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2008.08.13
モナコ公国に日帰り旅行
モナコ公国というのはフランスに囲まれた小さな国でありながら、様々な話題を振りまいている国として漠然と行ってみたいと思っていたが、実際にどんな所かとガイドブックを読んでみると、「高級カジノ、高級ホテル、高級エステ」「優雅でワンランク上のリゾート」などと今の私たちのつつましいキャンピング生活にそぐわないことばかり書かれていて、もしかしてカンヌみたいな所だろうかとやや不安になってきた。楽しめるんだろうか?
それでもここまで来たら行こうと予定していたのだが、エズの観光案内所でキャンプ地から一番近い大型スーパーがモナコのカルフールである事を知って、俄然、行く気になってきたのだった。モナコ公国の観光はカルフールでの食材調達と大公宮殿の衛兵交代、グランカジノの外からの見学の3点に絞って観光することにした。
エズからモナコ公国までは車で30分という近さ。本当ならカルフールの真下にある駐車場に停めたかったのだがちょっと道が複雑で、大型観光バスも駐車する大公宮殿のある旧市街、モナコ・ヴィルという観光のメッカともいうべき場所の駐車場に駐車することになった。
車を停めて地上に上がると、世界中からの観光客が大型バスからどんどん降りてくる。公衆トイレでは各国語が飛び交い、特に東欧方面から来たと思われる背の低いコロコロと太ったおばちゃん集団がおばちゃん丸出しに会話しているのが言葉がわからなくとも感じられて面白かった。
駐車場のある場所はよくモナコ公国のポスターや絵葉書に使われる海からニョキッと立ち上がった岩山の部分。外に出ると立ち上がった岩山の真ん中くらいの高さに遊歩道がつけられて港に回りこんでいる。最初にまずここを見学してみようと港まで歩いていってみた。
岩山にぶちあたる海の水はエメラルドグリーンでとても美しいが、波が荒いので水泳は「自己責任で行ってくれ」という注意書きがあり誰も泳いでいる人はいなかった。モナコ公国の公営海水浴場はもっと西側の防波堤で囲われた部分にあるので、そちらがポピュラーなビーチなのだろう。
周りこんで現れた港には豪華なフェリーや客船が停泊し、その後ろにはベルエポック華やかなりし頃の面影を残した建物と近代建築の入り混じる賑やかなモンテカルロ地区が見えていた。おお、こんな風景もテレビなどで見たことがあるある。ここがモナコ公国なのねぇ。
港の遊歩道にはグレース后妃が到着した時の模様を伝えるモノクロの写真が掲示されていて、当時の地元の人が大勢集まって后妃到着を歓迎している様子がよく出ていた。1956年の事で私たちもまだ生まれていないが、親たちが「あれは世紀の結婚と言われた」などと言っているのを聞いたことがあり、親たちの世代にとってはライブなニュースだったことだろう。その世代の人がここを訪れたら、私たちが感じたのとはまた別の灌漑をもってこの写真に目を向けるだろうなぁと思われた。
港から公園に上っていく階段を上がり、大公宮殿のある高さと同じ場所までやってきてから宮殿に向かって歩き始めた。どこもかしこも整然と美しく整えられてこの国は本当に美しいと思える道。公園の樹木は美しく剪定されていて、ゴミ一つ落ちていない。
海際の立派な建物は海洋博物館だそうで、ここにもグレース后妃が訪れた時の記念写真が掲載されていた。どうやらモナコはこうした写真を至る所に掲示してグレース后妃の香りを町中に振りまく作戦らしい。確かに単に立派な博物館を見せられるよりも、そこに美しい后妃の写真を置くことでずっと血の通った観光スポットに感じられるために、この作戦はかなり功を奏していると思われた。
