさに私たちが行おうとしていることだったので、よい確認にもなった。
12時近くなったので港に戻る。船はなかなか大きな遊覧船で、曇天にもかかわらず多くの乗客が乗り込んでいた。
まず私たちはベッラージョまで向かうことにした。主に左側の岸辺に途中停車しながらベッラージョまでは約2時間の遊覧。道中の港では多くの人が乗り降りして驚いた。コモにも観光客はいるのだが、どちらかというとヨーロピアンはこうした途中の港町に逗留してバカンスを楽しんでいるみたい。どの町も教会があって後ろの切り立つような山の斜面に可愛らしい家が並んでいるのは和む風景だ。後から調べたらこの沿岸には多くのキャンプ場もあるようだ。次回はコモ湖沿岸でキャンプもいいかもしれないなぁ。
アルプス的な風景。ここからは豪華なヴィッラが並ぶとは
思えない。 |
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途中の港からは大勢の観光客が乗り込む。 |
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全員一致で気に入ったヴィラ |
これも手頃な大きさでいい。ってだんだん持ち主気分になる。 |
裏山の流れるような壮大な断層が面白い風景。 |
トレメッゾにある高級ホテル。 |
トレメッゾのヴィラ・カルロッタ |
半分を過ぎた頃からはちらほらと別荘と思われる豪勢なお屋敷がいくつか見られるようになった。友人も含めて私たち4人は自分だったらどのヴィラが好みかなんていう空想話にふけりながら遊覧船の旅を楽しむ。
中でも私たち全員が気に入ったのは湖の中ほどに孤島のような場所に建つヴィラ。後で知ったのだがここも内部を見学できるようだった。高台に建つヴィラから緩やかに流れるように階段が湖まで落ちて庭園となっている。その後ろに2つの塔を備えたヴィラがあり、緑、赤、黄色がグラデーションになるツタが壁をはっていた。斜めの土地の特性を活かして、どの角度から見ても優雅で優美で女性的に美しいヴィラだった。
ここからトレメッゾに立ち寄って、船は午後2時近くにベッラージオに到着した。ここにも見学できるヴィラがあるのだが、午後6時にはコモを出発してミラノに向かいたい私たちにとって、観光案内所でもらった船の運行スケジュールを見るとそんなに長居もできない。町中をざっくり見て、湖が二股にわかれる部分を見学するのみにした。
ベッラージオは港から階段でどんどんと高台にあがる町の構造になっている。両脇に迫る壁はどれも山吹色に統一されていて、壁から可愛い街灯出ていたり、足元に夏の花が鉢に入って置いてあったりしてとても可愛らしい。途中で左右に入る小道も雰囲気がよくて、南仏コートダジュールで訪れた鷹ノ巣村を思い出した。
階段を上がりきった所から左右に道が分かれて店やホテルやレストランが並んでいる。ここを左手に進んでいくと教会のある広場になった。もっと進むと湖が二股に分かれている部分にあたるはずだと進んでいくとやがて目の前に広く湖の開ける場所になった。残念ながら高台から見るわけではないので二股に分かれた部分が一枚の写真におさめられるわけではないのだが、自分の立っている場所から湖が右と左にわかれていっているのはわかる。
ここには緑の芝生が敷かれた公園があって、芝生の上やベンチで寛ぐ人々の姿が見られた。また、勇敢にも湖で泳いだ後甲羅干ししている半裸の男性もいた。「勇敢にも」というのはコモ湖はアルプスを控えて水温は冷たいと言われている湖だからだ。話は飛ぶが、南米アルゼンチンにバリローチェという町がある。ここも数多くの湖水がある場所で、町は雪が多いので角度の高い斜めの屋根のシャレー風でスイスのようなたたずまいであると同時に町のテイストは移民によるイタリア風になっている。どうもイタリア人というと「湖水好き」という私の感覚はコモ湖とバリローチェから来ている。もっともバリローチェの湖水の方が水の透明度、周囲の自然の美しさで遥かにコモ湖に勝っていると思うが、セレブ話好きな人にとってはコモ湖が一番だろう。
可愛い街角で写真を撮ったり、素朴なお菓子屋さんのショーウィンドーを見たりしているうちにあっという間に時間が去っていく。
おお、そろそろ港に戻らなくては。
別の坂道を下って港に向かう。ベッラージオは上段と下段のメインロードをつなぐ坂道がいくつかあるようで、別の道もまた店が立ち並んで面白い風景になっていた。
ここからトレメッゾにあるヴィラ・カルロッタまで戻るのには2つの方法がある。1つは私たちが乗って来たコモまで戻る定期船に乗る方法と、もう一つはベッラージオとトレメッゾを往復するだけの短距離の定期船。観光案内所でもらった遊覧船の運行表はこうしたいくつかの種類の定期船全ての時刻が掲載されているのだが、地名に不案内な私たちにとってはわかりにくい。あらかじめ、観光案内所で今日の希望コースをつげて、候補となる定期船の時間帯に丸をつけてもらっていたので迷うことなく短距離の定期船でトレメッゾに戻ることができた。
正確にはトレメッゾの町の手前にトレメッゾ・カルロッタというヴィラの近くの港で下車する。ここで降りるとヴィラは目の前だ。
素敵に手入れされた庭園とその後ろにヴィラがどーんと立っている。遊覧船のチケットを一緒になった入場券を入り口で見せて内部に入ることができる。このヴィラは建物内部もさることながら庭園が広い。とても全部まわることができなかったが、上へ下へと斜面を利用しながら遊歩道が続く庭園の散策は、ずっと船に乗っていたのでとても快適だ。庭園は今でも進化を続けているそうで新しく作られた日本庭園は竹が配されて日本風にアレンジされているが、どこか西洋人が見た日本という感じで私たちから見ると即座に本物ではないことがわかるのが逆に面白い。日本にある「西洋風」というもの全てに対してヨーロピアンは違和感とともに面白みを感じていることだろう。
邸宅内は撮影禁止だったので掲載できないが、この館が建てられた当時の家具調度品の展示などがされていて、なかなか面白い。一番上の階のバルコニーからは前庭とその前の湖の様子が一望できる。船で来たお友達をテラスから見つけて手を振って迎えることもできるってわけだ。
こうしてヴィラを見学してから、右手方向のトレメッゾの町まで徒歩で戻った。
途中には高級ホテルグランド・ホテル・トレメッゾがある。湖に突き出したプールがあり、「地球の歩き方」最新版によると湖側のお部屋は475ユーロ。笑ってしまうような値段である。あまり美しくもない湖面にプールが突き出すだけで、そんなに値段が張るのかという実際的なコストパフォーマンスではなく、ここに集まる顧客の顔ぶれに対するセレブリティー値段なわけで、そういう事に対して価値を認められない私たちには無縁のホテルだ。
予定では私たちの持っているチケットに数ユーロ追加料金を支払って特急定期便に乗って帰るはずだった。ところが思いのほかヴィラの見学にかける時間が短かったために、乗れないと思っていた時間の定期船に乗れてしまったので、追加料金なし。
これに乗っても特急定期便よりは早くコモに到着することができる。
午後6時過ぎにコモに到着して、駐車代金12.85ユーロを支払ってミラノに帰る。
コモ湖は天気もあまり芳しくなかったせいで、今一つぱっとしない観光だった。ミラノから1日で行くというのに無理がある気がする。コモ湖湖畔に滞在して、今日はあっちの町、明日はこっちのヴィラというように午前中くらいに一つ観光して午後からは湖畔でゆっくりと読書したり町を散策したりするのがコモ湖に似合った観光なのではないだろうか。なんたって、ここは保養の町なのだから。
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