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2011.07.22
キャンプ場のシステムと格闘
イギリスに入って最初のキャンプ場は私達の手持ちのガイドブックに掲載されているイーストボーンにあるキャンプ場だった。
キャンプ場でチェックインしようとすると、Camping&Caravaning Clubのメンバーかどうかを聞かれた。このキャンプ場はCamping&Caravaning
Clubという組織に加盟していて、メンバーではない人が宿泊する場合は一泊あたり7ポンドの追加料金が必要になるという。そもそも一泊が24ポンドする上に(フランスじゃぁ24ユーロくらいだったので、それだけでも割高な感じがしている)、7ポンド上乗せされると非常に高い料金になる。
うーむと渋い顔をしていると、受付の女性は畳みかけるように「ここで3週間有効の20ポンド会員になれば、このキャンプ場から割引が適用されるので、ここで2泊、あと他で1泊したらもう元が取れるということになります。会員になると、例えば次のキャンプ地の予約を現在のキャンプサイトで行うこともできて大変に便利です」という。
一度テントに戻って、もう一度ガイドブックを見てみると、私たちのガイドブックにはこのCamping&Caravaning
Clubのキャンプ場がかなりの頻度で紹介されている。頼りになるのはこのガイドブックだけだと、この時は思っていたので、これから先もこのグループのキャンプ場を使わざるを得ないようだと判断して会員になることにしたのだった。
因みにここのキャンプ場にはもう一つ曲者なルールがあって、到着してメンバーかどうか聞かれるのと同時に「一泊で電気が使えないのと、二泊で一泊あたり同じ料金で電気が使えるのとどちらにしますか?」という質問がされる。ヨーロッパから来たオランダ人、ドイツ人、フランス人のキャンピングカーの人たちは追加料金を支払うから一泊で電気を使いたいと言っていたが、そういう選択肢はないと拒否されていた。皆、このおかしな質問に戸惑いながら「それでは二泊します」と答えている。つまり、半強制的に二泊させるしくみになっているのだった。にこやかに丁寧に対応しているから、尚更怖かった。
さて、初日に会員になり、2日目の今日は明日移動する先のポーツマスのキャンプ場の予約をしてもらおうとレセプションで調べてもらうと、ポーツマスのキャンプ場はすでに予約で一杯で無理だと言われた。嫌な予感がして、その先3ヶ所くらを調べてもらうと全てが既に予約されて一杯だという。会員になった意味がないではないか!
「この時期は夏休みと重なって大変に混んでいますからねぇ」と女性はすまなそうな顔をして言うのだが、すまなそうな顔をするくらいならこの時期の会員セールスは控えたらどうなんだろうか。すっかり、騙された気分になった。
計画を大幅に変更して、本来は通過だけしようと思っていた場所を調べてもらってようやく空きを見つけたのだが、どうにも気が進まなくて現地に行ってから考えることにしたのだった。
これからも、私達はこのシステムにイライラさせられっぱなしだった。例えば、ポーツマスでCamping&Caravaning
Clubとは関係ないキャンプ場に宿泊した後に、「空き」があるというソールズベリーのキャンプ場に到着した。時刻は午前中だった。受付に行くと「チェックインは正午以降ですのでお待ちください」という札がかかっていて、敷地内に入ることすらできない。フランスの場合、午後2時から4時までシエスタでレセプションを閉じるキャンプ場も多いが、その場合は勝手に入ってテントを立ててしまって、レセプションが開いたらチェックインの手続きを取れる所がほとんどだった。だから、宿泊者側に時間のロスがない。ところが、こちらでは宿泊者を待たせるのだ。
次に行った場所はCamping&Caravaning Clubのキャンプ場リストに掲載されていなかったので受付で宿泊費を前払いした後に、ここがメンバーであり会員証を提示すると会員料金で宿泊できることに気付いた。そこで支払った後にレセプションで「実は会員だったので料金の変更を願いたい」と言うと、一度支払った宿泊費の変更は不可能で事前の申告時にのみ会員料金が適応されると言われた。そういうのって、とても嫌らしい感じがしてまたもや不愉快な気持ちになった。
もう本当に嫌になってきて、こうなったらガイドブックに頼らずに町の観光案内所に車で乗り付けて、そこで情報を得たキャンプ場に行こうという作戦に変えた。するとCamping&Caravaning