大公宮殿に到着したものの、衛兵交代の11時55分までには1時間ほど時間がある。この間に大公宮殿のある高台から下に降りた場所のショッピングモール内にあるカルフールにお昼ご飯の調達をしに行くことにした。宮殿の坂道をだらだらと降りて公道に出ると、岩山をくり貫いたエレベーターがあってそこからさらに下のレベルに行くことができるようになっている。エレベーターはショッピングモール内に到着し岩山をくり貫いたむき出しの岩がカラフルに照らされるトンネルを抜けてモールに入るというアプローチが面白い。
ここのカルフールは私たちが十分に満足できる品揃えで、エズでのまともな食生活に十分な食材が調達できそうだった。やったー!最初の目的は達成できそうだ。食材の買い物は後に再び来ることにして、今はお昼ご飯のサンドイッチの買出しのみ。
宮殿に戻ると11時半で既に衛兵交代の道には鎖がつけられて、それを取り囲むように観光客がびっしりと並んでいた。私たちも3列目くらいについて交代時間が来るのを待つ。やがて勤務していた衛兵が出てきて、次に交代要員の新しい衛兵がやってきて、交代の儀式が始まった。イギリスの宮殿の衛兵交代が一番有名だと思うが、あの冷たいロンドンの空気の中で行われる交代に比べると、ちょっとユルイ。衛兵の動きもロンドンほどにはぴっちり揃っていないところがご愛嬌。観光客の数はロンドンの衛兵交代に負けないくらい多いのだが、その割にしみじみと小規模で行っているなぁというのがモナコっぽくてほのぼのしていた。
12時には交代が終了して観光客が三々五々に散って行く中、私たちはすぐそこの木陰のベンチに陣取ってサンドイッチで昼食だ。時間も丁度昼時。道行く人は「おお、私の分までありがとう」とおどけて近寄ってきたり、「ボナペティー」と声をかけてきたりと皆とても明るい雰囲気だった。はじけるような強い夏のひざしとモナコのすがすがしい美しさが人々を開放的にしているようだった。
宮殿の左側は持ち上がった崖の端になっていて、眼下にはヨットハーバーと昔ながらの屋根の色を踏襲したレンガ色のマンションが立ち並ぶ新市街になっていた。後から写真をみなおすと、ここからのハーバーの景色はとても絵になる写真になっていた。気持ちの良い海沿いのマンション、カルフールも近いしいうことはない。いくらぐらいで借りられるんでしょうかねぇ?
そういえば、日本人でも有名スポーツ選手などはモナコに在住していると聞く。モナコがタックスヘイブンなことに由来しているのだろうが、こういう場所に住所を置いてヨットを持つということが著名人のステータスになっているという理由もあるからだろう。と考えると、新市街のマンションも高そうだなぁ。
宮殿前の広場の右側には細い路地が数本走っていて、土産物屋やレストランが並んでいる。食べているのはムール貝の酒蒸しとフライドポテトのセットが多くて、続いてピザ。モナコ料理というのがあるのかどうかはこのレストラン街からは定かではなかった。
ここは今までの整然とした表通りに比べると下町の雰囲気が漂う小道なのだが、ここにもグレース后妃の写真があり、宮殿からお子さんの手を引いて学校に行く姿だった。こうやって毎日(?かどうかはわからないが)后妃の姿が拝めるなんて平和な国だ。また、直接目にするからこそ親近感が沸くというのもあっただろう。しかし、この写真のグレース后妃はカッコいいねぇ。品の良さというのは時代を超越して感じられるものなんですね。
で、今のこの小道の姿も撮っておこうとカメラを向けると、地元の若い女性が妙に意識してポーズを取っている。私たちを東洋から来たプレスか何かと勘違いしているらしく、傍らのボーイフレンドに「写されちゃったー!」と大げさに報告していた。いやいや、プロのカメラマンがこんなデジカメで撮らないって。
私たちの観光目的も残すところあと一つ。モンテカルロという地区にあるグランカジノだ。宮殿のある地区からバスでモンテカルロのカジノ前まで移動してみると、美しく刈り込まれたフランス式庭園を取り囲むようにベルエポックの建物が並んでいる。その一つがグランカジノ。そして右側に最高級ホテルのオテル・ド・パリとなっている。
