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2011.07.05
エペルネーへ日帰りシャンパン旅行
シャンパーニュ地方の名を世界にとどろかせているのは、もちろんシャンパン。ここで作られる発泡ワインのみがシャンパンを名乗る事ができる。中でもドン・ペリニョンといったら映画の中や日本のドラマのホストクラブでのシーンにまで出てくるほど知名度が高い。そのドン・ペリが作られている町、エペルネーを訪ねるために私たちはシャロン・アン・シャンパーニュという町の郊外にあるキャンプ場にやってきたのだった。
本当はエペルネーにキャンプしたかったのだが、手持ちのキャンピングガイドブックにはエペルネーのキャンプ地がない。一番近いのがシャロン・アン・シャンパーニュだった。ガイドブックによれば、エペルネーは高級シャンパンメーカーが軒を連ねる町でそのドメーヌは大富豪ばかり。そのためか住民の平均所得額が全仏で一番高いのだそうだ。そんな町だし、シャンパンという高級飲料のイメージもあるから、キャンプ場なんていうフランスじゃぁアウトドアというか格安宿泊施設のくくりになる宿泊施設は作りたくないのだろうかと勝手に想像力が働いた。
シャロン・アン・シャンパーニュのキャンプ場からバスに乗って16分でSNCF(フランス鉄道公社)の駅まで行き、そこから列車で16分でエペルネーに到着した。同じ時間の乗車なのにバスは一人1ユーロ、列車は6.1ユーロ。SNCFは高い。
手持ちのガイドブックに地図がないので、一体どちらに向かって歩きだしたらいいのかわからなかったが、スーツ姿のビジネスマンらしき白人男性に尋ねたら、駅を背にまっすぐ歩いてロータリーを左手「シャンパン大通り」に入れば、シャンパンメーカーが軒を連ねていると教えてくれた。「シャンパン大通り」って「○○銀座」みたいな町内会的な名前にちょっとクスッときた。
まずはシャンパン大通りに入ってすぐ右手に見つかった観光案内所で情報収集だ。ここではとても見やすくて上質な紙を使った無料の地図をくれた。私でも名前を聞いたことのある数メーカーの他にも知らないメーカーがたくさんある。案内所では超有名、有名、小規模だけれど良質なメーカーの3分類でお勧めのカーヴを教えてくれた。
どのカーヴでも見学は試飲付きだが、ワインカーヴと違って試飲は1種類のみが多い。数種類のシャンパンを飲み比べたいなら複数のカーヴ見学をするか、ワインセラーを持っているワインバーで数種類注文して飲み比べるという方法になるだろうとのことだった。
観光案内所内では決め手に欠けるので、実際に近くにあるモエ・エ・シャンドンに行って考えようってなことになった。
敷地内に入ってすぐに目に入るのがドン・ペリニョン修道士の銅像。ひっきりなしに観光客が記念撮影する超人気者だ。
建物内部はカーヴツアーの受付カウンター兼待合ロビーとシャンパンショップにわかれている。シャンパンショップには、それこそめくるめくモエ・エ・シャンドン商品がこれでもか、これでもかと陳列されていて圧巻だった。だいたい、モエ・エ・シャンドンなんてスーパーのワインコーナーに2種類も置いてあるくらいの物だという感覚だから、このショップにはなかなか興奮した。あら、私ってミーハーだったのかしら?いや、モエ・エ・シャンドンには人をそういう気にさせる雰囲気があるのだ。
壁面には従来のオーソドックスなタイプのシャンパンが飾られ、中央のテーブルには華やかなイメージで新発売の製品がイメージフォトなどと一緒に陳列されている。一番奥には
最高級ラインのドン・ペリニョンシリーズが並び、中でも触れることのできないガラスケースに鎮座しているピンク色のドン・ペリニョンには730ユーロの値札が付いていた。
この世界はもう香水やブランド品と同じ扱いの匂いがプンプンしていた。扇情的なコマーシャリズムを取り去った本質部分での価値を追求することがコストパフォーマンスを極めることならば、もはやここでお買いものする事は無理なんだなぁ。しかし、世界のモエ・エ・シャンドン。うーむ。せっかくエペルネーまで足を運んだなら一本くらいは買ってみたい。ショップをぐるぐると回りながら葛藤していた。
