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2008.08.09
ニースで海水浴デビュー!
コート・ダジュールのアンティーブに到着し、西側からカンヌ、グラース、ヴァロリス、アンティーブと見てきた。カンヌを除いては小さいながらそれぞれ魅力ある素敵な町だったなぁ。そして今日はいよいよニース。コート・ダジュールと聞いて誰もが最初に思いつく町ではないだろうか。ニースはその名に負けない魅力的な町なのか、それともカンヌのように名倒れの町なのか。
期待と不安を織り交ぜながら、私たちはキャンプサイト前の幹線道路からニース行きのバスに乗った。クーラーのきいた快適な大型バスに1時間も乗って1ユーロという運賃は安い。コート・ダジュールには人が多く集まるので、こうした公共の交通機関がこなれた値段なのがありがたい。
バスはニースの中心地のはずれにあるバスターミナルに到着。コート・ダジュール沿岸の各地から乗り込んだ観光客はここでこぞってバスを降り、それぞれのニース観光に出発することなる。
最初に目指したのはシャガール美術館。この時期、昼からの日差しはかなり強くなるので午前中に町歩きと美術館を済ませようという計画だ。シャガール美術館へはバスを利用するのだが、バスターミナルから美術館行きのバスが走るメインロードまではぶらぶらと散策していった。
生い茂る樹木が作るトンネルには、早くもベンチで長い夏の日を楽しもうという老人が腰掛けている。トンネルを抜けると、涼やかな噴水が出迎えてくれて、雲ひとつない抜けるような青空に向けて白い水柱をあげていた。この噴水の向こうには右手に続くメインロードがある。左手には別の噴水があってメインロードの終了を告げ、南仏らしい赤い壁の建物の向こうに美しく水色に光るコート・ダジュールの海が垣間見えていた。ここ数日訪ねた小さな村に比べると全く違って、周囲の建物は、ヨーロッパのお金持ちがこぞってここに別荘地を建てた名残なのだろう。、遥かに大きくて装飾も豪華だ。南仏のパリという趣、それがニースの第一印象だった。
メインロードに向かって振り向くと、昔ながらのガス灯を模した街灯に混じって銀色のポールが所々に高くそびえ、その上には正座した人や膝を抱えた人の彫刻が乗っかっている。古い建物や緑の公園に混じってさりげなく現代アートが置かれているあたりが、昔からアーティストの心を魅了してきたニースの魂がいまだに生きていることをあらわしていた。古いものは古いままに置きながら新しい息吹も取り入れていこうとする意欲が感じられて、到着してまだまもないこの町だがすでに魅力を感じ始めたのだった。
昔、日本のテレビ番組で美川憲次がニースを訪れて「あら、熱海みたいねぇ」とのたまった場面があったが、熱海と一緒にしちゃかわいそうだ。というか、熱海もこういう新しいゲージツの息吹を取り入れて活性化したら日本のニースになれるかもしれない。
美術館行きのバスはメインロード沿いを走るのですぐにバスに乗れるのだが、もう少しメインロードを散策してみよう。
メインロード沿いには様々なお店が並んで繁華街の様相を呈していたが、この通りは導入で感じた程には魅力がない。フランスの中都市以上にならどこでも見られるチェーン店が軒を連ねていて、特にニースらしいという雰囲気ではなくなっている。アヴィニヨンやエクス・アン・プロヴァンスもそうだったが、得てして車の走るメインロードにはチェーン店が多く魅力が少ない。ニースもまた裏通りや下町により多くの魅力的な点を見つけられることだろうから、メインロード沿いはこんなものだろう。一つだけ朝日を浴びて白く輝くノートルダムバジリカ聖堂だけは際立って美しかったので写真撮影。
こうして散策していたら、シャガール美術館までもう少しという場所まで来てしまったのでそのまま歩いて行くことにした。列車駅を左手に見たら大通りを右折して歩いて行くと「シャガール美術館はこちら」という小さな看板が見える。人しか通れない細い階段と坂を上がっていくようになっていて、シャガール美術館はどうやら丘の上にあるらしかった。時々表示される矢印に従って住宅街の中を歩いて行くと、大型バスが停車しているのが見えて美術館に到着。列車駅から地図上は500m程度に見えるのだが、丘の上まで道を回りこんでいくために少し歩く結果となった。
