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2011.06.21 Vol.2
フェット・ド・ラ・ムジークでレディ・ファーストについて考える
フランス:モンティニー・シュル・アルマソン

 フランスでは年に一度、夏至(6月21日)に、市町村主催で全国各地で無料の音楽コンサートを楽しめる「音楽のお祭りFete de la Musique」が行われている。私達が滞在している村はあまりに規模が小さくて何のイベントもないが、車で20分ほど離れたスミュール・アン・オーゾワで音楽イベントが行われるという。

 私たちは以前にパリでこの祭りを体験した事があり、大変に面白かったので是非行こうと思っていた。幸いにも車を持っているので交通手段には困らない。この話をイギリス人のベンにすると彼も一緒に行こうという話になった。他にも3人ウーファーがいるので興味があるかどうか聞いたところ、アメリカ人のダンは行くといい、他のアメリカ人女性2人は興味がないという。車の定員は5名なので4名なら丁度いい。

 当日は私と夫はアンドレ氏の友人の手伝いで他の場所に出張に出ていた。午後4時頃にアンドレ氏の家に戻ると、アメリカ人女性二人がせっせと夕飯の支度をしていて、「これを持ってみんなで音楽祭に行って、ピクニックをしながら音楽を楽しむことにしたの」とおっしゃる。会場までどうやって行くつもりだろうか?私たちに交通を頼むでもなく、料理を終えた彼女たちは身支度をしてくると言って、さっさと自分達のキャラバンに戻っていってしまった。

 そこに、肉体労働を終えて腹を空かせたベンとダンが登場。「いっやー、旨そうな匂いだなぁ」と言う彼らに「これは会場に持って行ってピクニックしながら食べたいって言ってたわよ」と伝えたのだが、「いやいや、彼女たちは持って行けばいいけど自分達は今食べたい。食べてしまおう」とテーブルセッティングを始め、食べ始めた。

 なるほどねぇ。西洋人ってのは空気読むとか配慮するとかってことをしない事に別に罪悪感もないし、気付きもしない。これは面白いなぁ。どうなるかと思って見ていたら、案の定女子は予定外の行動を取った男子をなじったが、男子もちゃらっと「だって、お腹空いてたから」で会話終了。別に後にしこりも残すことなく言いたい事を言いあって事態は収束したのだった。

 そこで私達も彼らにならって、「うちの車は5人までしか乗れないから、後から参加してきた女子2人のうちの1人しか乗せてあげられないわよ。もう一人はアンドレ氏に車を出してもらうように頼むか、自転車があるから自転車で来たらどうかしら?」と言ってみた。すると騎士道精神のある男子二人は、それなら僕たちが自転車で行くことにしようかと言い始める。そんなバカな。昨日の時点で興味がないといっていたのは彼女たちなのに、どうしてそこまでしてあげる必要があるのだろうか。西欧の男性は女を持ちあげるとは思っていたが、ここまで理由なく持ち上げるとは思っていなかったので驚いた。男子が可愛そうになってきたので、本当は違法だが後部座席に4人座って途中まで行き、警察が出ていそうな町に近づいた所から二人は降りて後に合流するという作戦で話がまとまった。

 二人が降りてここから町まで徒歩で1時間弱という地点まで到着。当然歩くのは女子であるべきだが、ここも騎士道精神で男子が降りて歩くことになった。ま、本人達が納得しているのならいいけど、御苦労な話だ。

 私達と女子二人は町の観光案内所に到着し、男子二人が来るのを待つ事になった。しかし女子二人は20分程経過して彼らが来ないとなると、「時間がもったいないので自分達は町を見て回ってきたいのでいいだろうか」と言い始める。ここに至って身勝手もいい加減にしろと腹が立ってきて、「私が待つのは構わないが男性は君たちの身代わりでここまで歩いてきているのだから待つのが礼儀だろう」というと、「じゃぁ、一体何時に来るのか?」と私に食ってかかってきた。私が知るわけないじゃないですか。結局、彼女がモバイルで男性たちと連絡を取り合うのでここで待つ必要はなくなり、午後9時から教会前でイベントが行われるようなので、そこで落ち合うことにして彼女たちと別れたのだった。モバイルで連絡を取れるのなら、最初からそう提案してくれればいいのに、それもこちらから言わないとしないという彼女たちだった。

 一年で一番昼が長い夏至。午後8時を過ぎてもまだ夕方という感じだ。その頃からやっと、そこここで音楽が鳴り始めた。最初に出会ったのは観光案内所前のパンクロックな兄さんたち。次はレストラン前の仮設ステージ、ここはまだ準備中で何をやるかわからない。裏通りの石畳では女子高生バンドがコンサートを始めていた。でも、前回パリで見た時のようにプロフェッショナルの音楽チームがおらず、どう見てもアマチュアバンドばかり。スミュール・アン・オーゾワはこんな風なんだろうか。