いやー、ちょっと見に来ただけなのに人をここまで簡単にその気にさせるなんて・・・。
本来の目的はここのカーヴ見学の下見だった事を思い出し、やっとショップの魔宮から逃れることができた。
さて、モエ・エ・シャンドンのカーヴ見学と試飲のツアーは3種類ある。通常シャンパン1種類の試飲が15ユーロ、2種類が22ユーロ、ヴィンテージ・シャンパン2種類の試飲が28ユーロ。ワイナリーツアーなぞに比べると3倍くらいする感じだ。
どうしようかと我々が相談していたら、スタッフが「本日は午後2時45分より日本人スタッフのガイドによるツアーがございます」と言うではないか。日本語で解説してくれるのはありがたい。ここでかなり心が傾いた。結局、公園でお昼ご飯のサンドイッチをかじりながら協議した結果、やはりモエ・エ・シャンドンでのツアーに参加しようということになり、カウンターで申込と料金の支払いを行った。
モエ・エ・シャンドンのスタッフには「それではツアーまでのお時間、ごゆるりとレストランでお食事などお楽しみください。何かございましたら、この名刺の場所までお電話くださいませ」と言われた。いやー、対応がラグジュアスっていいなぁ。しかし、もう公園でご飯食べちゃったわけだし、こうなったら事前にもう一軒、デグスタシオンしちゃおうか。そんな話になり、紹介された小さめのカーヴを訪ねた。随分と静まり返っていると思ったら午前11時半から午後1時半までのシエスタに入ってしまっていた。こちらでのカーヴ見学料金は試飲1種類付きで6ユーロ、2種類付きで8.5ユーロとモエ・エ・シャンドンと比べるとかなりリーズナブルだった。しかし閉まっていてはどうしようもない。恐らく、他のメーカーも同じようにシエスタだろうと考え、駅からの道中でみかけたシャンパンバーに行くことにした。
ワインバーじゃなくてシャンパンバーというのがいかにもエペルネーらしい。通りに面した明るい店内にはバーカウンターと奥に椅子とテーブルの席があり、店内の左右端の階段から地下のカーヴに下りていけるようになっていた。
地下にはエペルネー近郊の小規模ドメーヌごとに商品が陳列されていてその持ち主たちの写真も展示されていた。作り手の顔が見え、何かで賞を取っている場合にはボトルネックに賞の名前が書かれている。各シャンパンには使われているブドウの種類と配合が書かれていた。そういうのを手掛かりに自分の気に入ったシャンパンを探して買える、あるいは試飲できるというのが、ここのお店だった。
家族で写真を写している人、一人だけの人、男性2人あるいは女性2人の場合、超年の差カップル。ドメーヌの持ち主の写真だけからも様々な人間模様が想像できて面白い。更に賞の受賞年がより最近の物からピックアップして、試飲したいシャンパンを決めるまで1時間も遊ばせてもらった。
この間、セラーを訪れる他のお客さんもなかなか愉快だった。事業で成功したのか「俺は金には糸目をつけないが、シャンパンの事はさっぱりわからん」と言う感じの男性は、お店のスタッフの女性を引き連れてここにやってきて、「さぁ、一番おいしいやつから3番目まで持ってきてくれ!」と言う。スタッフの女性が「おいしい、という一様な価値観では順位は付けられない。人の好みもあるし・・・」と言うと、「じゃぁ、あんたの好みの一番から三番まで!」と言ってスタッフを困らせていた。
地下から地上階に戻ってきて、バーカウンターで試飲したいというと、試飲メニューを見せてくれた。下に陳列してあるドメーヌから6種類選ばれていて、一杯100ccで5.5ユーロ、140ccで6.5ユーロ、1本で36.5ユーロ、1.5リットル入り1本で75ユーロ。
まずは、Pinot Meunierというブドウ70%、シャルドネ30%のChampagne Brut Carte
d'Orと、Chardonnay とPinot Noir とPinot meunierが3分の1ずつ、あとシャンパーニュ地方で作られた赤ワインが15%入ったChampagne
Brut Rose Premier Cruの2種類を試飲。結構、あっという間に飲めちゃったので、更にもう一種類ColinというドメーヌのChampagne
Brut Blanc de Blancs Premier Cru(これは100%シャルドネ)を試飲した。
