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2008.07.28
カシからカランクへのハイキング
フランス:ラ・シオタ

 キャンプ場のレセプションに置いてあるパンフレットで一番数多くあるツアー案内はカシという町からいくカランクという場所へのツアーだった。

 マルセイユから10kmほど南下した場所から東方向へ私たちが滞在するラ・シオタあたりまで続く海岸線はカランク(calanque 入り江)になっている。入り江といっても単純に海岸線が出たり引っ込んだりして小さな湾を作っているのではなく、氷河期とその後の地殻変動によってリアス式海岸のように水面から高く立ち上がった陸地に所々切込みが入っている地形なのだそうだ。私たちの近い経験でいうとニュージーランドのミルフォードサウンドに近い。

 このカランクへはボートに乗って近づく方法と散策路を歩いて近づく方法があるが夏季は山火事の危険性があるので山に立ち入り禁止になる場合もあるとガイドブックに書かれていた。ボートにしろ散策路にしろ出発地点はカシという町。この町自体も画家や詩人に愛された魅力的な町だというので、とにかくカシ観光、場合によってはカランクも観光しようという日程で出発した。

 カシは地中海からせりあがった斜面にできた町。海岸に近い下の方の駐車場には空きがなかったので坂の上の方の駐車場に車を停めて町へと歩いて降りることになった。

 町の規模は小さく、賑わっているのは海に面した所から通り3本くらいまで。しかしマルセイユと違ってこじんまりとした港にはカラフルな船が並び、港を取り囲む建物は4階立てくらいのローライズでピンクやクリームイエローの可愛らしいパステルカラーの建物が多い。一目見て「きゃー、可愛い!」と気に入ってしまう魅力がこの町にはある。

 海岸沿いの店はレストランが多く店先に出したパラソルの下で早くもブランチを楽しむ多くの人の姿が見られた。プラタナスの並木に導かれて裏手の路地に入ると公園と図書館があり、静かな地元の人々の生活がすぐに始まっている場所もあれば、ひっそりと開いているブティックに意外にも可愛いワンピースがかかっていたりする。田舎町ではあるがフランス人に人気のカシだけあって、食も衣類もレベルがハイセンスになっているようだった。

 港を海に向かって左手に回りこんで行くと、観光案内所があり地図を入手してカランク情報を聞く。すると今日は夏にもかかわらずカランクへの散策路が解放されているというではないか。散策路に行くには、まず車で数キロ離れた散策路の出発地に行き、そこから徒歩で3つのカランクまで歩いて行けるのだそうだ。一番奥のカランクまで行って戻るまでの所要時間は3時間とのことで、私たちは俄然行く気になった。

 でもその前に観光案内所の先にあるビーチに行ってみよう。

 そんなに広くないビーチは湾に囲まれているので波も静かで私たちごのみ。ビーチベッドがずらりと並ぶスタイルではなく、みんな思い思いの自前のパラソルやタオルを広げて楽しんでいるのも気楽な感じでいい。

 そして何よりも水の色が美しい。青く澄んだ魅力的な海の色。

 足元は小さな石なのでベタベタと身体に張り付かず、歩いても痛くない程度でこれも丁度いい。

 いやー、いいぞカシ。

 丁度昼時になっていたので、ここでお弁当を広げて昼食を摂り、暑くなったら水に浸かるという極楽ランチタイムを送った。

 ここでのんびりしていたい気持ちもあるが、この後3時間のハイキングが待っている。私たちは12時半にビーチを後にして、坂を上がった駐車場から今度はハイキングの出発地の駐車場に向けて出発したのだった。観光案内所でもらった地図を頼りに進んでいくと町のはずれ5kmくらいの場所にカランクへの入り口の駐車場がある。おじさんが立っていて「はい。5ユーロください」と徴収された。ここは時間に関係なく一律の駐車場料金らしい。午後から来た私たちにとってはちょっと割高だ。どうせなら朝からここに来るのがいいらしい。

 観光案内所でもらった地図によると駐車場から車を停めて歩いて行くと3つのカランクに行けることになっていた。


 一つ目は駐車場の目の前のカランク・ポール-ミューCalanque de port-miou。その先がカランク・ボール-パンCalanque de port-pin、一番奥がカランク・ダン・ヴォーCalanque D'an Vau。手持ちのガイドブックにはやはり一番奥が一番美しいとされているのでそこまで歩いていくことにした。

 駐車場から歩き始めるとすぐにも左手にヨットハーバーになっている最初のカランクが見えてくる。水の色は周囲の樹木を映した深い緑色で、先ほどのカシのビーチとはまた全く異なる趣だった。

