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2009.06.21
モンセラットで思いっきり歩く
バルセロナから北西50km、標高1236mのモンセラットに修道院がある。カタルーニャでも有数の修道院だということと、岩山に囲まれた中にあるという特異な地形から外国人観光客にも人気のある場所だ。
数日ぶりに天気が回復した今日、私たちも車でモンセラットを訪れることにした。シッチェスからは車で丁度1時間でモンセラットに到着だ。修道院のある頂上に行くにはふもとから新しい登山電車に乗るか4km手前からロープウェイに乗るか2つの方法がある。ロープウェイの老朽化したたたずまいに比べて登山電車はピカピカのおニュー。一人往復EUR8と同じ値段でしかもどちらも駐車場無料とあれば新しい乗り物に乗ってみたい。ということで私たちは登山電車を選択した。
登山電車はよくある電車内通路が斜めになったタイプではなくて、普通の電車のような形。傾斜もそんなにきつくなくて山の端に作られた斜面をどんどんと上っていく。目線が上がって周囲の景色が開けていくのが面白かった。ロープウェイは短い距離なので所要時間が少なくて岸壁が目の前に迫るので迫力があるのが魅力だとロープウェイチケット売り場のおじさんが言っていた。どちらもそれぞれに良さがあるようだ。
そうそう、登山電車のチケット売り場には単モンセラットにある博物館入場料金との抱き合わせ、モンセラット頂上近辺で上下しているフニクラ料金との抱き合わせ、果てはモンセラットでのレストランビュッフェとの抱き合わせチケットなどは掲示されているのだが純往復チケットの価格が掲示されていないので、書かれていないからといって臆せずに「単純往復チケットをください。ポルファボール、ヌア、イダ イ ブエルタ」と言おう。
電車を降りて修道院の目の前まで行くと、もっこりもっこりした奇妙で巨大な岩のディテールが見え、その前に立派な修道院がある。今日は修道院の前でサークルになって鳴り響く鐘に合わせて抱き合ってキスしている集団がいた。以前、エジプトのピラミッド近くのちょっと隠れ家的な寺院にたどり着いた時、ピラミッドパワー信仰者の集団に出くわしたことがあるが、これもそういう類なのかもしれない。圧倒的な自然の中に人工の建物があるとても不思議な光景に誰もが息を呑むのだから、こういう人々が集まりたいと思うのもある程度納得がいく。
今日は日曜日、修道院の中はミサ中で大勢の人々が訪れていた。もっとも後ろの方の大半が観光客で「ミサ中は出入りしないでください」という注意書きにも関わらずひっきりなしに出入りする連中だった。
なるほどねぇ、これがモンセラット。
修道院目当てで来たお年寄りならば、ここで修道院を見てお土産物屋でも冷やかして、レストランで食事して帰るだろう。しかし、今日ここに来た目的はズバリ「ハイキング」。モンセラットの周囲の山々には整備されたトレッキングルートができていて、山下のインフォメーションでトレッキングルートの地図をもらっておいた私たちは、さっそくハイキングに向けて出発したのだった。
インフォメーションでもらえる地図はこの1枚。簡単なルートが書いてあって、裏面にはルートについての難易度や見所や所要時間が書かれている。私たちはモンセラットで一番高い1236mのSant
Jeroniを目指したいと思っていた。修道院のある場所から赤い矢印で250m上がった場所へフニクラが出ているが、せっかくだからフニクラの高さまで4番のコースを迂回して歩くことにした。
修道院から20分くらい歩くと全景が見える場所にくる。この景色を見るだけでも歩いた価値があるってものだ。
この辺りにも人が集まっていて皆で賛美歌のような曲を歌っているのだが、人々が取り囲んでいる彫像をよく見ると先日訪れたばかりのカザルス氏がチェロを弾いている彫像だった。カザルスを囲んで何をしているんだろうか?