入場料は一人8.5ユーロと高いが、美術館は新しくて明るい建物で中庭も気持ちよく、シャガールの大きな作品も数多く置いてあるし、館内はフラッシュを使わなければ写真撮影も許可されている。これだけのサービスが含まれているので入場料金に異存はない。
かねてよりシャガールの作品は奇妙奇天烈でよーわからんと思っていた。ここに来たら何かわかるかなぁと思ったが、相変わらず謎の絵だった。ただ、シャガール本人の写真が数点置いてあり、こういう顔のおっさんなら奇妙奇天烈な絵を描くかもしれないという妙な納得はできた。世界中のシャガールファンが訪れているようで、絵画の前で一緒に来た友人に向かって一生懸命に解説する観光客の各国語が聞こえてくる。残念ながら日本人でこれをやってくれている人がいなかったのでわからずジマイだったが、こういう友人と一緒にくるともっと楽しめるのかもしれない。
ここは日本人観光客にも人気スポットらしく、次に行ったマチス美術館にはあまり日本人がいなかったのにここにはわんさかといた。時間帯もあったのかもしれないが、日本人にとってはマチスよりもシャガールの方が人気なのだろうか。私たちはマチスの方が面白いと思うのだが。
シャガールの絵の前で絵の中の登場人物と同じポーズで記念撮影。やっぱり奇妙奇天烈だ。
次に向かったのはマチス美術館。実は「地球の歩き方」に紹介されているだけでもニースには5つの美術館があるのだ。ここ数日訪れた小さなコート・ダジュールの町の美術館がどれも質が高く、気持ちの良い展示方法だったことに感心してニースでもできる限り美術館を見てみたいと思っていたのだった。
マチス美術館は更にビーチから離れた内陸にある。シャガール美術館で行き方を聞くとバスの停留所と番号を教えてくれて、更に「今日はマチス美術館は入館料無料ですからね!」という情報もくれた。何?それはいい!
バス停留所ではすぐにバスがやってきて運転手にマチス美術館に行きたいと告げると、降りるべき停留所で教えてくれた。マチス美術館は公園の中にある館。バスを降りて公園を突っ切って館へと向かうと、入り口でタバコを吸おうとしていた女性が「ちょっと待って!」と声をかけて来た。物凄く細く眉を切り込んで唇の形に濃い紫で輪郭だけを描いて中は何も塗っていないという化粧方法の50歳くらいの女性で、モディリアニの絵に出てくるような顔。彼女自身が現代アートみたいな人で、何ゆえに私たちに声をかけてきたのかといぶかっていると、彼女がこの美術館のフロント係だったのだ。彼女はたばこも早々に私たちと一緒にフロントまで来て「今日は無料なのでそのままお入りください」と形式ばって言うとあとは黙った。アバンギャルドな化粧とは裏腹に律儀な仕事ぶりがまた現代アートみたいで、私たちは密かに目配せし合いながら館に入っていった。こちらは無料ではあるが写真撮影は禁止。従って写真はない。フロント係の彼女と記念撮影でもしておくべきだった。
館内には様々なマチスの作品が見られるが、この後訪れるヴァンスの礼拝堂(マチスが内装を手がけた)のための秀作の部屋など、今までマチスと聞いてイメージする以外の宗教的なテーマの絵があるのがここらしい。晩年の作品は他の場所でも目にするようなカラフルな海草のようなモチーフのものもあり、大胆なカッティングと色使いが現代アートに通じる新しさを感じてやっぱりマチスは面白いと再認識できた。
ここから再びバスで町の中心地に戻る。
下町のあたりに到着したのが既に午後1時半近く。広場では午前中のマルシェを終えて店をたたむ魚市場などがあり、もう少し早く来れば魚のフライなぞにありつけたのになぁ悔やんだ。この市場の前にテーブルと椅子を用意したパン屋さんがあったので、パンを買って持ってきた具をはさんで自前サンドイッチでお昼ご飯だ。下町には15ユーロくらいで昼の定食を食べさせる店がたくさん出ていて観光客で賑わっていたが、食べているものはと見るとムール貝の酒蒸しやズッキーニの花のフリッターなどであまり面白そうでもない。ニースは素敵な建物や美術館も多く、ビーチも素敵だが、観光客が多く集まる場所のレストランは頂けないという感想を持っていることもあり、ニースで外食する気にはならなかった。