 カランクをずっと回り込むように遊歩道がついていて、半島の先に行くとヨットの数も少なくなり、ぐっと下がった岩場まで下って海水浴を楽しむ人の姿もちらほら見られた。といってもここは浜辺がなくごつごつした岩場か切り立った岩壁。掛け声とともに威勢よく岩壁から飛び込む声が静かなあたりにこだまするような場所だった。入り江の奥に比べると水深が深いためか深い藍色に変わった水も、岸辺近くでは下の白い岩を映して美しいエメラルドグリーン。そのまばらな色合いが周囲の白い岩壁と夏の茂った樹木にマッチしてとても美しい風景を作り出している。

 やがて反対側の半島の先端と自分がいる半島の先端が寄せ合うように見えてくる。散策路はここから急な坂を登って半島の向こう側へと進路を変えて折り返し次のカランクに向かうようになっていた。

 目線があがると最初のカランクの海側半部の全容が見えてくる。ここまでの道のりはどこを歩いても青い海と白い岩壁と緑の樹木のハーモニーが楽しめて実に楽しい散策だ。ただし途中に急な上り坂もあり、なにせセッセと歩いているのだから目は涼しい景色を見ても実際に身体の方がどうしようもなく火照ってくる。持ってきた水を飲んでも飲んでも「あづーーーいいいーーー」とへーへーと舌を出しながら歩くことになる。

 そんな頃に2つ目のカランクが目に入ってくる。しかも1つ目のカランクと違ってここはビーチになっていて大勢の人が海水浴を楽しんでいる姿を見たら、自分もザッブンと海に浸かりたくてたまらなくなるのは当然だろう。

 2つ目のカランクへは高い場所からアプローチするのだが、眼下のビーチに早く行きたくてザックザックと坂を下りて近づくことになるのだった。



 水辺に到着するなり衣類を脱ぎ去り水着になって海に飛び込んだ時の気持ちいいこと!「やったー!」と歓声をあげたくなる気分だ。気持ちのいい景色を満喫して暑くなったら目の前の美しい海に飛び込むことができるなんて、何と素晴らしいハイキングだろう。

 この2番目のカランクは駐車場からの距離も適当ということもあり、ここに腰を据えて1日ゆっくり過ごそうという観光客も少なくないようで、子供連れでお弁当や飲み物をたくさん持ってきて、小さなゴムボートや浮き輪で遊ぶ人々がたくさん見られた。私たちもカシに滞在しているのなら、あるいはこのカランク2回目以降ならそういうこともできるかもしれないが、今回は初めてのカランク。気持ちがいいからといってここで留まるわけにもいかない。

 ザブンと水に浸かって身体が冷えたら、濡れた水着の上にワンピースを着て更に先に進むことにした。

 ビーチからは再び坂を登って2つ目のカランクの東側の半島へと入っていく。左手には2つ目のカランクが見えているのだが、ビーチから離れて海に近づいた場所がまた美しい。ここには徒歩ではなくカシからボートを借りて来ている人が船から海に飛び込むという贅沢を楽しんでいた。確かにビーチに比べるとこちらの水の方がもっと澄んでいて美しい。いやー、いつかやってみたいなぁ。

 3つ目の半島はコースが2手にわかれている。1つは半島に北側を直線的に歩くコースと、もう一つは3つ目の半島に下ってVの字を描いて3つ目のカランクに向かうコース。私たちは折角なのでVの字に半島を歩いて行くことにした。3つ目の半島を南に下って歩いて行くと、2つ目のカランクの向こう側に1つ目の半島、そしてその向こうにカシの海が見える。カランクの入り江が入り組んでいる様子が見渡せる素晴らしい風景だ。


 この景色を楽しみながら歩き進み、Vの字の一番下まで行って折り返すとすぐにも最後の3つ目のカランクが目に入ってくる。

 3つ目のカランクの入り口はとても深い青色をしている。この青いカランクから散策路は一度半島の内側に入って海が見えなくなり10分後に再びカランクが見えた時にはアッと驚くエメラルドグリーンに変わっていた。これが一番美しいと言われるカランクかと納得する海の色だった。海の色だけでなく、その幅の狭さ、同じ幅で進むカランクの美しさ、幅が狭い故に切り立った白い岩壁との対比の美しさが際立つ点において、他の2つのカランクとはまた違う魅力のあるカランクだった。