Clubと同じくらいの料金で、会員費を払わなくても宿泊できるキャンプ場がたくさんあるではないか。あーもー、やられた。
更にこのクラブに加盟しているキャンプ場では、火災に関するレギュレーションが厳しくて、「テントとテントの間はかならず6mの間隔を開ける」というルールを宿泊者に守らせるのにどこも躍起になっていた。私たちはあまり問題がなかったのだが、隣に来たオランダ人のキャンピングカーが、このルールを守ろうとすると土地の傾斜が激しすぎてキャンピングカーが傾いてしまう。キャンピングカーはこういう時のためにタイヤの高さを調節して水平を保つようにしているのだが、あまりに傾斜が激しくて調節できないほどだった。指定された向きではなく、キャンピングカーを90度回転させた向きなら水平になるのでそうさせて欲しいとオランダ人が言うと、キャンプ場管理者はそれでは隣との6mの規則が守られないから絶対に譲れないと言い張っている。結局、オランダ人はかなり傾いた生活を強いられることになった。夫妻とちょっと話をしたが、「ヨーロッパじゃ考えられない融通のきかなさだ」とため息をついていた。
更に更に・・・。私達は食料の管理をクーラーボックスと保冷剤で行っていた。キャンプ場で保冷材を凍らせてもらっている(大概はキャンプ場併設のレストラン・バーあるいは店の冷凍庫で)。スペイン、南仏、イタリアを回った時には保冷材を凍らすのはほぼ無料だったが、今回フランス北部を巡って有料と言われたケースがいくつかあった。そんなに冷やす必要がない緯度だから贅沢とみなされているのかもしれない。だから、イギリスのキャンプ場で冷凍設備がないから、併設のショップに聞いてくれと言われた時もさもありなんと理解した。
そして、太ってやる気がなさそうなイギリスおやじが「保冷剤一個につき0.5ポンドもらうよ」と言ったときも、仕方なしと納得した。
しかし、そのおやじが「んでもって、保冷剤一個につき1ポンドのデポジットをもらうよ」と言った時についにブチっと切れてしまった。だってですよ。私が私の保冷材をおやじに預けるのに、どうして私がデポジットを支払わなくてはならないのかサッパリ理解できなかったからだ。デポジットをもらいたいのはこっちの方でしょ?全く意味のわからない請求を聞いて、テントに戻って「どうだった?」と呑気に聞く夫に、憤然と「もうここでは一切保冷材はなし。生鮮食品は食べられないと思ってください!」と答えたのだった。鼻息荒く怒りながら事情を説明すると、夫もいきり立って、二人で鼻息を荒くしながら「あのおやじ、おかしいじゃないか」と文句をたれたのだが、英語ネイティブに正面切って対抗するほど気力がない二人でもあった。
とまぁ、こんな感じでイギリス滞在中にこのクラブのキャンプ場を利用した時には必ずといっていい程、不愉快な出来事が持ち上がってきた。総合的に考えるとシステムが悪い。働いている人はルールに忠実に従って運営しようとしているだけなので仕方ない。イギリス人というのは礼儀正しいし、笑顔を絶やさないし、軽いジョークで笑わせようとしてくれたりして、そういう点では時に無愛想なフランス人のキャンプ関係者よりもずっと人あたりがよかった。
しかし、キャンプ場のシステムがキャンパーが気持よく過せるようにというよりは、キャンプ場運営者が気持よく運営できるために作られたルールばかりという印象が否めなかった。
そこで思いだしたのが日本のサービスだった。日本のサービスは世界の中で本当にレベルが高いと、日本を訪れた外国人が会うたびに褒めそやしてくれる。しかし、私たちのように余計なサービスはいらないから低価格で高品質を求めたい傾向にある場合には、過剰包装で商品を買う事や、無料でおしぼりやお茶が出されるレストラン、ツアーにおいては食べたくもないシーフード食べ放題が組み込まれた市内観光など、「お客様のために」という大義名分をかかげて客単価が上がる傾向を苦々しく思う事もある。それはまさに、「お客様のため」というよりも、自分達の利益確保のためというのが見え隠れするからだ。今回のイギリスのこのキャンピングクラブもそういう感じがとてもして、窮屈だったし、不愉快だった。
求めてもいない過剰サービスや会員制による囲い込みに対して、ヨーロッパの大陸はもっとアレルギー反応を示すだろうから、フランス、スペイン、イタリアのキャンプ場ではそういう事がなかったのではないだろうか。そういう意味ではイギリスと日本、やはり島国で似通った考え方になるのだろうかと思った。
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