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2008.08.10
サン・ポールとカーニュ・シュル・メール2都市観光
今日は日曜日。本当はヴァンスにマチスのてがけた礼拝堂を見に行こうと思ったのだが、町の観光案内所を訪ねると日曜日で閉まっていると言われた。それじゃぁと通り過ぎてきたサン・ポールに観光先を変更。この辺りには魅力的な町がたくさんあるので、ここがだめならあそことすぐに行き先を変更できるからいい。
ところで、サン・ポール。サン・ポールといえばトイレの芳香剤じゃないか。一体、どんな所やねん。
この辺りには中世にできた丘の上の村がいくつもある。トルコ人、アラブ人などのサラセン人からの攻撃を避けるためにこうした高い場所に村が作られ「鷹ノ巣村」と呼ばれていると「地球の歩き方」の解説にある。中世の趣を残したまま現在に至る村が観光地になっているそうだ。サン・ポールはそんな鷹ノ巣村の中でも特に美しいのだそうだ。
車で村に近づいて行くと、確かに高い丘というか小山の上にこちゃこちゃっと民家が建っているのが見える。あれがサン・ポールだろうと思っていると、道はほどなくぐるぐると山を縁を回って急に上がっていく。
村の中には車が入ることができないようなので村の下の方にある駐車場に停車して見学することになった。
村への入り口は要塞への入り口のように城壁にくり貫かれたトンネルを通る所から始まる。そしてここから既に上り坂となり内部は細い道が上方向や下方向に迷路のようにクネクネと続いていた。一目見るなり「ここは面白い」と感じる。なるほど観光客に人気があるわけだ。幅2メートルほどの道幅の両側には石造りの古い家が立ち並び、各店からは凝った細工の様々な看板が出ている。かつてサン・ポールに魅かれてここに来たボナールやモディリアーニに続けと若いアーティストが作品を置いているのだろうか、店はギャラリーが多く、町並みは中世のたたずまいなのに店の中の作品はモダンアートというギャップが楽しかった。
入り口から出て右へ右へと坂を上がりながら迷路のような村の道を楽しめるようになっている。夏のハイシーズンの今は、この村の規模にしてはとても多くの観光客が来ていて大変な賑わいだ。中世の迷路を多くの人と楽しんでいる雰囲気がまた「夏」という感じでいい。
店はギャラリーの他に穴蔵に入っていくような階段を降りて入るレストランがあったり、センスの良い洋服を売っている店があったりする。その途中に両脇に降りていったり上がっていく階段や坂道が分岐して、その立体感が面白い風景を作り出していた。
やがてメインロードはやや下り坂になり、壁と壁の間にアーチが置かれた場所まで来ると、その先には壁が見えて村の一番終わりまで来たことがわかる。ここから先は断崖絶壁になっていてまさに不落の要塞という感じがした。壁の向こう側を展望できるようになっていて、遥か下に別の村、遠くには山が見えていた。私たちはここからメインロードではなく一本隣の道を戻ってみることにした。
メインロードと違ってこちらは住んでいる人の生活道とでもいうのだろうか、お店はなく民家が並んでいて先ほどの喧騒が嘘のように静かだった。古びた建物に絡まった植物からは夏のピンクの花が咲きこぼれて、昼の強いひざしに輝いて見える。この日差し、この色が芸術家をここに引きつけたのだろうと確かに思わせる風景がここにはあった。
サン・ポール村の外側にはマーグ夫妻が造ったマーグ財団美術館というのがあるので、ここにも立ち寄った。森の中に立てられた美術館はその建物の形も近代建築で面白く、中には日光が柔らかく取り込まれるようになっていて、庭にも大きなミロの彫刻作品などが置かれて自然と芸術が融和した素晴らしい美術館になっていた。シャガールやブラックの作品なども置かれており、コート・ダジュールというのは本当に芸術の宝庫なのだとしきりに感心してしまうのだった。
マーグ財団美術館の駐車場でサンドイッチの昼食を済ませてもまだ午後1時。ヴァンス観光がなくなって時間が余っているので、ルノワールが晩年を過ごしたカーニュ・シュル・メールを訪れることにした。ニースからバスで30分ほど西に行った場所だ。
カーニュ・シュル・メールにはルノワールのアトリエもあるのだが、その前に旧市街にあるグリマルディ城を訪ねようと車で向かった。ところがまだ城に到着しないうちに「これ以降は入れません」と表示。旧市街は山の上にあるのだが、仕方なく山の下の新市街の駐車場に車を停めて徒歩で向かうことになった。傾斜度30度くらいの半端なく辛い坂道をどんどんと上っていくと、やがてグリマルディ城に通じる旧市街のメインロードの入り口に到着。ここから城までも更に坂道を上がっていくことになる。