 ビーチにいる人の数は2番目に比べるとまばらだったが、それでも私が予想していたよりはかなり多くの人がここに海水浴に訪れていた。早くも身体は火照り、あの美しいエメラルドグリーンの水に身を浸したくてたまらない気分なのだが、2番目のカランクのようにビーチが見えたらすぐに岸辺に下りていけるという甘さがないのも、この3つ目のカランクの特徴だ。散策路はここからカランクの岸辺のずっと奥まで連れて行かれ、そこから奈落の底に下りるような急斜面を下って、ビーチの全貌を上から見下ろした地点から30分も歩かないとビーチにたどり着けないのだった。

 午後1時11分に駐車場を出て歩き始め、3番目のカランクのビーチに3時30分に到着したので2時間19分かかっている。全部で3時間の行程だと聞かされていたのに、途中で写真を撮ったり水に浸かったりしていたので時間がかなりかかってしまったようだ。帰りは寄り道しないで歩くとしても1時間半はかかるだろう。私たちはビーチを去る時間を4時15分と決めて楽しむことにした。

 ビーチは細かい石のビーチなので水の中で砂が巻き起こらない分、2番目のカランクよりも美しく澄んでいる。2番目のカランクではビーチから離れないと見られなかったエメラルドグリーンの美しい水が、ビーチ際で再現できているのが3番目のカランクだった。地中海は今まで体験した海に比べると塩分濃度が濃い気がする。ここも例外ではなくよく浮かぶ。プカリ、プカリと浮かびながらハイキングで火照った身体が冷えていく快感を味わえるのだった。

 カシからは大型のクルーズ船によるここへのツアーも出ている。カシから3つのカランクをまわって45分で戻るというものだった。小型ボート貸切よりも値段が安いためか人気があるのだが、大きな船なのでこのカランクの奥には入ってこられずにビーチからかなり遠い場所で引き返す。ビーチ際の美しい景色が見られないこともさることながら、今日のような海水浴に最適の日に船の上から指を加えて他人の海水浴を見せられるのはさぞや苦痛だろう。まぁ、苦労してここまで歩いて来た人のみ優越感が感じられるという意味においても、ここのビーチは余計に気持ちがよくなるのであーる!

 それにしても水は冷たい。あまり長く水に入っていることもできないので、入っては身体を甲羅干ししてまた入る。そんな事を繰り返しているとすぐにも出発の時間となった。

 ビーチから裏手の断崖絶壁に向かう道が続く。来る解きは絶壁を背にウキウキとビーチに向かっていたのであまりまともに見ていなかったが、向かい合ってみるとなかなかすごい絶壁だ。この絶壁の一部に傾斜する坂道があり、そこから絶壁の一番上まで登っていかなければカシまで帰れない。

 午後4時を過ぎた今頃になってビーチに向かうという人は「これからビーチに向かってこの坂を登るのか」と覚悟を決めて口を一文字に結んで降りて来ているし、ビーチまでボートで送ってもらって帰りは歩くという人だろうか、この絶壁に初めてぶち当たって愕然と見上げる人もいた。所々では両手を使ってよじ登るような場所もあり、軽い気持ちでクロックスで歩いていた私は足元もグラつくしなかなか大変だった。スニーカーで来るべきだった。

 坂と格闘すること13分。やっと絶壁の上に到着。ひょー、疲れた。ここからは来る時とは違って半島に付け根を東西に走るショートカットの道を歩くととても楽に2番目のカランクに到着。あっけない程だった。2番目のカランクからは来る時に使ったのと同じ道しかないのでそこを歩くことになるが、こちらも半島の先をぐるっとまわるコースに行かないので案外簡単に1つ目のカランクに到着する。

 ということで帰りは3つ目のカランクから、途中で休憩を入れても駐車場までは1時間15分で戻ることができたのだった。それにしても予想以上にアップダウンもあったので私たちと同じ行程を歩くのならスニーカーを履いていった方がいい。ただし、カランクのビーチは砂ではなく石なのでクロックスを持っていくとビーチで便利。水着も着ていって正解だった。シャワーはないが濡れた身体は歩いているうちに乾いてくるので問題ない。気持ちが悪い人はカシまで戻ってカシのビーチでシャワーを浴びるという手もあるだろうがフランス人は皆海からあがってざーっとタオルで拭いてそのまま家に帰るようなので、ここは一つフランス人になったつもりで楽しむのも一興ではないだろうか。

 今回は運良く、夏の時期にもかかわらずハイキングができて本当によかった。次回はボートを借りるか?いや、ここは歩いていくのが気持ちいいんだろうなぁ。


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