最後のシャルドネは100ccを3つのグラスにわけて注いでほしいとリクエストしたら、やってくれた。相手をしてくれた女性はアメリカ人。シャンパンの勉強のために、ここに来ているんだそうだ。シャンパンは違いを認識するのが難しかった。しかも発泡しているのでやたらに酔いがまわるのが早い。こんな事ではモエ・エ・シャンドンにのぞめない!そう考えて、私たちは町を散策して酔いをさますことにした。
散策といっても、エペルネーの町の観光はあのシャンパン大通り近辺のワインメーカーのみなので、その他の場所は驚くほどに何もない町だった。
それでも、カラッと晴れた町を歩くのは気持ちいい。さっきクラーッとまわっていた頭もだんだんとスッキリしてきたのだった。
いよいよ、本日のメインイベントとも言えるモエ・エ・シャンドンのカーヴ見学スタート。まずは創業者の居室だった場所の説明から、創業のエピソードから現在に渡る会社の歴史を説明してもらった。モエ・エ・シャンドンが社交界に人気を博していったのは、マリー・アントワネットやポンパドール夫人などの社交界の花形スターにひいきにしてもらったからだというエピソードがあった。そう言えば、ソフィー・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」でもシャンパンがぶ飲みしている場面があったなぁ。
現在のモエ・エ・シャンドンは高級ブランドを取り扱うLVMHというフランスのコングロマリットの傘下にあるそうで、他にもルイヴィトンの洋服やディオールの香水などきらびやかな名前が並ぶ中にある。ああ、それであのショップの雰囲気なのかと納得がいくのだった。
いよいよカーヴに入るという時になったらガイドさんが素敵な、しかし真冬用のマントを羽織ったのには驚いたが、確かにカーヴはかなり気温が低く感じられてユニクロの薄手のダウンを半袖シャツの上から羽織って丁度いいくらいだった。低い天井、薄暗い照明、湿ったかびの臭い。こうした条件の中でシャンパンが育っていくのが肌で感じられる。モエ・エ・シャンドンの創業者3代目がナポレオンと交流のあったことから、ナポレオン寄贈の醸造樽もあり歴史を感じさせた。
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ナポレオンが寄贈した樽 |
カーヴごとの小さな黒板に暗号のような商品番号が書いてある。 |
そして、いよいよ試飲。日本人スタッフの女性が優雅な手つきで注いでくれるシャンパンはナポレオンとの友好関係から名づけられた「インペリアル」。
本日4種類目となるインペリアルは今までで一番花のような香りがして華やかだった。マーケティングの技もさることながら、この華やかさと飲みやすさが人気の一端を担っているのだろう。PRの女性に聞いたら、和食、特に天ぷらなどに合わせてもおいしいでしょうという事だった。モエ・エ・シャンドンで天ぷら。なんだかゴージャスな話です。
ツアーが終了してからもう一度、あのめくるめくショップに足を運んで今度は買う気でもう一度じっくりと品定めを行った。今日シャンパンバーで3種類、そしてここで1種類試飲したものは確かにおいしかったが、これぞ本場シャンパーニュのシャンパンとおどろく程の味ではなかった。
やはりここまで来たら驚きを感じたい。そう思い始めて手に取ったのがグラン・ヴィンテージGrand
Vintageと呼ばれるシリーズの2002年もの。モエ・エ・シャンドンでは各年のブドウの出来不出来による品質のばらつきを防ぐ意味で3年分をブレンドして、より均一な品質を保とうとしている。しかし、グラン・ヴィンテージは出来の良い年のブドウだけを使って通常よりも長く醸造する過程をとっているそうだ。出来が悪い年は作らない事にしているので毎年出るわけではないそうだ。
ということで2002年のグラン・ヴィンテージを購入。43ユーロだった。
テントの中で燦然と輝く箱入りシャンパンはいかにも不釣り合いな存在で笑ってしまう。さーて、こいつをいつ開けるか、どんな料理で楽しむか。じっくりと過程を楽しみながら飲む事にしよう!
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