もう一つニース近代・現代美術館というのに行ってみたかったのだが、この時間になると日差しがきつく美術館よりもビーチが近いということになると、ついつい足がビーチに向く。ちょっとビーチを見てから美術館に行こうか、うんそうしよう。とこういう時の合意は早かった。港のある下町付近から西方向に向かって長く伸びるビーチ。このビーチにそって続く道はプロムナード・デザングレ(イギリス人のプロムナード)という名称で19世紀に在ニースのイギリス人が出資して造られたんだそうだ。下町から西に行くほど高級なホテルになっていくようで、その最たるものがネグレスコという最高級ホテル。これも元はヨーロッパ貴族の別荘だったそうだ。
ビーチはパブリックビーチとプライベートビーチが交互にあり、思ったよりもパブリックビーチの数が多かった。有料のプライベートビーチにはぎっしりとパラソルとビーチベッドが敷き詰められ、タオルも貸してもらえるようだ。トイレとシャワー設備もあり飲み物も注文すればビーチベッドまで持ってきてくれる。一番安いプライベートビーチはニース市がやっているパブリックプライベートビーチというやや矛盾する名前になっている場所で、そこでも半日12ユーロだったかな。他の高級そうな場所になると25ユーロとか取っている。
コート・ダジュールというブランドビーチで優雅な気分に浸りたいならプライベートもいいだろうが、プライベートっていったって団地のようにぎっしりビーチベッドが並んでプライバシーも何もありはしないし、アジアの海のようにプライベートビーチになると藻やなまこを取り去ってくれるとか、うるさい物売りが来ないという実際的な得点もない。プロムナード・デザングレからビーチを観察しながら、パブリックビーチにシャワーもあるときちゃぁ、私たちにとってプライベートビーチに入る意味がないなぁという判断になった。
それにしてもニースは開放的だ。お金を使いたい人には高いプライベートビーチが用意され、節約派に対しては無料でシャワーも使えるパブリックビーチが用意されている。だから、様々な種類の人が思い思いのスタイルで楽しめる。この門戸の広さが人気にもつながっているんだろう。
ずーっと歩いてみるとネグレスコ側よりも下町の港に近い側が一番海が美しかったというのがわかったが、戻るのも面倒なのでネグレスコホテルの前のパブリックビーチで海水浴デビューすることにした。アンティーブと同じく丸い石でできた海岸は、小石がこすれた粉で乳白青色になった美しい水。アンティーブと違って海岸沿いに瀟洒な元貴族の別荘が泳ぎながら見えるという点でもニースは勝っていると言える。歩いて火照った身体は、海でスーッと冷やされて、再び灼熱に焼かれる気持ちよさ。いやー、ニースはその名に負けない魅力があると思える町だった。
ビーチで気持ちよく過ごしていたらあっという間に午後4時。またバスに乗って帰らなければならないのでそろそろ退却するとしようか。シャワーの水は海の水より更に冷たくて気持ちいい。着替える場所はビーチ。下に敷いていた布を巻きつけて小学生のようにあらよっと着替える。ここでは皆そうしているし、誰も気にしない。
バスが通るはずの道で30分も待っていたのだがバスが来ない。再びバスターミナルまで戻って午後5時のバスに乗り込んだ。自分たちで運転しないので仮眠できるのがバスのいい所。ぐっすりと眠って1時間後にキャンプ場に到着した。ニースはとても気持ちよかったし、美術館もいくつか行きそびれた。今度はニース近くのキャンプ地に滞在してもっとじっくりとニースを楽しみたいと思った。
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