この入り口には中世のお姫様?の衣装を着けた女性がいて「はい5ユーロね」とお金を徴収しようとする。何?何ですか?聞いてみると、今日は中世時代のお祭りをやっているということで、旧市街に入るのに料金が必要だとのこと。その代わりグリマルディー城への入場料金5ユーロは含まれているので無料で入れますというのだった。ふーむ。せっかく坂を上がってきて引き返すのもなんなので、お城に入れるというし入ってみることにした。
受付の女性に記念撮影を申し込むと、「ああ、写真はもちろん撮ってもいいからね。え?そうじゃなくって、ええ?あたしと?写真を?」と大喜び。素朴な感じの人で面白かった。
向かいからは小さなお姫様も登場。仮装パーティーなのだろうか、と思いながら歩いて行くと城が見えてくるあたりのレストランからは修道員のようなざっくりした茶色の布をまとった大男のウェイターが登場。どうやら、中世の衣装をまとって楽しみましょうという趣向らしい。
お城の前には中世時代の剣をかたどったおもちゃやブリキの騎馬を売るお店や、蜂蜜売りなど中世のような趣向を凝らした出店も出て賑わっている。貸衣装屋さんもあって中世時代の衣装の貸し出しを行っていて、すっかりそこで衣装をそろえた観光客がテーブルを取り囲んで昼間からワインで昼食を摂っている。そこに中世のカッコウでリュートのような昔の楽器を携えた楽団がやってきて演奏会が始まる。かと思うと、劇団員が扮した田舎娘があらわれてお客さんを交えてのショートプレイに人垣が集まる。BGMには中世の横笛の曲が流されて、どこに目を移しても中世の世界が繰り広げられていた。ここも高台にある村なのだがサン・ポールほどに高い場所にはないし、著名な芸術家ルノワールのアトリエは城のある旧市街にはない。ということで、旧市街という中世の器を活かしたイベントをやっているらしかったが、これがとてもファンタジックでいかにもフランスという趣向。お城の中の展示品よりもずっと面白かった。
他にも小さな屋外ステージがあっておっさんの一人語り芝居があったり、ジャグラーが出てきてピンを空中でまわしたりという催しがあったり、高台から少し降りた広場では子供をらくだに乗せられるというイベントも行っていた。何でラクダ?かは謎なのだが、それも中世的な世界の一幕らしい。
期待していなかったイベントに思わずみとれて時間が経ってしまった。そうそう、ルノワールのアトリエに行くんだった。坂を下りて車に向かう。駐車場の料金を支払おうとしたら出口のバーが故障していて無料で出ていいという。いやー、今日は何だかラッキーな日だ。ルノワールのアトリエは新市街といっても車で少しはずれまで行った場所の、さっきのグリマルディ城とは反対側にある丘の上にあった。
駐車場に車を停めて小道を歩いて行くと、お土産物屋さんになっている小さな家があり、その先の大きなお屋敷がルノワールのアトリエ兼住居だった場所。中で入館料3ユーロを支払って邸宅内を見学できるようになっていた。どの部屋も日当たりが良く、ルノワールの温かみのある絵が想像できるような家で、ルノワールの作品も飾られている。しかし、一番印象に強かったのは、丁度開催されていた日本人画家の藤田嗣治展だった。
ルノワールらとこの家で撮影されたものらしい藤田氏の写真も展示されていたのだが、いままでガイドブックなどで「藤田氏という日本人がルノワールらと交流があって云々・・・」という解説を読んでもあまりピンとこなかったのだが、本人の写真を見てしかもルノワール氏の邸宅で藤田氏の作品を見ると、その交流振りが鮮やかにイメージできて、そんな昔に随分と開けた日本人が居たのだということにあらためて驚きを覚えたのだった。
邸宅の見学を終えて庭に出ると、ずっと向こうに先ほど訪れたグリマルディ城が見える。広大な庭には古いオリーブの木がよい感じに多い茂って、ここからの視点で描かれたルノワールの絵も展示されていたりして、庭も楽しめた。
コート・プロヴァンスではセザンヌのアトリエ、コート・ダジュールではルノワールのアトリエ、その間にもピカソ、マチスなど今まで他の美術館でも作品に触れたことのある有名な画家の作品やアトリエを見る機会が多い。「海」「バカンス」のイメージが強かった南仏だが、ヨーロッパの画家の作品にこんなにたくさん出会えるという魅力があるのも素晴らしいと感じた1日だった。
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