パンクロックのお兄さん

教会前のママさんダンサーズ

ママさんダンサーズの観客たち

裏通りのロック女子高生

なぜかちょっと遠巻きにされている中年バンド

 そうこうするうちに、待ち合わせの午後9時となった。教会前では相変わらずアマチュア市民ダンスグループの発表会が続いている。

 他のウーファー4人もやってきて全員でダンスを見ることになった。

 見ているとアマチュアとはいえ、そのファンタジックな創作内容がいかにもフランス的で面白い。一体誰がこんな振付を考えるのだろうか。そして、市民ダンサーがこれまた本気でその気になって顔の表情まで作りこんで踊っているのが、全くこの国の国民のパワーを感じさせた。
 

 ダンサーの次に登場したのが中年男性が率いるバンド。セミプロレベルになってきたという感じでなかなかいい声で歌っている。

 時刻が10時になろうとした頃、ようやく日が落ちてきて町が夜に包まれ始めようとしていた。この様子ではとっぷりと日が落ちてからプロが出現してくるかもしれないので、もう少し様子をみた方がいいようだった。

 ところが、この時点で件のお嬢様二人が「これからどうするつもりか」と尋ねてきた。多分これから盛り上がるからもう少しここに残ると言うと、「あなた方は私たちを家まで連れて帰りたいか?」Do you want to take us to home?と聞いてくる。実は、今日の午後からずーーーーっと気になっていたのだが、彼女たちは私たちに何かを頼む場合に「あなた方は〜〜したいのか?」という質問方式でくるのが、どうしても引っかかっていた。私が知る限りでは、こういう場合「Could you〜」という構文で人に物を頼むはずなのに、頼む先にそれを望むか?と聞くのはとても不遜な感じを受けていた。それでも、私の知らないネイティブの英語の感覚があるのだろうと聞き流していたのだが、言葉のみならず彼女たちの振る舞いにムカムカとしてきたので、ついに私は「あんたたちを連れて帰ることは全く”望んでいません”。でも、あなた達が”お願いする”なら連れて帰ってもいい」と答えたのだった。

 こう言われてどんな反応を示すかと思ったら、怒るんですねぇ、やっぱり。いやー、英語は難しい。一体、どうい言えばよかったのか、わからずじまいで終わってしまった。プイっと怒ってしまった彼女たちはモバイルでアンドレ氏に連絡して迎えに来てもらうことにしたらしい。で、彼女たちがベン君とダン君の二人の騎士たちに「アンドレ氏が30分後に来るから(一緒に帰りましょう)」と伝えると、騎士たちは顔を見合わせて「僕たちはアキコたちと一緒にもう少し見ていくよ」と答えた。そんなら好きにしなさい、とばかりにプイっと踵を返して去っていく彼女たちを私たちはバイバイと手を振って見送ったのだった。レディー・ファーストの文化というのは女性たちの望みをかなえてあげるのと、自分の欲求を満たすののバランスが難しいようだ。今日は、リアルタイムにレディー・ファーストの現場を見させてもらえて、音楽もさることながら西洋文化観察のとってもいい機会になったのだった。

 それにしても、彼女たちはどうしてああ居丈高なんだろうか。女子大生というのは日本でも無意味に自信過剰で鼻持ちならない人もいるが、今回の彼女たちの振る舞いを見ているとレディー・ファースト文化がそれに拍車をかけているように思われた。もっとも、最初のウーファーで知り合ったアメリカ人女性はとても気遣いをする人だったので、社会に出てもまれると大分変ってくるだろうし、個人差も大きい話だから一概には言えないが。

 さて、ようやく暗くなった町では急にレベルの高いバンドの演奏が花盛りになってきた。まずは路上で感じのいい声の女性ボーカルのいるジャズバンド。次に教会前でアフリカの太鼓ジャンべを使ったパフォーマンスを見学した。ジャンべを使ってはいるが、演奏されているのは今年キューバで聞いてきたばかりのルンバのワワンコーというジャンルの曲などだった。数ヵ月前にキューバでキューバ人によるワワンコーを聞いて、ここでフランス人によるワワンコー。不思議な偶然が面白かった。
 

 午後11時。ようやく音楽を堪能した気分になったので帰ることにしたが、道中のバーでは夜はこれから始まったばかりとでもいうように、華やかな音楽と照明が渦巻いていた。

 調べたら日本でも夏至を前後に、フランスと同じく「音楽の祭典」が行われているそうだ。これが日本でももっと広まるといいな。


 
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