グランカジノは足を踏み入れるだけでも入場料金がかかるという場所。おっと、その前にフォーマルな装いでなくてはならないらしい。入り口前にはフォーマルな装いの東洋人グループがいてこれから中に入ろうとしていた。個人的には東洋人の中でも中国人は賭け事が好きだという印象を持っている。マレーシアのゲンティンハイランドという植民地時代の避暑地にもカジノがあり中国人がこぞって入っていったのを見たし、韓国のソウルにある高級ホテルのカジノも中国人グループが押し寄せていたのを見たことがある。ここモナコのグランカジノに入らんとする東洋人も中国人かもしれない。
グランカジノは外観、内装(見ていないが)の素晴らしさに加え、世界中からお金持ちが集まってくるというのが観光ポイントの一つではないだろうか。訪れたのが昼間なのでドレスに身を包んだ人々の姿はなかったが、わずかな時間でグランカジノ前を通過するフェラーリを5台も見た。フェラーリなんて霊柩車なみに見る機会が少ない車だと思っていたのに!
次にオテル・ド・パリの中に入ってロビーでも見学しようかなぁと思っていたら、回転扉を掃除していた初老の制服姿の男性に「チェックインでしょうか?」と聞かれた。「いえ、見学ですが」というと宿泊者しか中に入れないということで丁重に見学を断られた。やっぱりオーストラリアのスーパーのロゴが入った緑色の不織布のバッグがよくなかったんでしょうかねぇ。丁度その時ご宿泊されている親子が出てきた。パパは黒いパナマ帽に白地に黒いストライプのシャツ、黒いサスペンダーに黒のパンツに黒のエナメルの靴と手にはステッキ、ママは白地に大きな水玉模様の入った60年代風のワンピースにレースのヴェールがついた小さなお帽子。お嬢ちゃんも可愛いワンピースを着てぬいぐるみのような子犬を連れていた。あまりにも完璧な上流階級っぷり。こういう人が庶民の目に触れる場所に出てくるというのもモナコだからというのであれば、モナコに来て上流階級の人を見物するってもの一つのテーマになる。小市民ど真ん中的なテーマでいい感じだ。
モンテカルロでやる事もなくなって、最後にもう一度カルフールでお買い物。カルフールのあるエリアにはグレースケリー后妃の愛したバラ園があるというので足を運んだが、バラってのは季節があることを忘れていた。バラの花は1種類しか花をつけておらず、それも終わりかけていて行った意味はあまりなかった。裏切らないのはカルフールだけさ。というわけでもないが、私たちはここで魚介類を購入してキャンプ場で自分勝手ブイヤベースを作ろうという計画だ。
買い物を済ませて駐車場に戻る道すがら、大きな教会に観光客が吸い込まれるように入っていく。何か有名ですか?と近づくとグレース后妃が結婚式を行った教会だと写真で説明されていた。最後にこんな素敵な思い出の場所を発見できてよかった、よかった。
いやー、モナコは最初から最後までグレースケリーの思い出の香りに包まれた町だったねぇと駐車場カードを支払いボックスに突っ込むと12.8ユーロという駐車料金。うわっ、高い!と思ったのだが結局5時間も滞在してしまったので1時間あたりの駐車料金が高い国だというわけじゃぁなかった。
行く前に予想していたよりは大分楽しめたモナコ。でも、当初の予想通り一番の収獲はカルフールでのお買い物。魚介類のたっぷり入ったスープと白ワインを飲んで、月夜に照らされて銀板のように凪いだ海とオレンジ色の街灯に飾られた岬の風景を見ている方がチップの額をいくらにしようかと頭を悩ませるモナコよりも平和で満ち足りていると感じてしまうのだった。
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