やがて4と5の分岐点までやってきた。4はここからフニクラの駅まで急勾配の上り坂、5はやや下りの緩やかな道だ。あまりちゃんとした表示がなかったのでこの急勾配が本当にフニクラの駅に通じているのか心配だったのだが、丁度4を下ってくるカップルがいたので聞いてみると確かにフニクラの駅に通じているというので、安心して上り始めた。昼前の強いひざしを受けての約30分間の上りっぱなしはかなり厳しかったが、ぐいぐいと標高があがるので背後の景色が振り返る度にみるみる変わって「よしよし、成果が出ているゾ」と確認できるのは嬉しい。12時13分にややへたばりながらフニクラ駅に到着。ここにはフニクラで楽々と登ってきた涼しい顔の観光客がたくさんいた。ここで持参のサンドイッチをぱくつく。
フニクラ駅から5のコースを20分行くとSant Joan hermitageがある。当初の予定には入れていなかったが、フニクラから降りてそちらに向かう人が多いので私たちも行って見ることにした。途中、左手に地層が立ち上がったような景色が谷を作り出し眼下に開けている光景が見事。次の曲がっていく道の先にはもっこり岩が3つ。連なった3つの一番左側に教会のような建物と岩の中腹に細長く切れ込みが入っている場所が見える。ハーミテージhermitageとは「隠者の住居」という意味なので、あそこがそうなのだろう。あの細い切れ目のような場所はどうなっているのかと思うと急ぎ足になる。
到着してみると、切れ目の部分まで上がっていけることがわかった。この巨大な岩の窪みを利用して細長い回廊にして人が歩けるようになっている。というか修行のためにここに暮らしていたということなのだろう。そりゃぁ大変だったろうなぁ。
回廊をずっと先まで歩いて行くと下に下りていける細い獣道がある。先を歩いていた若いカップルは無理無理と引き返してきたが、全然無理ではなく普通に歩いて降りられてフニクラ駅までは近道。どうして行かないかなぁ。
寄り道だと思って行ったSant Joan hermitageは結構面白かった。
さて、本線に戻って山頂を目指そう。ここからはもっこり岩に取り囲まれた道を歩く。今までは遠めに見えていたもっこり岩群が目の前に迫って見えるのだからかなり面白い。ガイドブックには「妊婦さん」「ミイラ」「ゾウ」「死人の頭」などと名づけられた岩があると書かれている。これがそうか、あれがそうかと想像しながら歩くのは楽しかった。
途中、岩山と岩山の間に小さく出発地点の修道院が見える。これを見ると随分上がってきちゃったなぁというのが実感できる。これをもっと登って再びあそこまで戻るわけですから先はまだ長い。更に歩いて行くと帰り道との分岐点に到着する。1149m地点と書かれたたて看板にはSant
Jeroniまで10分とありかなり救われた気分になる。ここまでの最後の15分くらいもかなりきつい登り部分があったからだ。
10分後に最後の階段のふもとに到着。看板はほぼ偽りなかった。ただこの見上げるような階段のことについて言っていないだけだ。「もう疲れたよう、無理だよぉ」とぐずる子供達と一緒に手すりにへばりつきながら登る。君達もよく来たねぇ。こうして1236mと書かれた展望台にようやく到着したのは修道院を出発してから2時間45分のことだった。
頂上は360度何にも遮られることなく景色を楽しめる最高の場所だが、一番インパクトがあったのは足元の岩から一番下までストーンと見下ろせる場所があることだ。あまり見ているとゾクゾクしてくる。
山頂の涼しい風に吹かれて達成感に酔いしれるひと時。あー、良かった、良かった。ハイキングの醍醐味だなぁ。
もっとここでゆっくりしていたかったのだが、手持ちの飲み水が枯渇しつつある私たちは一刻も早く下山して水分補給したい気持ちで一杯だった。頂上滞在5分くらいで下山開始。もっと飲み水を持ってくるべきだった。
下りは楽となるとよく目も見えてくる。岩山から独立して立つ岩に妊婦さん、あざらし、太ったスヌーピー、右向きの陽気なおじさんなど勝手に命名しながら歩いた。
分岐点から今度は来た道の北側のパスを選んで歩く。こちらの道は傾斜がきつい分距離が短い。森の中を通るので涼しいが景色としてはあまり面白くなかったので修道院に戻る下りパスとして使うのはピッタリだ。インフォメーションに事前に好ましいルートを聞いておいてよかった。
修道院のある場所までは1時間ちょっとで下ってこられた。すぐに自動販売機でコカコーラを買って一気に飲む。ビールジョッキを傾けたい所だが、車で来ているのでそれは無理。今夜のお楽しみとしよう。
モンセラットで見ていない場所はあとは土産物屋くらいだ。帰り際にちょっと土産物屋をのぞいてみた。
びっくり。
チョコ、オリーブオイル、クッキー、ワイン、はてはぬいぐるみまで全ての商品のパッケージに「モンセラット」の文字が入っている。この土産物屋は日本人がコンサルタントしたのかと思うほど、日本の地方のドライブインを思い起こさせて笑ってしまった。これでモンセラットまんじゅうがあれば完璧だったのに。
こうして午後4時に下り電車にのって、ドライブしてキャンプ場まで戻ってきた。
キャンプ場の売店のシエスタ明け開店時間は午後5時。この時間ぴったりに帰って来た私たちは、取る物もとりあえず売店に駆け込んで一番奥でキンキンに冷えたビール1リットルを購入。
ちゃっちゃとおつまみを出して飲んだビールの旨かったこと。今日1日はこの一口のためにあったと言っても過言ではない。
モンセラットについて他の日本人バックパッカーは「まぁまぁ面白いけど、そんなに面白いってわけじゃないな」と評価していたのを聞いていたが、これだけたっぷりと歩くと達成感があってかなり満足な一日になる。せっかく行くのだから修道院だけでなく山を歩き回ることをおススメする。ただし水は一人1.5リットルは必要だ。
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